第二話 会遇
雲仙が、まさに攻撃を実行しようとしたその時、何処からともなくバスケットボール程の大きさの火球が飛来し、雲仙の足元で炸裂した。
「そこまでよ」
アスファルトが飛び散り、溶解したコンクリートの臭気が辺りに立ち込めた直後、雲仙が振り返るとそこには一人の女性が立っていた。
腰まで伸びた栗色の髪と、黒いタイトなスーツに身を包む長身の美女は、恐らく二十代前半程で、凛とした雰囲気を漂わせながら、真っ直ぐな視線を雲仙に向けていた。
「一部始終見ていたわ、あなたの正義感は嫌いじゃない。でも、AOUの力を利用して一般人を殺めれば、あなたはその時点でネメシスに追われる犯罪者となるわ」
「AOU? ネメシス?」
初めて聞く単語に訝しみながら問う雲仙。纏う雷は既に消失していた。
雷を操る男、炎の爆発、およそ非日常的と言って差し支えない出来事をたったの数分の間に目の当たりにした、三人組の二人と、虐めを受けていた少年は、ただ黙って肩を震わせていることしか出来なかった。
女性はそんな三人に視線を移すと、
「行きなさい」
とだけ言い放つ。
三人組の二人は気絶しているリーダー格の男の肩を支え、虐めらていた少年は全速力で、雲仙と女性の脇を通ってその場から去っていった。
そして雲仙は、恐らく自分の力の正体を知るだろうその女性と向き合い、静かに視線を交わらせる。
「おいあんた、さっきAOUとか言ってたな。この雷の力がAOUって奴なのか?」
「あなたには色々と話さなくちゃならないことがある、ここじゃなんだから場所を移しましょう」
雲仙は自分の力の正体を知るため、あえて言われるがまま女性の後に付いて行く。そして歩く事五分程、個人経営の小さな喫茶店へとたどり着いた。
店内に入り席に着くと、女性はブラックのコーヒーを注文する。
「君も何か頼んだら? 私が奢るわよ」
女性の申し出に雲仙は頭を振って断った。
少しすると、店員が女性にコーヒーの入ったカップを、雲仙に水の入ったガラスのコップを渡す。
女性はゆっくりとカップに唇を付け、コーヒをすすると、真っ直ぐな眼差しを雲仙へと向けた。
「さて、一体何から話せばいいのかしらね」
女性は肘をテーブルに付け、重ねた両掌に顎を乗せながら言う。
「まず、俺のこの力は何なんだ? あんたはAOUって言ってたよな?」
「AOUはAbility Of Unfortuneの略で、この力を扱える者を我々は覚醒者と呼ぶ」
「……覚醒者」
「そして、覚醒者としての因子を持つ者が、過去のトラウマの記憶を基にして発現させる力、それがAOUなの」
それを聞き、雲仙は目を見開く。
トラウマを基にした力……それが今自分の身に宿った力である。そしてあの夢が、否――あの時の記憶がその力を発現させていたのだと知ったからだ。
「そしてネメシスは、政府直轄の対覚醒者捕縛組織の名前。私はそのネメシスに所属する火神よ、宜しく雲仙君」
火神と名乗る女性は、雲仙の名を口にした。
「なぜ、俺の名を?」
「覚醒者としての因子を持つ者は、出生時に政府の名簿に登録され、二十歳を越えてからAOUが発現しているかを調査される、今のあなたみたいにね」
「でも、俺はまだ十九歳だぞ?」
雲仙の疑問を受け、火神は表情を強ばらせ唇を噛み締めた。
「緊急事態が起きたのよ」
「緊急事態?」
「一ヶ月前、中島と言う名のとある覚醒者の出現により、ネメシスが有する覚醒者は殆どが再起不能にされたわ」
「なに!?」
「奴は強すぎる。どんなトラウマを有しているのかは知らないけど強すぎるのよ、ネメシスの覚醒者ではとても歯が立たなかった」
火神は口惜しそうに、握った拳をテーブルに叩きつけた。
「でもネメシスは、いえ日本はまだ運に見放されていなかった」
そして再び重ねた手の上に顎を乗せ、雲仙を見つめる。
「あなたに会えたからよ」
「俺に?」
「政府に登録されている、覚醒者としての因子を持つ者はあらかた調査された。でも、トラウマが小さすぎて能力がゴミレベルの者、結婚とかしてトラウマも完全に忘れて普通に幸せに暮らしてる奴、そもそもトラウマすら知らず能天気に過ごす馬鹿、そんな奴らしかいなかったわ」
――口悪いなこいつ。
「でも、あなたは違った。天候すら操る強大な雷の力。あれ程の力があればもしかしたら中島を倒せるかもしれない」
言いながら、火神は身を乗り出して雲仙の両手を握り締めた。
「お願い、あなたの力を貸して! あなとの双肩には日本の、いえ世界の運命がかかっているのよ!」
――そんな大それた話なのこれ!




