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第49話 彼女の部屋

 食事を終えて、俺はそろそろ帰るかと思い、準備をしていると……


「いっちゃん。せっかく来たんだから、もっとゆっくりしていきぃ。しずかの部屋で、遊んでおくとええ。フルーツでも切ってやるから」


 なんか、示し合わせたかのように、援護射撃が飛んできた。しずかは、苦笑いしている。でも、その笑顔は嬉しそうだ。


 ※


「なんか、落ち着かないな」

 数年ぶりに入ったしずかの部屋は、女の子らしくなっていた。いい匂いもする。ピンクを基調とした部屋は、綺麗に整頓されていて、机の近くにあるちょっとごついパソコンとオーディオが違和感をかもし出している。配信者と知らずに、この部屋に来たら、絶対にこの机周りにビックリするはずだ。


「そうなの? 昔はよくここでゲームしたじゃん」


「数年ぶりに入ると、めちゃくちゃ女の子の部屋になっているんだもん。化粧品とかあるし」


「そりゃあ、私だって高校生だもん。それに、スタジオとかお仕事で行くんだよ。ちょっとは、オシャレしないとスタッフさんやみんなに笑われちゃうよ」


「幼馴染の女の子が、いつもの間にかすごい遠いところに行ってしまったみたいだ」


「最初に遠いところに行っちゃったのは、センパイの方じゃない?」

 含みのある笑顔で、しずかは笑う。


「……俺は遠くに行った覚えはないぞ」


「なら、私もずっと先輩の近くにいますよ?」


 俺たちは、少しだけ意地を張ってそう主張し、それがバカらしくなって、笑い合った。お互いに成長していく相手にちょっとした焦りをおぼえているだけなのだ。結局、何年も一緒に過ごしているからこそ、考え方も似てきているのだろう。


「ほら、柿持ってきたよ。じゃあ、ごゆっくり……」

 ばあちゃんは、皿にのせた柿をおいていそいそと出ていく。思い出の柿だ。近所の人が庭で作っていて、持ってきてくれる。一緒に食べる定番のおやつの1つだった。


 俺たちは、柿を1つほおばる。良く熟していて、渋みなどほとんどなくただ、まったりとした甘さが口の中に広がった。


「ねぇ、センパイ?」


「ん?」


「この部屋に、いま、ふたりだけですよね」


「あっ、ああ」


「カラオケとかじゃないから、誰にも邪魔されませんよ」


「……っ」

 なんて顔をしているんだよ。頬を染めて、うるんだ目でこちらを見てくる。定番のおやつとの対比が、なまめかしい。


「襲ってもいいんですよ? ううん、こういったらヘタレな先輩には、うまくいかないから。どうして、襲ってくれないんですか?」


 今日、何度目かわからない理性への挑戦が始まった。

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