第43話 カラオケ
駅についた俺たちは、名残惜しそうに自転車を降りた。憎いのは、道路交通法という国家の罠だ。いや、確かに大事な法律なのはわかるんだけどさ。人の夢は終わらないとばかりに、ラブコメの夢を叶えるためには、この法令が一番の難関になる。というか、駅前で交番も近くにある最強の要塞の前では、ささやかな高校生の青春の夢も折れてしまう。
「はぁ」
本当に世知辛いよな、この世の中は。我、高校生にして、人生の辛苦を知る。50歳までに天命を知るまで、どこまで悟れてしまうんだろうな? まぁ、推しがいればそんなこともどうでもよくなるけどさ。
「センパイ、そんなにがっかりしないでくださいよ。私との二人乗り、そんなに楽しかったですか?」
「うん、とても」
「正直すぎますね。いやらしい顔しちゃって……」
「そ、それだけじゃねーし」
「ふーん?」
「ごめんなさい。正直に言うと、体が密着して、めちゃくちゃドキドキしてました」
いや、正直に言うと、最高だったけどさ。でも、正直すぎてもね……
「そんなに私の体好きなんですか?」
「言い方!?」
周囲にはたくさんの人がいる。そんないい方されると周りの視線が痛い。
「まぁ、いっか。減るもんじゃないし」
「ずいぶん、さっぱりしてるな。こっちはずっと変な汗かいてたんだぞ」
「えー、センパイ。汗臭いのちょっと……」
「それは、リアルに傷つく反応だから、やめて」
今日のしずかはキレッ、キレッだ。
「でも、いいんですか? あんな大きな夢を語ったのに、遊びに行くところが近くのカラオケとか?」
「いや、そうなんだけどさ。高校生と言えばここじゃん?」
手軽に行くことができて、時間もたくさん使える。さらに、大きな声を出しても怒られないし、ドリンクバーや軽食も食べることができる。値段も手ごろだ。高校生と言えば、カラオケみたいなところはあるよな。
それも、俺の目の前にいる後輩は、人気Vチューバ―の中の人。歌枠で、ファンをメロメロにさせている本物だ。ある意味、最高の時間じゃないのか?
「まぁ、そうですけどね。じゃあ、私は歌枠の練習も兼ねちゃいますよ。いいんですか? せっかく、ふたりきりなのに……」
「いや、それご褒美だから!! 俺たちファンにとってはさ」
「もう、しょうがないなぁ」
ちょっとだけ、エチチな声だったが、あえて突っ込まないようにした。なんとなく、押しに弱い女の子感があって、助かる。
「でもね、センパイ?」
「ん?」
「いくら、カラオケの個室だからって、エッチなことはしちゃだめだよ? それだけは約束してね」




