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蛮族女王の娘《プリンセス》 第2部【共和国編】  作者: 枕崎 純之助


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第190話 『驚愕の事実』

「邪魔をするな! 共和国の犬どもが!」

「黙《だま》れ! 海賊風情(ふぜい)が!」


 海賊と海軍兵らの争いが始まった。

 船着き場に到着したチェルシーらに後方から追いすがるように迫って来たのは、この湾岸警備の任に就《つ》いている共和国海軍の兵士らだ。

 海賊らは用意していた小船に乗るようにチェルシーらに伝え、自分たちが海軍兵らの相手を務める。

 

 十数名の海軍兵らに対する海賊はわずか6名。

 数で大きく劣《おど》る海賊だが、彼らは強《したた》かだった。

 海軍兵らを相手に勇猛果敢《ゆうもうかかん》に剣を振るうが、無理に相手を倒そうとせずに防御に徹して時間を稼《かせ》ぐ。

 数的不利を見かねたチェルシーは彼らに加勢しようとしたが、それを海賊らは頑として断った。


「あんたは船に乗りな! 俺らの仕事はあんたらを船に乗せることだ! さっさと乗ってくれないと仕事が終わらないんだよ!」


 そう言う彼らにチェルシーは感謝の目礼を返し、小船に向かって行く。

 小船には漕《こ》ぎ手となる海賊があらかじめ2人ずつ乗っており、そこにチェルシー部隊の者たちがそれぞれ5名ずつ乗り込んでいった。

 チェルシーの船には目隠しと猿轡《さるぐつわ》をはめられて捕縛《ほばく》されたエミルとヴァージル、ウェンディー、それからシジマが同乗する。

 そして海賊らはその太い腕で櫂《かい》を握ると、慣れた手つきで小船を操り湾内の海面を突き進んでいく。

 その向かう先にはフィランダーの乗る旗艦《きかん》が悠然と水面《みなも》にその身を浮かべていた。


 ☆☆☆☆☆☆


 船着き場から次々と小船が出てからほんの1分後。

 海賊と海軍兵らが争う船着き場に、赤毛の女たちを乗せた馬車が向かって来る。


「オラァ!」


 船着き場に急行する馬車の上からネルが放った矢が海賊の背中に突き立った。


「ぐうっ!」


 倒れ込んだ海賊は共和国海軍の兵士らによって叩き殺されそうになる。

 だがそこで馬車の上からアーシュラが叫んだ。


「殺さないで! 人質にして情報を聞き出します!」


 その言葉を聞いた海軍兵らは倒れた海賊を数人がかりで取り押さえた。。

 それと同時に停車した馬車から、武器を手にした赤毛の女たちが飛び出してくる。

 それを見た他の海賊らは潮時だと悟ったのだろう。

 躊躇《ちゅうちょ》することなく次々と海に飛び込んでいく。


「逃げんじゃねえ!」


 ネルは海面に向けて次々と矢を放つが、海賊たちは深く潜っているために、さすがに矢は届かずに海に浮かび上がるばかりだ。

 ネルは舌打ちをして、プリシラたちを振り返る。


「チッ! どうする? 泳いで追うか?」

「馬鹿を言わないで。銃で狙《ねら》い撃ちされるわ」


 そう言って顔をしかめるハリエットの隣《となり》でプリシラは歯噛《はが》みをした。

 チェルシーらが船で遠ざかっていく。

 チェルシーの乗る船には気を失っているエミルの姿もあった。

 だが……プリシラの目は同じ船に乗る別の者の姿を捉《とら》えていたのだ。


(あれは……)

 

 プリシラはすぐさまチェルシーの乗る小船を指差して仲間たちに呼びかけた。


「隊長……みんなも見て。チェルシーとエミルの乗る小船……」

  

