830.魔女の弟子と動く戦局
戦況はアド・アストラ軍に傾いている。真正面から攻めてくる数百万の大軍勢、奴らが行ってきた電撃的な攻撃はマレフィカルム達を混乱させ、ろくな対策を立てることも出来ないまま、瓦解させたと言える。
いや、そもそも分かっていたのだ。ゴルゴネイオンのみではアド・アストラ全域を相手にして勝ち目がないことなど。
だからこそ、初手で決めたかった。初手でビスマルシアを確保したかった。
まず、この黒帝城フォルミカリウスをアルクカース国内に送り込む。この城が出現するには周囲を確保する必要があり、奇襲攻撃にて周辺の街を制圧し、そして出現したフォルミカリウスから全体の半分以上の黒釘城を射出。一気にビスマルシアを陥落させる……つもりだった。
その全てが瓦解したのが、あまりにも予想外とも言える敵の対応の速さ。ラクレスが常軌を逸したスピードで気がつき、荒唐無稽な予測を聞いたベオセルクがそれを疑わず防備を固め、援軍到着まで持ち堪えるだけの時間を奴らに与えてしまった。
そこからダアトの策略や十天魔神達による奮闘があったものの、正直言って焼石に水。敵はまだ総戦力の半分も出していないのにこの有様。
「ふぅ〜〜……」
フォルミカリウスの最上階、薄暗い部屋の中、目を閉じて配下達の奮戦を感じる。今の状況に驚きはない、寧ろ初手が挫けた時点で覚悟はしていた。いや、もっと前からだ、魔女排斥組織を率いていくと決めた時からこう言うシチュエーションは警戒していたのだ。
「イノケンティウス様」
「ホプキンスか」
背後に立つ、長きに渡り私を支えてくれた男。『第三星神』ホプキンスが余に向けて頭を下げる。
「では、お先に失礼します」
「……ああ」
ホプキンスはただそれだけを言って、手に斧を持ち、鎧を身につけ部屋を出ていく。律儀な男だと髭を撫でる。全く敵は恐ろしい、だが恐ろしくなくてはならないのだ。
そもそも我々は格下であり、敵は格上である。その構図がなければマレフィカルムは成り立たない。
「シクトゥスよ、余は間違っていなかっただろう」
クツクツと笑う、シクトゥス……我が父にしてゴルゴネイオンの先代神王の名を呟く。彼は些か血の気が多すぎた、我が父ながらあまりにも世情に疎すぎた。魔女大国と本気で戦争が出来ると考えていた。
だが余はそれを幾度となく止めた。理由は単純……こうなるからだ。
「だがシクトゥスよ、今ならお前の気持ちも理解出来るぞ。やらねばならぬから、やる。世は決断で回っている、故に常に世界は決断する者によって動かされる」
玉座から立ち上がり、余は拳を握る。決断する者が世を動かしてきた、そして八大同盟とは決断した者達の集まりだった。故に彼等は世界を動かした。
ジズ、オウマ、イシュキミリ、ルビカルテ、セラヴィ、マヤ、そしてクレプシドラ。それそれがそれそれ、絶世の使い手であり、皆が皆信じた未来を目指して、決断していた。
そしてそれが挫けたのは、それ以上の決断をした者達がいたから。
「……待っていたぞ、魔女の弟子達よ」
余は待っていた、八大同盟すら覆す決断をした者達の到来を。マレウスに来た当初はあまりにも弱く、吹けば飛ぶような存在だった彼らが、いつか余の前に立つこの日を。
彼等の決断、決意、そして信念。彼等と戦ってこそ、余の決断は世を動かすに足る……ようやく戦いになる段階に来た。
時は満ちた、世は今奴らに追い詰められた、我らは今格下となり、マレフィカルムらしい構図が生まれた。
であるならば、やり抜こう。マレフィカルムとは即ち天に指を引く愚か者の集まりであるなら、愚か者の王たる世は誰よりも高く矢を放ち、吠え立てよう。
この世は人の世であると、そして魔女の弟子達よ……お前達はどんな答えを余に返す。
………………………………………………………
