第五章 ~『分断された領地』~
魔王領と手を組んだエスティア王国がコスコ公国に宣戦布告すると、三日と経たずに降伏した。そうなるのも当然で世界最強の魔王軍と資金力豊富なエスティア王国に比べて、コスコ公国はあまりにも国力が弱すぎたからだ。
「さてどこを奪うとするかな」
「悩みますなぁ」
「この悪魔どもめ……」
ブルースと山田、そして今回最大の被害者である公爵の三人は、公国城で国内地図を見下ろしていた。王国と魔王領は戦争に勝利したので、褒賞となる領地や資産を公爵から奪い取る権利があった。
「城は譲れないぞ! 城下町も駄目だからな!」
「我儘な男だなぁ」
「当然の要求だ、馬鹿者!」
「仕方ない。許してやるよ」
「ほ、本当か……」
公爵は山田がすんなりと交渉に折れたことに驚く。彼ならば骨の髄まで吸い尽くすに違いないと警戒していたのが馬鹿らしくなる。
「意外と優しいところもあるのだな……」
「いいんだ。その代わりにそれ以外の全部を貰うから」
「はぁ?」
「俺は王国との国境沿いにある領地をすべて貰う」
「なら私は魔王領から城下町までの領地をすべて貰うことにしよう」
領地の分断は公国の領土が王国と魔王領に挟み込まれるような形で提案された。山田がこのような形で領土を分けたのは、魔王領と国土を面することなく、公国を緩衝材にする狙いも含まれていた。
「エスティア王国の接収する領地は本当にそこでいいのか?」
山田の指定した領地は経済規模の小さい街や、建物の老朽化している廃村が多い。なぜそのような地域を選ぶのかと、ブルースは疑問を抱いたのだ。
「いいさ。俺の手に入れる街は王国までの交通の要所だし、それに何より俺の指定した領地には豊かな麦畑が含まれている。活気ある街よりこちらを手に入れたことが嬉しいのさ」
エスティア王国は経済状況に比べて国土が狭いため、食料を他国からの輸入に頼り切っている。豊かな土壌があれば農業を発展させて、食料自給率を高めることができるし、そうなれば世界から孤立したとしても、すぐに亡ぶということはなくなる。
「さて領地の話はこれで終わりだ。次は大国時代の資産を頂くとするか」
「なら私は芸術品が欲しい」
「それなら俺は――」
「好きにしろ、このハイエナどもが!」
公爵は城の中に響き渡るような大声で叫ぶ。その声には諦観の感情が過分に含まれていた。