 全員が目を凝《こ》らし、気付いた者から順に息を飲んでいく。

 チェルシーがエミルを連れて乗った小船には他に海賊が2人、白髪の男が1人乗っていたが、さらにその他にエミルのような子供が2人乗っているのだ。

 その髪の色は……1人がエミルと同じく黒髪で、もう1人チェルシーと同じ銀色の髪だった。


 距離があるため、その顔まではハッキリとは見えない。

 しかしプリシラはその2人から目が離せなかった。

 なぜなら彼女にとっては馴染《なじ》み深い者たちに見えたからだ。


「隊長。あれってもしかして……」

「……悪い予感が当たりましたね。あれは……おそらくヴァージル様とウェンディー様でしょう」


 その名を聞いて、その場にいる全員が愕然《がくぜん》とした。

 ヴァージルとウェンディー。

 共和国のイライアス大統領とダニアの銀の女王クローディアの間に生まれた兄妹の名だ。

 プリシラにとっては従兄妹《いとこ》に当たる。

 ともにまだエミルよりも年下の幼い子供たちだった。


「ど、どうしてお2人が? お2人とも首都の大統領の元にいらっしゃるはずでは……」


 事情を知らないエステルが驚愕《きょうがく》の表情でそう言った。

 プリシラを始めとする、他の仲間たちも同様に言葉を失っている。

 唯一、事情を知りなおかつこの事態を恐れていたアーシュラは大きく息を吐いた。

 ここまで来たら隠す意味は無い。


「ヴァージル様とウェンディー様は迫り来る戦火から遠ざけるために、大統領とクローディアの判断で国内の遠隔地に極秘で疎開《そかい》させていたのです。ですが……その途上でチェルシーに捕らえられてしまったのでしょう」

「た、隊長は知っていたのですか?」


 驚《おどろ》くプリシラにアーシュラは首を横に振る。


「いえ。ですが……こういう事態を恐れていました。いかに極秘とは言え、情報はどこかから漏《も》れるものです。残念ならが共和国内には大統領夫妻を好ましく思っていない者たちもおりますので。そして……」


 アーシュラは痛む頭を手で押さえた。


「チェルシーが自らあのような部隊を組んで共和国に潜入していた狙《ねら》いは、大統領の子女であるお2人やダニアのブリジットの息子であるエミル様を捕らえることで、共和国やダニアを牽制《けんせい》し、交渉の手札として使うためだったのでしょう」


 そう言うとアーシュラは悔しげに唇《くちびる》を噛《か》んだ。

 この事態だけは防がなければならなかった。

 だが、今からでも止められる。

 むしろ今、この状況ならば自分達にしか止められない。

 アーシュラは背後に控えている共和国軍の兵士らに鋭く声をかけた。


「今すぐに船の用意を! ある船で構いません! 櫂《かい》も7人分必要です! この7人分が乗れる船を用意して下さい!」


 その迫力に圧倒された共和国軍兵士らは頷《うなづ》くと、すぐに近くの船着き場にある船を探しに行く。  

 その姿には目もくれずアーシュラは部下たちに告げる。


「追いますよ。我々の執念を見せる時です。簡単に逃がすわけにはいきません」

「はい!」


 隊長の言葉にプリシラを始めとして全員が意気揚々(いきようよう)と声を上げる。

 アーシュラは同じ馬車に乗る黒熊狼《ベアウルフ》のバラモンの毛並みを優しく撫でると、オリアーナに目を向けた。


「オリアーナ。海上ですのでバラモンは連れていけません。ここで待つように指示を」

「……はい。ルドルフは連れていきます」


 そう言うとオリアーナは背負っていた鳥かごから鷹《たか》のルドルフを解き放つ。

 ルドルフは大きく翼を広げて、夜明け前の白みがかった空に飛び立つと、オリアーナの遥《はる》か頭上をグルグルと旋回《せんかい》し始めた。

 チェルシーは刻一刻と遠ざかっていく。

 しかし赤毛の女たちは彼らを絶対に逃すまいとその視界の捉《とら》え続けるのだった。


 ☆☆☆☆☆☆


 混乱極まる港町バラーディオからわずか3海里ほど離れた海上に一隻の大きな軍船が止まっている。

 それは共和国海軍が港に停泊しているどの軍船よりも数段大きく、そして外装は防錆《ぼうせい》処理を施した金属で覆《おお》われている。

 その船の帆柱には王国の旗《はた》が括《くく》りつけられ、海風を受けてはためいている。

 大勢の乗組員が乗るその船には十数門の大砲が装備されていて、それ以外にも備えつけられた特殊な回転式の銃器が装備されたものものしい雰囲気を醸し出している。


 今、その船の甲板に1人の女が立っていた。

 長く美しく真っ白な髪が海風に靡《なび》いている。

 年齢は30過ぎだが、まだ若さを残すその顔立ちには気品が漂《ただよ》い、一見すると戦場には似つかわしくない。

 しかし高貴な厚布と軽装の鎧《よろい》でその身を包んだその姿は、戦場に咲く大輪の花のような華やかさを漂《ただよ》わせていた。


「残念だわ。宴《うたげ》の会場に直接お邪魔できないなんて。せっかくおめかししてきたというのに」


 涼《すず》やかな声でそう言うと、その女は血のような真っ赤な紅を引いた形の良い唇《くちびる》をわずかに吊《つ》り上げた。

 彼女こそがこの船の責任者であり、王国のジャイルズ王から船の全権を任されている人物だ。

 その名をシャクナゲといった。

 ジャイルズ王からの寵愛《ちょうあい》著《いちじる》しい、第4の公妾《こうしょう》だった。

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