「『八雷乱閃』!!」
乱れ飛ぶ八本の帯、それそれが雷となり目の前の敵を打ち据える。
「ぐぎゃあ!?」
「メェーン!?」
「グッ!」
お菓子の鎧を纏ったペティ、肥大化したデスペラード、そして覚醒したブラッド、全員纏めて爆裂と共に吹き飛ばし壁に叩きつけ、同時に地面を掴んだエリスは。
「どっこいしょ!!」
黒金の床を一気に引き剥がし、捲れ上げ、向かってくるバティスタとジョバンニを牽制する。
今、エリスは敵陣のど真ん中で幹部全員を相手にして戦っている。本当は遠くから一方的に殴って終わらせたかったが、なにやらダアトの入れ知恵のようなものを感じたのでやめました。そのまま真っ直ぐ敵陣に向かい、城の中で暴れることにした。
ここで十天魔神全員片付ける。そうすれば少なくとも敵は主力の大部分を失うことになる。そう思って戦ってたんだが、なんか敵の攻撃を喰らってから体が重い。恐らくエリスの体内にあるエネルギーを直接奪うものだろう。咄嗟に砂糖を食べて回復したが……流石に限界が来始めている。
「にしても妙に敵がタフですね」
もう数回は倒してるはずなのに、敵は何度も立ち上がってくる。これは敵がエリス達のように絶対に負けられないから、何度だって立ち上がってくるってことか……なんて。
ロマンチックなことは言いませんよ、エリス達だって理由もなく何度も何度も立ち上がれているわけじゃない、だから恐らく……。
「大丈夫かブラッド、『ヒーリングオラトリオ』」
(治癒魔術、アイツか)
そこには灰色の髪と羊のツノを頭から生やした魔術師風の女。『第四魔神』バフォメットが味方に治癒魔術をかけているのが見えた。やはり回復役がいたか、面倒だ。
あれから潰すか。
「『炎水乱気』」
エリスは裾から伸びる帯を炎と水に切り替える。この帯はエリスの極・魔力覚醒『ゼナ・エネルゲイア』本来の姿、記憶から伸びる帯を表出化させたもの。エリスの記憶にある魔術を即座に引き出してくれる便利な代物。それを八本に分け、振るうのが『八式襤褸』。
炎と水の帯を高速で振るいあちこちで激突させることで発生させるのは急激な濃霧。あっという間に世界は白く染まり、視界が効かなくなる。同時にあちこちに魔力体……エアリエルの御影阿修羅を模倣したものを飛ばし撹乱。
「ッエリスが増えた!!」
「バディスタ!惑わされるな!魔力体だ!」
厄介なジョバンニとバティスタの動きを止めさせた、次の瞬間。
「お前に用があります」
「ゲェッ!?」
一瞬で飛翔し、仲間を治癒するバフォメットの首を掴んで霧から飛び出し、そして。
「『流星一拳』ッ!」
「ごふふぅっっ!!」
叩き込む一撃が、奴の腹から背中に貫通し向こう側にある壁を粉砕、巨大な大穴を開けて吹き飛ばす。まずは治癒役から潰す。
「ッなめるなよ!『第四魔神』の猛威見せたるわッッ!!」
しかし、バフォメットは吹き飛ばされながらも杖を振るい、霧を割いてエリスの背後から出現させたのは、五つの魔術陣。それはまるで円盤のように質量を持って飛び、エリスに襲いかかる。
これは奴の覚醒によるもの、好きな時に好きな魔術をここから引き出せる便利な代物、ですがそれを全部エリスに仕向けたのは判断ミスと言わざるを得ない。
「なら、エリスも見せます。魔女の弟子の猛威を」
「なッ!?」
刹那、八本の帯を高速で振るい一瞬にして魔術陣を細切れにする。これ一つ一つが星の魔力を持っているのだ、魔力で出来た魔術陣くらいいくらでも破壊出来る。そして……。
「いきます」
「あっ!!やばぁっ!!」
掴む、帯の一つで吹き飛ぶバフォメットの足を巻いて、一気に引き寄せる。同時に両拳と残りの七本の帯をそれぞれ拳型に変えて、一気に……。
「『殲煌流星群』ッ!!」
「がばはっっ!!!」
