アフェットくん
二人で前室に戻ると、ミア、リヒャルト、マールが待ってくれていた。
「おかえり。どうだった? 目が飛び出るような額を貰ったんじゃないの?」
ミアが笑いながら言う。
「あー、いや、それが……なんか俺、騎士……っていうか〈男爵〉になったらしい」
「……は? カンシャク?」
「いや、男爵。あれ……? 聞き間違えたかな? いや、でも領地も貰えるって言ってたし……って、おいミア!」
ミアが気絶したように倒れ込む。
俺が抱き起こすと、すぐにフラフラと立ち上がった。
「ご、ごめん……。っていうか、〈男爵〉!? 爵位!? 貴族になっちゃったわけ!?」
掴みかからんばかりに詰め寄るミア。
「はーっはっはっは! エクセレント! パーフェクト! この国の連中も、マイプレシャスの価値がようやく分かってきたようだね!! 遅すぎるくらいさッ!」
ばばーん! と両手を広げて全身で喜びを表すリヒャルト。
「コージさん……凄い! おめでとうございます……! レッジェーロの皆にも教えてあげなきゃ!」
マールはそう言いながら、はらはらと感涙していた。
その一連のごたごたを目の当たりにして、アフェットがくすくすと笑った。
「ふふ……。いいなぁ、楽しそうな仲間が一杯いて」
「……えっと、この可愛い男の子は? そういえば、パーティー会場にいた気が……」
ミアがようやくアフェットの存在に気がついたように尋ねた。
「俺と一緒に、陛下達を救出したアフェットだよ」
「いや、ぼくは何にも……」
俺が紹介すると、アフェットが丁寧に頭を下げた。
「はじめまして。アフェット……アフェット・ヴァンラインです」
「うええっ!?」
「ヴァンライン!? ということは、この方が本物の?」
マールが尋ねる。
アフェットは苦笑して頷いた。
「ええ……。その節は、お騒がせいたしました。皆様はご存知だったんですね」
「うん……じゃなかった、はい。コージから事情は伺っておりました。ヴァンライン家の方とは知らず、数々のご無礼……失礼いたしました」
目を丸くして驚いていたミアが一歩引いて頭を下げる。
アフェットは慌てて手を振ってそれを止めた。
「ちょっ……やめてください! もう! これだから、身分がバレるのは嫌だったんだ。お願いですから、僕のことは貴族扱いしないでください」
「いえ、そういうわけには……」
「それに、今は爵位を持ってるコージくんの方が、僕よりもずっと偉いんだから」
「た、確かに……。いや、でも――」
「まぁそう言うなよ、ミアくん」
固く辞するミアを尻目に、リヒャルトがアフェットの肩を抱く。
「アフェット、だったね! 貴族にしては、中々にファッキン・トレビア~ンな奴じゃないか! さ、義兄弟の盃を交わそう!」
「リ、リヒャルトさん! 失礼ですよ……!」
マールが慌てると、アフェットはそれをなだめた。
「いえ、いいんです。むしろ、嬉しいくらいで。こういう風に接してくれる人、僕の周りにはいなかったから……」
「冒険者をやってた時もか?」
俺が意外な顔をすると、アフェットは僅かに影のある微笑を浮かべた。
「レベルが高かったことで疎まれましてね。慌てて〈偽装〉のスキルを上げても、後の祭りでした」
アフェットの言葉にミアたちが顔を見合わせる。
「見せてみてよ」
ミアが言うと、アフェットは困ったような顔をした。
「いえ、でも……」
「ふふ。きっと、大丈夫ですよ」
優しく言うマールに、アフェットは渋々頷くとステータスを表示させた。
【アフェット・ヴァンライン Lv:177
HP:1788/1788
マナ:1092/1092
AP:80/90
ジョブ:魔術騎士
スキル:剣術 90 体術 88 付与魔術 80 パリィング 75 治療 75
観察 50 偽装 99
装備品:稲穂紋の騎士剣
学園の制服 竜鱗のチュニック】
全員の顔色を伺うアフェット。
しかし、ミアたちはべつだん驚愕するようなことは無かった。
「まぁ確かに高いけど……別に、ねぇ?」
ミアがリヒャルトに同意を求める。
「そんな反応!? 逆にショックかも!」
「はっは! 気にする無かれだよ、アフェットくん! 我々は、コージのおかげで異常なステータスには慣れてるからね!」
「えぇ……。そういえば、結局コージくんのステータス教えてもらって無かったな」
アフェットが思い出したように言ったので、俺は部屋に他の誰かがいないのを確認してからステータスを開いて見せた。
【坂内コウジ Lv:501
HP:3,024/3,024
マナ:0/4,539
AP:400/400
ジョブ:召喚師
スキル:召喚術 400 魔獣語 80 幻獣語 80 神獣語 80 観察 60
装備品:稲穂紋の騎士剣
学園の制服 霊銀編みのチュニック】
「あ。また上がってる。そっか、クラスターを倒したからな」
ついでに、昨夜の一件で拝借した〈稲穂紋の騎士剣〉は、今回の叙爵で二人用の新たなものを譲り受けた。
立派な剣だが、重くて腰が痛くなりそうだ。
「……た、確かに……このステータスは…………」
アフェットは俺のステータスを見て顔を引きつらせている。
「レベルもそうですが、スキル値がちょっと尋常では無いですね……。たしかに、これと比べたら、僕なんか凡夫に等しいです」
そう言って困ったような笑みを浮かべる。
しかし、その笑顔は何だか肩の荷が下りたようなスッキリとしたものだった。




