真相は闇深く
◆
その翌日、俺は再び王城に〈領地の受領に関して〉の事で呼ばれた。
「なぁ。貴族の生活なんてさっぱり分からないんだが、一体何をしたらいいんだ……?」
王城行きの豪華な馬車に一人乗っていた俺は、小声で召喚獣たちに尋ねた。
『さあ? なんか偉そうにしてたらいいんじゃないの?』
「んなテキトーな……」
『私の時代とは差異があるかもしれませんが……主に、受領した領地の運営、そして戦時には王軍としての軍役です』
「領地の運営って言われてもなぁ。国から給料が出るわけじゃないのか」
『領地における一切の権限は領主にあります。農民から税を取って暮らす権利を得る代わりに、必要時には国に戦力を供給する。そういったところですな』
へぇ。意外とドライな関係なんだな。
「ああ、夢の不労所得……! ……でも、実際めっちゃ面倒くさそうなんだが」
などとぼやいていると、馬車が王城の敷地内で緩やかに停止した。
応接室に案内されると、中には王と数名の文官らしき人がいた。
部屋の中央には重厚な大テーブルが置かれ、その上座に王がかけている。
「ほっほ。よく来た。さ、座らんか」
王は嬉しそうに言って、俺を席に促した。
俺が席につくなり、王は改まった様子で口を開いた。
「先日のクーデターの一件、重ねて礼を言おう。お主とアフェットの証言通り、首謀者はセバスティアンということが使用人等の話から裏が取れている」
「…………」
俺が無言で先を促すと、王は小さくため息を付いてかぶりを振った。
「まったく、恥ずかしい話じゃ……。セバスティアンは、事件の失敗を受けて行方をくらましておる。行き先は恐らく……」
「……バッソ連邦」
俺の言葉に、王が頷いた。
「こちらの裏は取れていないがの。セバスティアンの消えた先からして、アフェットの言葉に間違いは無かろう。共謀者……どうやったのかは分からんが、あの魔物どもをけしかけたのはバッソ連邦のツァイコフ副将軍の線が濃厚じゃ」
すると、文官の一人が肩をすくめながら口を開いた。
「故意に〈次元の歪み〉を生み出す、あるいはコントロールするなど、とても信じられない話です」
その傍らの文官がそれに反応する。
「しかし、事実、示し合わせたように〈アボイド〉が同時に出現し、あまつさえ〈中型クラスター〉までもが陛下に襲いかかっているのだ」
王も、二人の言葉に「うぅむ」と唸った。
「バッソ連邦が、近年、国境付近で不穏な動きをしているのは事実。よもや、百年の歴史ある〈グランクレフ四国同盟〉が破られることは無かろうが……。バッソが〈次元の歪み〉を軍事力に転用しているとなれば、四国の軍事力の拮抗は失われてしまう」
全員が沈黙する。
なんだか、思っていたよりも事態は大事になっているようだ。
っていうか、なんで俺がこの会話の中に入ってるんだ?
勘弁してくれ。
すると、王が俺の心中を察したかのように「ま、それはおいおい考えようかの」と話題を変えるように手を打った。
「さ、コージ殿に受領させる領地を決めてしまおう。今はまだそれ程の領地は与えることが出来ぬがの。いや、本当であれば古に記述のある〈近衛聖騎士〉として予のそばに置いておきたいのじゃが……アントンがうるさいからの」
王がそう言って残念そうな顔をする。
アントンが務める軍団長というのは、ようするに王直属の陸兵団を束ねる官職らしい。
有事の戦力を諸領主に頼るこの国において、直属軍は大事な即戦力だ。
バッソの不穏な動きと共に高まる危機感から、ここ最近、国議においてのアントン軍団長の発言力は高まりを見せている。
……って、アフェットが言ってた。
あいつ、まだ若いのに賢いんだなぁ。
俺が日本にいたときなんて、ニュースもスポーツ関係くらいしか興味なかったのに。
などと、他人事のようにぼんやりと考えている内に、俺の領地に関して王と文官で勝手に話を進め始めていた。
「――ブリオ地方は肥沃です。比較的気候も穏やかで、開発していくのにも適した地かと……」
「いや、コージ殿の戦力をそのような片田舎に押し込めるのは下策。ここはいっそ北方国境付近で辺境領を――」
「男爵の位でか? それこそ異例中の異例。他の辺境伯が黙ってはいないでしょう」
などなど。
ある意味、『俺をどこに飛ばすか』という話で盛り上がっている。
「ちょ、ちょっと待ってください! あの、俺、まだ学生なんだけど……!」
俺が慌てて言うと、王も含め全員がキョトンとした顔をする。
「それがどうしたのじゃ?」
「いや、あんまり遠くになると、学園に通えなくなるな~……と」
俺がおずおずと言うと、文官の一人が驚きに目を見開いた。
「なんと……! 爵位を賜っていながら、学園にまだ通いたいと!?」
「そ、そりゃまぁ……。せっかく〈探索者〉になるために入学したんだし」
諸官と王が顔を見合わせる。
「探索者とな……。安穏とした生活より、むしろ常に戦いの場にその身を置く事を望む……。うーむ。やはり、コージ殿は世の常の人間では無いな」
王はしきりに感銘を受けている。
え。いや、べつにそう言うつもりでは……。
「……よろしい! お主がそう申すならば、土地の受領の件はコージ殿が学園を卒業するまで保留としよう!」
頷きながら言う王に、俺はほっと胸をなでおろした。
「とか言いながら、陛下は単にコージ殿をそばに留めておきたいだけでは……?」
「な、何を言うか。そんなわけなかろー」
文官の一人がじとりとした目で言うと、王は目線を逸らすように明後日の方向を向いた。
王は話をはぐらかすように咳払いをすると、俺に向き直った。
「さて、決めごとは以上じゃが……どうじゃ、コージ殿。少し、朕に付き合って庭の散歩でもせんか?」
庭の散歩……。おっさん二人で、か。
断れる雰囲気でも無いので、俺はすぐに頷いて返した。