打ち込む、打ち込む、打ち込む、ひたすら打ち込む。怒涛の連打をバフォメットにひたすら叩き込み続け治癒の隙も与えず破壊する。奴の顔面は変形し、全身から血を吹き、そして。
「終わりです!!」
そのままバフォメットの体を地面に叩きつけ、同時に帯を爆発させクレーターを作り出す。後にはピクピクと動くバフォメットだけが残る、これで治癒役は潰せた。じゃあ次は……。
「ヘイメーンッ!!俺の仲間になにしてんだヨウッッ!!」
「お前の仲間がエリスの仲間にした事と同じ事です」
飛んできたデスペラードの拳を飛んで回避すると同時に奴の手足に帯を巻きつけ……一気に引き寄せ。
「そしてお前にもします!!不当なる破壊をッッ!!」
「アウチッッ!!」
蹴りを叩き込む。巨大なデスペラードがそのまま砲弾のように飛んで、壁を貫通して外へと飛んでいく。その向こうでデスペラードの魔力が小さくなるのを感じる、どうやら気絶したようだ……。
「で、次はそっちですね」
「…………」
霧が晴れた向こうにいるブラッドとペティを睨む。赤く煌めく眼光が二人を捉え……拳を握る。
「ッ……ここまでか」
「パイセン、パイセンだけでも逃げてください」
「な、お前」
そんな中、ペティがエリスの前に立つ。震える体でエリスの前に立つのだ。
「パイセン、小生意気な後輩ですみませんでした。もし次があるなら……次はもう少し、真面目な後輩として頑張ります。私を見捨てなかった貴方のために」
「やめろペティ!こう言う時は先輩が……」
「この中で一番弱い第十神の私が!残るべきでしょうが!先輩はもっと他に出来ることがあるはずです!だから私は!!」
クッキーの鎧、チョコの剣、マシュマロの盾、見た目はふざけているが……態度は真摯極まる。彼女の心意気は理解した、故に。
「ここから先は私が通さない!!私と勝負だ!!魔女の弟子!!」
「ええ!いいですよ!!貴方を倒すまで他の誰にも手を出さないと誓いましょう!!」
「うぉおおおお!!!」
向かってくるペティ、チョコの剣を振りかぶり、一気にエリスに迫る。大した速度、それにあの剣、一発喰らうとめちゃくちゃ消耗するんだ、出来れば貰いたくない!
と言うか。
「貰うまでもない!!」
「ガッ!?」
一瞬で距離を縮め、鋭い掌底をペティの懐に叩き込む。奴が剣を振り下ろすよりも前にこちらの攻撃を叩き込めばいい。それだけでクッキーの鎧は砕け散り、彼女の腹にエリスの打撃が食い込み衝撃が暴れ狂う。
「て、鉄より硬いクッキーの鎧が……!この!!」
「遅い!!」
咄嗟の抵抗で振るったチョコの剣を回避し、ペティの顔面に裏拳を飛ばす。
「ぐぎゃっ!つ、強すぎぃ!やっぱ無理かも……いいや!戦う!!」
「上等です、お前は敵ですがそう言うのは好きですよ!!」
全てを賭けて誰かのために戦う、そう言う姿勢は嫌いじゃない。故に手を抜かない、徹底的に破壊する、悉く破壊する。振るわれる剣を前に踊るように回避し、拳を、蹴りを、頭突きを叩き込み鎧を砕き、その都度ペティの悲鳴が響き渡り。
「『逆巻き流星』!!」
「ァガッ!?」
その場で宙返りをしペティの剣を持つ手を砕き、剣を吹き飛ばす。これでもう抵抗は出来ない!
「ペティ!!」
「ぐっ!?」
しかし、次の瞬間飛んで来たのはジョバンニの拳、まるで閃光のような打撃がエリスの右頬を打ち抜き、奴はそのままエリスの左側に着地する。凄まじい速さだ……ペティよりずっと脅威度が高い……けど。
「チッ、オラァッ!!」
「ガッ!?」
無視、ペティを倒すまで他には手を出さないと約束したから、ペティを殴り飛ばす。これで気絶してくれればそのままジョバンニに……。
「ッぅがぁあ!!まだだぁっ!!」
(まだ立つか!)
ペティは血まみれになり、右腕をブラブラと揺らしながらも迫ってくる。鬼気迫る執念、だからこう言う覚悟決まった人は大好きなんですよッ!
