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その体に出会いと別れの挨拶を ~あの日、憑依した少女にもう一度出会うために~  作者: 炭本 良供
二章「インターフェース」

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一話『憑依は続く』

「うーん、今日の憑依も疲れた~」


 いつものように睡眠時の憑依を終えた。

 目を開け視界がぼやけたまま、俺は記憶を頼りにして自宅の一階に進もうとする。


「~~~~っ」


 だが、何故か鈍い音と共に頭部に激痛が走る。

 恐らく壁か何かにぶつかったのだろう。

 危うく気絶して2度目の憑依をするところだった。

 でも、気にかかる。


――――こ、こんなところに壁なんてあったか? いや、そうか。


 その疑問はすぐに晴れた。

 俺が怪我していたから、治療のために桃李たちの拠点にいたんだった。

 それなら俺の記憶と壁の位置が異なっているのも頷ける。


――――ん、あ…………れ?


 やがて視界がはっきりとしてくる。

 一応、目前の障害物が何だったか確認する。


「…………?」


 だが、そこには見覚えのないクローゼットがあった。

 

――――いや、これだけじゃない。


 周囲を見渡す。

 他の家具。壁紙。窓の位置。カーテン。

 どれも俺の知らないものばかり。

 俺の家でも、桃李の拠点でもない。

 

 ふと俺はもう一つ、とあることに気づく。


――――俺の体じゃない。


 今の体が俺の体ではない。

 その事実が指すことは一つしかない。


――――憑依が終わって、ないのか?


 2度目の憑依。

 それをいつの間にかにしているということになる。

 

――――何故? 憑依は終わったはずだろ? 二回目か?


 それは、明らかに異常。

 今まで目覚めることなく2度目の憑依をすることなんてなかった。

 

――――ひとまず、これがいつもの憑依ならば待てば俺の体に戻るはず。


 落ち着いて、憑依が終わる時間を待つ。


「…………」


 けれど、いつまでたっても体は戻らない。


「くそっ、やっとつぐもを救い出せる算段が見つかったというのに!」


 憑依が終わるのを待っていられない。


――――今すぐ桃李たちのところに!


 時計の時刻を確認する。

 

――――今の時間は朝の7時。俺が寝たのは、研究所のベッド…………この体に憑依したのが、目が覚めた直前だとすると…………


 憑依した時間、就寝した場所、そして、過去の憑依のデータによる法則から、現在の位置を逆算する。


「よしっ、桃李たちのところから近いっ」


――――憑依した体が男性で残…………いや、ラッキー! 

 

 俺はパジャマから普段着らしいものに着替え、桃李たちの下へと駆け出していった。



※ ※ ※



「ハア、ハア」


 乱れた息を整えて、拠点への入り口である豆腐小屋の前に立つ。

 だが、今の体は俺のものではない。

 桃李たちにどう説明しようか悩む。


――――侵入者と勘違いされて、また森ノさんの能力を……とかはないよな?


「あ」

「…………?」


 目の前を通る人と目があった。

 丁度、豆腐小屋から出てきた男。

 毎日見ているかのような親近感のある顔。

 そして、既視感のある服装。


――――俺っ!?


 今、目の前に立っている男は、研究所のベッドにあるはずの俺の体にそっくりだった。

 俺を見て足が止まったその体は、すぐにまた走り始める。


「おいっ。ちょっと待て!」


 俺が呼び止めてもその体は足を止めない。

 その体をすぐさま追いかける。


――――見間違いなんかじゃない。


 毎日見て、動かしている体を誤認するはずがない。

 まして、今、豆腐小屋の中から出てきた。


――――あれは、()()()()

 

 慣れない体が若干煩わしい。

 でも、追いかけなければいけない。

 俺が憑依したままなのも、アイツが関係しているはずだ。

 今、アイツを見失ったら、もしかしたら俺は元の体に戻れないかもしれない――――



 ※ ※ ※



「おい、もう逃げられないぞ」


 ようやく俺の体を追い詰めた。

 場所は妹の莱夏とのランニングで訪れた公園。


「…………」

「聞いてるの――――か?」


 追い詰めた体の肩を掴み、顔を覗く。


「!?」


――――その体は泣いていた。

 俺の体で、けれど俺とは全く違った表情。

 俺に何かを訴えかけているかのよう。


――――どこか、似ている。

 

 その姿を見て俺が抱いた感情は、襲ってきたつぐもから感じたものと似ていた。

 目の前の彼をつぐもと重ねてしまう。

 何か苦しんでいる。辛いことがあるのかもと。


「ッ!」

「あっ」


 呆然とする俺の隙をついて、体は何も言わず背を向けて逃げ出す。

 考えごとをしていた俺はすぐに追いかけることができない。

 俺はせめてもの思いで手を伸ばして、


「待っ――――」

「付いてくるなっ!」

「っ!!」

「君に僕の何が分かる!?」

「…………」

 

 だけど、何も解決しなかった。

 目の前の体が何であるか。どうしたいのか。何を思っているのか。

 そんなの分かるはずない。

 だって、目の前の彼を認識したのはついさっきなのだから。

 だから、俺は目の前の体に何も言うことができなかった。


「っ、罪の自覚もないやつが踏み込んでくるな!!」


 体はだんだん遠ざかる一方で、俺はただ立ち尽くしていた。

 体は少し離れたところで一度止まって、

 

()()()()()()()()()…………!」


 今にも泣き出しそうな、けれど強気な表情を見せ、俺のものであるはずの体は暗闇へと消えていく。

 その姿はどこか儚くて、悲しかった。

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