十五話『名前と思い出』
――――俺がまだ、幼かった頃。
ゴビに会うずっと前。
俺は祖父のもとで暮らしていた。
その時、この部屋には、たくさんの生き物がいた。
彼らと俺はまるで家族のようだった。
『ポチっ、こっちおいで!』
名前としてはありきたりかもしれないけれど、名前を皆につけていた。
大切な、忘れることのない名前を。
あまり外に出ることはできなかったけど、皆と時間を忘れるほど遊んだ。
俺と同じように、皆、身体能力が高かったから、そこらを飛び回るような普通じゃできない遊びもした。
本当に楽しかった。
皆と過ごす時間が。
――――でも、そんな時間はすぐに終わってしまった。
『……え』
破壊し尽くされた部屋。
ピクリとも動かない生き物たち。
『どうしたの!? ねえ…………ねえってば!』
俺が『ポチ』を抱えた手は濡れていて。
そして、ようやく理解した。
部屋が血に塗れていることに。
『え、え、え…………なん、で?』
わからなかった。
理解したくもなかった。
何故、こんなことになったのか。
誰がこんなことをしたのか。
その時はどうでもよくて。
ただ、皆がこの世にいない事実を認めたくなかった。
『なんで、急に…………いなくなるの?』
ずっと一緒だったのに。
俺だけが取り残されて。
『いやだ、いやだよ』
俺の周りには何も残っていなかった。
けれど、名前を呼んで遊んだ日々がずっと俺の頭の中に離れなかった。
皆につけた名前が頭の中で浮かび上がっていく。
大切なもののように、名前とともに記憶が甦っていく。
『ポチ…………』
一緒に走った思い出。
フリスビーで遊んだ思い出。
一緒に草の上で寝転んだ思い出。
皆の名前を呼ぶたびに無限に浮かび上がるこの記憶を見るのが、つらくて、でも、忘れたくなかった。
『ああ…………皆の名前、絶対に忘れないよ』
だから、俺は名前を大切にしたかったんだ。
俺に、大切な思い出を思い出させてくれるように。
皆がいなくなったとしても、確かな思い出を忘れずにいられるように。
その悲劇の後、俺は知った。
これが、黒荻の実験によるものだと。
だから、この思い出の部屋を、実験のために使う黒荻を許すことはできない。