「けどごめんなさい、これ以上貴方の相手をするとエリスがやばいんです!ここで終わりにします」
ジョバンニがこちらに向かってくる、バティスタが迫ってくる、その前にペティを倒す。両拳を構え、下でクロスさせながら徐々に持ち上げ魔力を束ね。
「『流星火雷招』!!」
「ッ!!先輩ッッ!!」
マシュマロの盾を構えたペティはそのまま光に飲まれ、爆発。黒金の城を揺らすほどの大爆発が巻き起こり、辺りが黒煙に包まれる。
「ペティッ!貴様ァッ!!!」
「次はお前です、ジョバンニ!!」
黒焦げになり吹き飛んだペティを確認した後、エリスは拳を握りジョバンニに向かい──。
「違う、次は私だ」
「うぉっ!?」
咄嗟に身を屈め飛んできた斬撃を回避する。そしてエリスの首のあった場所を通過し地面に突き刺さったのは……斧だ。それも見覚えのある魔力が宿った魔力、これは。
「ッホプキンス!」
「……お前だな、さっきの隕石は」
ジョバンニが叫ぶ、エリスが見上げる。天井に穴を開けて現れたのはスキンヘッドの大男、そこから生じる魔力はさっきエリスに向かって飛んできた極大隕石と同じもの。ってことはこいつもまた。
「私の名は『第三星神』ホプキンス……魔女レグルスの弟子と見受ける、私と勝負してもらおうか」
「……お前がエリスの相手ですか?」
「そうだ、ジョバンニ!バディスタ!こいつは私がなんとかする!お前達は戦場に出ろ!今戦線はダアト一人でなんとか押し留めているがそろそろ限界が来る!お前達が戦線を支えろ!!」
「ダアトが……!?」
そう言えばさっきから外で凄い量の魔力がぶつかってると思ったが、あれダアトか!それと戦ってるのはアーデルトラウトさんだな!?ぐっ!やられた!てっきりここで暴れたらダアトが出てくると思ったが、エリスが城の中に入った瞬間外に出たのか!アイツ〜!!
「だが!ホプキンス……お前は!」
「良いから行くのだ!私は……ここを死地とする!!」
拳を構えるホプキンスを見ていると、今からここを抜け出してダアトのところに行ける気がしない。ジョバンニやバティスタより弱いが、身に纏う覚悟が段違いだ。
なにやら雰囲気が違う。これは他の魔神を相手するより、キツそうだ。
「チッ、行くぞバディスタ!」
「ッッ!!ホプキンス!死ぬなよ!」
「行け!未来への萌芽達!お前達が死なない限りゴルゴネイオンは死なん!!」
そして、この場にはエリスとホプキンスだけが取り残される……、奴は静かにエリスに向けて歩いてくる、エリスもまた歩き、奴を前にポケットに手を入れ、余裕を見せる。
「さて、一対一だな」
「エリスとしてはそっち方が好みです」
「フッ、しかし……驚いたものだ」
エリスは八式襤褸を解除し通常の流星旅装に切り替える。八式襤褸は戦い方が大味になり過ぎる、こっちの方がタイマンに向いてますからね。
「お前、本当に魔女レグルスにそっくりだ」
「え?お前も師匠に会ったことがあるんですか」
「天番島で戦った」
ああ、あの時の。確かバシレウスが現れて大暴れしたのを師匠が止めたんですよね。でも逃げられた……援軍の到着によって、その援軍がこいつだったのか。
「あの時も似たような形だった。同じく第九、第十の魔神を帯同させたが……一瞬だった。魔女レグルスを相手にすれば我々ゴルゴネイオンの幹部ですら雑兵も同然だった。そしてその弟子もまた、我々をここまで粉砕している」
「エリスはエリスです、孤独の魔女の弟子エリスです。当然でしょう」
「かもしれん、あれから私も死に物狂いで鍛えたが……あれには到底及びそうもない。だが」
ホプキンスはエリスの前に立ち、ヌッとエリスを見下ろす。引く気が全くないと言った感じだ。なるほど。
「そこで『勝てません』で終わったら、マレフィカルムやってる甲斐がないだろう。来い魔女の弟子、あの時の雪辱をお前で晴らす」
「無駄です、師匠に勝てないお前が、弟子のエリスに勝てるわけがありません」
睨み合う、お互い一歩も引かず睨み合う、そこで察する。こいつは第三段階だ、師匠と出会いそこから鍛え抜いたと言うのは本当だろう。だがエリスだって鍛えに鍛え抜いたんです、その師匠の下で一生懸命。なら負けるわけにはいかないだろう。
「極・魔力覚醒ッッ!!」
「させませんッ!!」
瞬間、覚醒しようとするホプキンスを止めるためエリスは拳を振るい───あれ!?
