第一話 覚醒
霹靂の音が耳を劈く。立ち込める異臭が鼻を突く。
瞬間、男は冷汗にまみれながら、ベッドから飛び起きた。
「くそ、またあの夢か」
五年前のあの日、男は全てを失った。……そう、全てをだ。希望も夢も信念すらも、今の男には存在しない。
あるとすれば怒り。あの日、全てを失うこととなった運命そのものに対する怒りだ。
男の名は雲仙。ごく普通の中学二年生であった雲仙の日常の中において突如襲いかかった、ある出来事が彼の運命を大きく変えた。
決して色褪せず、粘く脳裏の奥にまとわり付くあの日の記憶が呼び覚まされると、雲仙は拳を強く握り締めた。やがて開いた右手を眼前に差し出すと、一瞬、掌を雷が奔る。それを見ながら嘆息し、遠い目をすると、雲仙はベッドからゆっくりと足を下ろした。
――一体何なんだこの力は?
雲仙があの日の夢を見る度に、そしてあの日の事を思い出す度に、雲仙の中の憤怒が雷となって具現する。
それはここ数日での出来事であり、雲仙は自分に生じたこの異変の正体に悩まされていた。
しかし、相談出来る者はいない。いや、例えこの力の事で無くとも、雲仙には相談を聞いてもらえるような親しい者、心を開けるような者は皆無だった。
雲仙はコップに注いだ一杯の水を飲み干すと、行く宛も無く部屋を出た。
道を歩いていると、雲仙の眼にふとあるものが入る。路地の端で三人の男子高校生に囲まれている一人の気弱そうな男子高校生だ。視線と共に耳を傾けると、どうやら虐めを受けているようだった。
「ちゃんと金持ってきたか?」や「早く財布だせよ」や「また殴られたいのか?」等と、罵声を浴びさせながら、金銭を要求されている。
――くだらない、他人のやり取りに首を突っ込む程俺はお人好しじゃない。
そう考えながら、この男子高校生達を尻目にその場を後にしようとしたところ、虐めを行っている三人の内の一人、リーダー格の男の一言が雲仙の足を止める。
「てめえみてえなうんこ以下の屑野郎は苛められたくなかったら金を払うしかないんだよ」
それを聞いた雲仙は、踵を返すと、真っ直ぐに男子高校生達の元へと歩みよった。
「止めろ」
雲仙の声に、気弱そうな男子高校生に虐めを行っていた三人の男子高校生が振り返る。
肩まで伸ばした茶髪にパーマの男、唇にピアスをした男、眉毛を全て剃り落とした男。いかにもと言った風貌である。
「何なんだてめえは?」
「……あんだつみはってか?」
――いやいや、違う違う。そんな尋ねられ方をしたら、ついそう返してしまうのは日本人としての常だ。
「俺が誰だかなんてどうでもいい、その下らない行為を止めろと言っているんだ」
雲仙の台詞に、三人組は互いに顔を見合わせ、口の端を上げる。
そして、リーダー格の男が拳を雲仙に突き出した。
しかし、雲仙はそれを難なく受け止め、リーダー格の男の顔を睨み付ける。
刹那、雲仙が蒼き雷光に包まれ、電流が男の体を走る。するとリーダー格の男は失禁をしながら、その場にへたり込んだ。
「おい、大丈夫か? おい!」
仲間の声はリーダー格の男には届かない。それも当然。リーダー格の男は既に気を失っていたからだ。
「て、てめえ何しやがった!?」
「殺すぞこらっ」
残る二人の男は顔を引きつらせ、精一杯の虚勢を張る。しかし雲仙の得体の知れない力を前に、生じる恐怖が、威勢のいい言葉とは裏腹に体を後ずらさせる。
後ろは壁、雲仙は逃げ場の無い二人を追い詰めるようにゆっくりと滲み寄る。
すると、二人は虐められていた少年の背を押し、前に出させると、
「俺達があんたに何したってんだよ?」
「そ、そうだ、何でこんなうんこ野郎を助けようとするんだよ? あんたには関係無いだろ」
その言葉に、雲仙の何かが切れた。
「貴様らみたいなのがいるから!」
雲仙の体中を先程とは比べ物にならない程の稲光が纏い、凄まじい轟音が響き渡ると、雲仙は青い発光体と変貌を遂げる、その姿は蒼き霹靂そのものであった。更に、晴天の空は暗雲に包み込まれ、雷が天と地の双方で叫びを上げていた。
「ひいいいいいっ!」
「ば、化物!!」
「え、ちょっと、これ僕まで巻き添えじゃ?」
三人組の内の二人は怯え、悲鳴を上げ、虐められていた少年はポツリと呟いた。




