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第42話 カラオケに向かう二人

 駅前に到着するまで、約10分。さすがに、駅前は人目が多いから、二人乗りなんかしていたら、すぐに警察に怒られてしまう。だから、駅が見えてきたら、少し早めにしずかをおろさなくてはいけない・


 荷台に乗っている後輩は、まるで小動物のように、俺の腰に捕まっていた。

 柔らかな胸の感覚がすごい。語彙力を完全に失うほどの刺激の強さに、目の前がきらきらして見えてくる。おいおい、なんだよ、この現象。これがラブコメ最強シチュエーションベスト5のひとつ「二人乗り自転車」の魔力……


 ちなみに、あと4つは……


・浴衣でお祭りデート(はぐれないように手を繋ぐ)

・海でラッキースケベ

・ホワイトクリスマスの聖夜(意味深)

・バレンタインデー


 だよな? 異論は認める。ちなみに、ギャルゲーならここに卒業式のあとの約束の木の下でイベントとかもあるけど……


 この5本イベントを揃えたら、絶対に幸せになるといういにしえの伝説があるとかないとか……


「ねぇ、センパイ?」


「ん?」


「さっきから、わざと遠回りしていますよね?」


「ん??」

 口調に?マークを増やして、なんとか誤魔化そうとしたが、やはり無駄だろうな。


「そんなに、私の胸の感触を堪能したいの?」

 運転しているから見えないけど、おそらくかなりのジト目でにらんでいるはずだ。


「ソンナコトナイヨ」


「嘘つき」

 その言葉とは正反対の行動を示す後輩に、やはり俺はドキリとする。しずかは、さらに胸を強く俺に押し当てた。


「あの、当たってますよ」


「さっきからずっと当ててましたけど?」


「まさかの、あててんのよ!?」


「そりゃ、そうなるでしょ。二人乗りなんだから」


「おい、しずか。俺だからいいけど。こんなことを他の人にするなよ。一発で勘違いする」


「なんですか。何度かデートしたくらいで、彼氏面ですか? 意外と独占欲強いんじゃないですか、センパイ。しませんよ、こんなに恥ずかしいこと……」


 その口調には、「あなただけしか見せたくない」や「あなたにしか興味はない」のようなニュアンスが込められている気がした。どうしようもないくらいその言葉に浮かれる自分がいる。


「ならいいけどさ」


「センパイも優しいから、私以外の女の子にこんなに優しくしちゃダメですよ。それは私だけの特権だからね?」


「それこそ、彼女面じゃん」

 そして、俺たちは笑い合う。そして、どさくさに紛れて、俺はもう一つ遠回りをするために、十字路を左に曲がった。


 たぶん、しずかはそれに気づいて苦笑いしているはずだ。

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