「速い!」
一瞬でエリスの背後に回られた、このスピード……まるで流星。こいつまさか既に覚醒しているのか!?しまった、速度を見誤った!!
「『光陰流星大天宙』!!」
「グッッ!?!?」
瞬間、エリスの体はホプキンスから押し出されるように、突如背後に向けて吹き飛ばされたのだ。まるで、エリスの体が隕石になったみたいに、壁に引き寄せられ激突し、次々と貫通し外へと吹き飛ばされる。
「これは……!」
「然り!我が身、そして周囲にあるものに隕石の概念を与える代物!貴様には隠しても無駄だろう!!」
そのままアルクカースの大地に叩きつけられたエリスに向け、隕石の如き勢いで降り注ぐホプキンスの蹴り。咄嗟に地面を叩いて飛翔し蹴りを回避すれば、その一撃は平原を崩し、大地を粉砕し、大きく抉る。まるで隕石が降ってきたような勢いだ。
「破滅の流星、面白い!ならば星を落とす私の出番だなッ!!」
ホプキンスは止まらない、その身を隕石のように加速させ空を飛び、黄金の光を放ちながらエリスに向かってくる。面白い、エリスをあの石ころのように空から落としてみるか!相手をしてやる!!
「『流星一拳』!!」
「『隕鉄剛撃』!!」
そして激突する流星と隕石、それは衝突と共にバチバチと迸る絶大な魔力が炸裂し、アルクカースの空を打つ。一歩も引かない力と力、鬩ぎ合う流星と星神、共に星の名を冠する者同士歯を食いしばり打ち合う。
「ぬぅおおおおおおおッッ!!私は負けんぞ!!ゴルゴネイオンは!負けんッッ!!」
そう叫ぶと共に大きく腕を振るうホプキンス、それと共に天が赤く染まり、細かい流星群がエリスに向けて降り注ぎ……!!
「チッ!数が多い!!」
咄嗟に加速し流星群から逃げ回る。小石ほどの大きさ、しかしそれも凄まじい加速を得れば大砲にも勝る。まるで巨大な爆弾が炸裂したように大地が次々と爆ぜ飛びアルクカースの地形が変わっていく。
アイツ、現代魔術使いって判定するにはあまりにも火力が高すぎるだろ。師匠はよくあんなのを軽々ぶっ飛ばしたな。
いや、寧ろエリスも軽々ぶっ飛ばすなきゃダメなんだ。師匠がやれたことを弟子がやれなくてどうする!!
「行きます!!」
降り注ぐ流星群の間を見極める。あの隕石の群れはそのものが魔術じゃない、ただ空から石を引き寄せているだけ、引き寄せるまでが魔術だから星の光でも無効化出来ない。
しかも本当に空から星を落としているからかわからないが、若干星の魔力を帯びている。防壁じゃ弾けない。
だから、間を一気に抜ける!!
「最高加速です!!」
「むっ!!」
ジグザグとした光芒だけを残し隕石の雨の間をすり抜け、エリスは一気にホプキンスに迫り。
「『流星一脚』!!」
「ギッ!?」
叩きつけるのは魔力の塊となったエリスの蹴り。それはホプキンスの防壁を粉砕し奴の腹を打ち、一撃で意識を……。
「むぅう……まだだ、まだだとも」
違う、まだだ。こいつエリスの蹴りが腹に来ることを予見して遍在を腹に集中させて受け切った!防壁で防げないことを知っていたのか!いや知ってるか!仮にも星の力を使う男だ!!
