表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/35

35・お姫様からのキス

「おーい、来てやったぞ」


 放課後――。


 俺は中庭に呼び出された。

 地面に天然芝が敷き詰められており、それが爽やかな風によって凪いでいる。

 普段なら、これくらいの時間になれば時間を持て余している生徒で盛況しているはずであった。

 しかし、不思議なことに中庭は静かで俺と、もう一人が背を向けて立っているだけである。

 後ろからでも分かる特徴的なツインテール。抱きしめたら折れてしまいそうな小柄で細い体。


「レイナ。話って何だ?」


 そう――俺を呼び出した主はレイナであった。

 俺が手を上げ、そうやって呼びかけると、


「とにかく、座りなさいよ」


 レイナが振り返り、近くのベンチを指差した。


「ったく……何だって言うんだ」


 そうぼやきながらも、断る理由もなかったので素直にベンチに腰掛ける。

 するとレイナは俺の隣へと座り、缶を俺に手渡してきた。


「ほら! 飲みなさいよ。まだ肌寒い季節でしょ!」


 視線を合わせようとしないレイナから、その缶を受け取る。

 温められている缶。程よい温度が手の平から伝わってきた。


「紅茶か。お前、紅茶好きだな。まあ、俺も嫌いじゃないけどよ」

「と、とにかく飲みなさい! かけつけ一気よ」

「一気呑みしないといけねえのか?」


 返事をする前に、レイナは――自分用に予め買っておいたのだろう――もう一つの缶のフタを開け、一気に口へと流し込んだ。

 俺はというと、ゆっくりと口を付けて紅茶を舌で楽しむ。


「ぷっはあ! やっぱ、喉が渇いた時にはこれね!」

「って、本当に一気呑みしたのかよ! 炭酸飲料飲んだ時みたいだな」

「注がれた酒は一気に呑む。それが部下としての心得でしょ」

「いつ俺はお前の上司になった?」


 ……って、一体俺は何をしてんだ?


 俺達は隣り合って、風に揺られて穏やかな一時を消化していた。

 レイナは空になったであろう缶を太股の上で握りしめている。

 俺はというと、沈黙の間隙を生めるようにチビチビと紅茶を口に入れていた。


「……一度しか言わないから、ちゃんと聞いてね」


 やがて、レイナは意を決したように口を開いた。



「――あんた。わたしの『盾』になりなさい」


 ――始まりはレイナのそんな言葉からだった。

 しかしレイナの声はあの時とは違い、傲慢さはなく率直な意思だけが込められていた。


「わたし、最初は誰でも良いと思っていた。わたしに匹敵するような実力の人間がいれば。そういう人を盾にしよう、ってずっと決めてた。

 でも違ったの。わたしはあんたの聖剣にじゃない。わたしはあんたと一緒に手を取り合って戦っていきたい。

 わたしが敵を斬り裂く剣となるわ。だから――あんたがわたしの『盾』になって――うん。出来ればもっともっと先の関係にも」


 この間、ずっとレイナは俺に視線を合わせようとしなかった。

 横顔を見ると、頬が破裂しそうなくらいに赤かった。

 観察すると小刻みに震えているように見える。



 ――わたしの『盾』になって、か。

 ――俺はこれ以上失うことが怖かったから。

 ――誰とも仲良くならない、孤独の道を歩むと決めていた。

 ――あの日から一人で兄貴に復讐する、と決意したのだ。



 レイナがその先の言葉を続ける前に、


「……なってやんよ」


 俺の口は答えを紡いだ。


「え? アサト……今、何て」

「ああ! 盾にでも何でもなってやんよ。俺の聖剣でお前のことを守ってやんよ!」


 何故なら、一人では守りきれないものある、と気付いてしまったから。

 そして何より、誰よりも一生懸命で、恐怖を殺し、それでも前を向き続けるこいつを守ってやりたいと思ったから。


 ――俺の聖剣は魔術を斬り裂く。


 失うことが怖いのなら。

 二度と失わないように守ってやる。


 それこそ、勇敢なお姫様――レイナのように。

 俺の聖剣にはそれくらいの力なら備わっている、と信じているから。

 こいつと一緒に修羅の道を歩むことにした。


「ホ、ホントッ!」

「ああ、ホントだ。ただし! ワガママは言うんじゃねえぞ。俺だって盾である前に一人の人間なんだからな」


 レイナの弾んだような声。


「ありがとう……本当にありがとう、アサト」

「何かプレゼントの一つくらいでも欲しいくらいだぜ」


 これは照れ臭くなって、言ってしまった台詞。

 本当にプレゼントが欲しいわけではない。


「じゃあアサト……目を瞑ってくれる?」


 なのに――レイナはそれに応えようとした。


「目を瞑る?」


 何だ。本当にプレゼントを用意してたのかよ。目を開けたら、前にプレゼントが置いてあるサプライズだとか?

 状況に付いていけない脳味噌のまま、俺の両目は瞼を閉じた。



「……チュッ」



 少ししてから。

 頬に柔らかい感触。

 思わず目を開けて横を見ると、レイナがすうーっと顔を離していく途中であった。


「わわわわわわわたしは! むすびみたいに、口づけなんて出来ないけどね。でも折角、『盾』になってくれるんだから、ほっぺにチューくらいは、と思って……勘違いしないでよね! 別にすすす、好きなわけじゃないんだから!」


 顔を真っ赤にしてプイッと顔を背けるレイナ。

 俺は頬を掻きながら、そんなレイナの顔を微笑ましく見ていた。

 こいつ……意外に可愛いところもあるじゃねえか、と。


「コラーッ! 何、勝手に話を進めようとしている! アサトはボクと組むんだぞー!」


 ハッピーエンドで〆る直前に、上空からそんな声が落下してきた。


 四夜むすびだ。

 むすびが怒ったような顔で、そのまま地面へと足を着け、俺の腰へと抱きついてきた。


「アサト! 今すぐ考え直せ。こんな傲慢女と組むより、ボクと組んだ方が絶対に良いんだーっ!」

「ちょっと! 横取りしないでよね! アサトはもうわたしのものなんだから!」


 反対側の腰にはレイナが引っ付いてくる。


「ふう……やれやれ」


 どうやら、間に挟まれた苦悩はまだまだ続くらしい。

 俺はそうやって、老練な騎士のように溜息を吐くのであった。

また続きを書くかもですが、一度完結にします!

ご覧いただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