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その体に出会いと別れの挨拶を ~あの日、憑依した少女にもう一度出会うために~  作者: 炭本 良供
三章「名状しがたい感情」

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六話『想いの花』

 目的の少女の目前にあるのは、広々としたこの空間を埋め尽くすほどの大きさの靄。


――――あれは…………()()()()


 その靄には見覚えがあった。

 サイズは違えど、示杞が液体を注射して変貌した、あの靄と同じものだ。


――――一体どうして、アレがここに…………いや、今はあの少女のことだ。


 だけど、俺の目的はあの少女。

 靄に引き付けられた視線を少女に戻す。


「……………………さて」


 だが、既に少女はその場から去ろうとしていた。


――――追わないと!




「――――待て」


 俺は少女を追いかけようと、足を進めようとした時。

 制止する言葉とともに肩を掴まれていた。


「この世に咲き誇るべき花は?」

「え?」


 追跡を止められたかと思うと、黒髪短髪の眼鏡をかけた男に、不思議な質問を問いかけられた。


 もちろん、咲き誇るべき花というのは人間の観点から見ても、実用的なものだったり、見て癒されるものだったりと一つに限らない。

 答えなんてないはず。

 

 だから、これは()()だ。

 ()()()()()()()()()ための暗号。


「――――答えられないのか?」

「!」


 これは想定外だ。

 暗号なんて知るわけない。


 俺が憑依を生き抜くために身につけた生物の知識も役に立たない。

 答えなくても、間違えても俺は敵と判断されるだろう。


 せめて、花言葉で何か良いものを答えるしかない。


 俺の今の気持ちを表した花言葉。

 そうだ。

 俺の今の気持ちは、その質問の答えは――――


「――――リモニウムだ」

「――――――――」


 リモニウムの花言葉は『途絶えぬ記憶』、そして『変わらぬ誓い』。


 つぐもの感情は戻りつつあるのだと聞いている。

 俺から見ても、可愛らしい表情豊かな少女だ。


 でも。

 あの路地裏で出会ったときのようにはもうさせない。

 あの蒼穹が曇ったかのような目はもうさせたくない。


 これは、俺が勝手に誓ったこと。そして、挫けることのない心。


 だから、この花言葉は俺にピッタリだ。


「――――違う」

「えあっ」


――――まあそうだよね。俺の暗号じゃないんだから。コイツらに合わせないとだよね。手遅れだけど。


「まあ、いい。ついてこい」

「う」


――――前の森ノさんに捕らえられたときみたいに、牢屋行きか……………………? うう。


 

 ※ ※ ※



「ここだ」

「……………………?」


 連れてこられたのは、牢屋とかではなくごく普通の部屋。


「まさか、()()()のほうがかかるとは……………………まあ、本来そういうものだが」

「?」


――――何を言っているんだ? 牢屋に閉じ込められるんじゃ?


「だが。リモニウム、か。気に入った」

「ははは、そりゃどうも」


 おそらくもう侵入がバレている。

 そんな状況で俺が作れる笑顔はただの苦笑い。


「では――――」


 だけど、この男はそんなこと気にも留めず、俺に問いを投げかける。


「――――話してもらおうか。君が一体何者なのかを」

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