「お返しだ!『雷斧剛直』!!」
そしてエリスに叩き込まれるのは、隕石と同じ速度で飛んでくるホプキンスのラリアット。その腕がエリスを打ち、大地に叩きつけ、エリスの体は地面に深く埋め込まれる。
やられた、完全に。刹那の読み合いに負けた、と言うか……。
(ダメージは最初から覚悟の上、無傷で勝とうとしてはいな)
「はぁ、はぁ、遍在で防いだのにこの威力か。洒落にならないな……」
追撃は来ない、ホプキンスも地面に降り立ち、膝を突く。エリスもまた地面を砕いて起き上がり、軽く関節を鳴らして動く準備を始める。
「凄いですね貴方、そんなにエリスを倒したいですか」
「それもある。だが……我々は絶対に引けないのだ」
「ゴルゴネイオンが負けるから、ですか?」
「違うな、いやある意味あっているか……」
ホプキンスは立ち上がる、口元の血を拭いながら一切笑みを見せず、上着を脱ぎ捨て……戦いの覚悟を決め。
「我々は、絶対にイノケンティウス様を戦場に出すわけにはいかなきのだ」
「え?」
イノケンティウスさんを戦場に出すわけにはいかない?あんなに強いイノケンティウスさんを……ん?
「あれは?」
ふと、エリスは気がつく。ホプキンスと戦っている間に離れてしまった主戦場。黒金の城周辺で、何かが起きた。そんな予感を感じて振り向くとそこには────。
……………………………………………
「退けや雑魚共ッッ!!」
「ここは通さん!!」
黒鉄城フォルミカリウス周辺、そこでは息を吹き返したマレフィカルム側の猛攻が繰り出されていた。ホプキンスにより出撃を許されたジョバンニとバティスタ。その二人が戦線に加わり一気にマレフィカルム側に全てが傾いた。
第三段階クラスの二人はそれこそ万軍に匹敵する強さ。それは如何なる数を揃え、如何なる兵器を揃えようと埋めがたい差である。
「散れ散れ!全員踏み潰すぞ!!」
「きょ、巨大な龍!?まるで伝説に伝わるキングフレイムドラゴンのようだ!!」
「クソ!砲撃も何も効かないぞあれ!!」
超巨大な黒龍に変じたバティスタは腕や尻尾を振るい、アド・アストラ軍を吹き飛ばす。硬い鱗は砲撃も魔術も届かせず、一撃は一千人規模の敵を吹き飛ばす。
「『鳳凰練拳』ッ!!」
「グッ……くそっ、私としたことが……」
「エトワール最強、敗れたりッッ!!」
「ガァッ!?」
そして、ジョバンニはバティスタ程の殲滅力は持たずとも、その実力は十天魔神中最強。ダアトとの戦いで傷を負ったマリアニールも必死に抵抗したものの、やはり第三段階を相手にしてはその戦いも厳しく、胸に鋭い一撃を受け、血を吐き昏倒する。
「テメェらなんか敵じゃねぇんだよ!!」
「次は誰が相手だ!全員、我が拳で撃ち抜く!!」
たったの二人、たったの二人が戦線に加わっただけでアド・アストラ軍はその勢いを完全に殺された。それだけ、あの二人は凄まじい強さなのだ。
「ぐっ、ここに来て。エリスはどうした、やられたのか」
そんな中、メルクリウスは銃を杖に息を吐く。ダアトとの戦いの傷が尾を引いている、なによりそのダアトもまだ倒せていない。
メルクリウスの背後では暴れ回るダアトをアーデルトラウト将軍が抑えているが、負けはせずとも勝てそうにない。それだけダアトの強さは凄まじく、更にアド・アストラ軍に被害を及ぼしている。
「メルクさん!僕がジョバンニを止めるので!貴方はあの龍を!!」
「ナリア君……しかし!!」
「いいから、お願いします!!」
その瞬間、ダアトにやられ頭から血を流しながらも歯を食いしばるナリアがジョバンニに向けて駆け出す。メルクリウスよりも深い傷を負いながらも彼は怒りに満ちた顔でジョバンニに向かい。
「『千人役者・莫逆のコロス』!!!」
「次はお前か……増えただと!?」
「よくもマリアニールさんをッッ!!押し潰せ!!」
一千人のサトゥルナリアが一気にジョバンニに殺到し、その体を埋め尽くす勢いテロ群がる。
