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その体に出会いと別れの挨拶を ~あの日、憑依した少女にもう一度出会うために~  作者: 炭本 良供
三章「名状しがたい感情」

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十五話『名前と思い出』

――――俺がまだ、幼かった頃。

 ゴビに会うずっと前。


 俺は祖父のもとで暮らしていた。

 その時、この部屋には、たくさんの生き物がいた。

 彼らと俺はまるで家族のようだった。


『ポチっ、こっちおいで!』


 名前としてはありきたりかもしれないけれど、名前を皆につけていた。

 大切な、忘れることのない名前を。

 あまり外に出ることはできなかったけど、皆と時間を忘れるほど遊んだ。

 俺と同じように、皆、身体能力が高かったから、そこらを飛び回るような普通じゃできない遊びもした。

 本当に楽しかった。

 皆と過ごす時間が。




――――でも、そんな時間はすぐに終わってしまった。


『……え』


 破壊し尽くされた部屋。

 ピクリとも動かない生き物たち。


『どうしたの!? ねえ…………ねえってば!』


 俺が『ポチ』を抱えた手は濡れていて。

 そして、ようやく理解した。

 ()()()()()()()()()()()()()


『え、え、え…………なん、で?』


 わからなかった。

 理解したくもなかった。

 何故、こんなことになったのか。

 誰がこんなことをしたのか。

 その時はどうでもよくて。


 ただ、()()()()()()()()()()()を認めたくなかった。


『なんで、急に…………いなくなるの?』


 ずっと一緒だったのに。

 俺だけが取り残されて。


『いやだ、いやだよ』


 俺の周りには何も残っていなかった。

 けれど、()()()()()()()()()()()がずっと俺の頭の中に離れなかった。


 皆につけた名前が頭の中で浮かび上がっていく。

 大切なもののように、名前とともに記憶が甦っていく。


『ポチ…………』


 一緒に走った思い出。

 フリスビーで遊んだ思い出。

 一緒に草の上で寝転んだ思い出。

 皆の名前を呼ぶたびに無限に浮かび上がるこの記憶を見るのが、つらくて、でも、忘れたくなかった。


『ああ…………()()()()()()()()()()()()()


 だから、俺は名前を大切にしたかったんだ。

 俺に、大切な思い出を思い出させてくれるように。

 皆がいなくなったとしても、確かな思い出を忘れずにいられるように。


 その悲劇の後、俺は知った。

 これが、黒荻の実験によるものだと。


 だから、この思い出の部屋を、実験のために使う黒荻を許すことはできない。

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