「チッ!寄るな!!」
ナリアの分身は、ジョバンニの一撃を耐えることが出来ない。拳の一撃で貫かれ魔力の粒子になる。しかしジョバンニはあくまで対人専門、個別に倒すことは出来ても纏めて倒すことは出来ない。故にナリアは喰らいつく、数の力を生かして死を恐れず戦っている。
「クソッ、彼ばかりに戦わせられるか!!極・魔力覚醒!!『オプス・ト・アントローピノン・アガトン』!!」
力を振り絞る、ダアトを相手にやられた消耗はまだ拭えない、だが戦える。ナリアよりは戦える、故に一気に背後に城壁を作り出し……。
「撃て!撃ち尽くせ!龍を殺せッ!我が城塞よ!!」
城砦の頂上から指揮をして、バディスタに向けて次々と砲撃を撃ち出す、最初は聞いていなかったバティスタだが、彼の肉体を引き裂く弾丸へと進化した砲撃は徐々に彼の鱗を引き裂き始め。
「ぐっ!?いてぇ!何すんだ……」
だが、それでも止まらないバティスタは大きく口を開け。
「この野郎ッッ!!」
「うっ!?」
一撃、凄まじい火力の熱線。即ち龍の吐息が城塞を貫通し、更にアド・アストラ軍を吹き飛ばし、後方の山に突き刺さり巨大なキノコ雲を生み出す。咄嗟に飛び出したメルクリウスはその威力に若干青ざめる。
「なんて威力だ、これは放置できん……!」
「テメェか!!この軍の総大将は!!」
「違う!!」
「じゃあ死ね!!」
足を振り上げ飛び出したメルクリウスを踏み潰そうと一気に体重を振り下ろすバディスタ……だが。
「ッ!『龍屠の鋼塔』!!」
地面を叩き錬金術にて生み出すのは頂点がドリルのように捻れた巨大な塔。それはバディスタの鱗だらけの足を穿ち、巨大な穴を開ける。
「ギャァ!?いてぇぇ!!」
「ッ今だ!!」
転げ回るバティスタ、足に穴が空き悶絶するその隙を狙い更に城塞を生み出し、一気に砲撃にて決める。そう腕を振り上げた瞬間。
「『レッドドライブ』!!」
「ッ!?なんだ!?」
「『燃えろ』!!!」
瞬間、メルクリウスの右半身を覆うように赤が飛ぶ、それは彼女の体を塗りたくり、そのままガソリンのように燃え上がり……。
「がぁああ!!ぐっ!!なんだ!!」
「はぁ、はぁ!ペティ!俺……最後までやるからな!!」
燃え盛り、苦しむメルクリウスの前に現れたのは、エリスとの戦いを切り抜け、この乱戦を息抜き、血塗れのズタボロになったブラッドだった。右目は潰れ、左手は動かない、そんな有様になりながらも紅刃を手に現れたブラッドはメルクリウスに迫る。
「ッ……しまった」
「一人でも多く、殺してやる!!」
「ガッ!?
振り上げられる紅刃、高らかに捧げられる斬撃、それがメルクリウスの右肩に剣が食い込み、鮮血が舞う。乱戦、両軍共に傷つき、余裕もない、死兵のみの戦場。
魔女の弟子達も十天魔神も、最早これ以上はないと言えるだけの戦いをして見せる。そんな中で、今……。
動く。
「なにしてんのよあんた!!」
「げぶふぅっっ!?」
「ックレア団長!!」
メルクリウスの肩に剣を突き刺したブラッドを殴り飛ばしたのは、クレア・ウィスクム。ここまでこの戦場にあまり積極的に関与してこなかった彼女は、一つ親指を立てて。
「メルクリウス首長、作戦。完了だから」
それだけ、告げる。たった一言、その一言にメルクリウスは。
「そうか、なら……終わりだな」
悟る、勝ちを、動いたのだ……そう。
戦局が。
「ッなんだ!?」
突如バディスタが叫ぶ、振り向けば自分達が守っていたはずの黒帝城から火の手が上がり、あちこちから爆発音が響き始めたのだ。
「どう言うことだ!敵の侵入を許した……!?だが、私達はここで───」
「正面は、守ってたようだが……後ろはガラ空きだったぞ?」
突然フォルミカリウスの城門が弾け飛び、ゾロゾロと内側から現れたのは。
「メルクリウス、ご苦労さん。……後は俺達が請け負うぜ」
「ラグナ……!」
ガラ空きの敵の城中に侵入した別動隊、即ち……ラグナ達だった。




