消え去れ、雑兵が!
辺りの空気がぐにゃりと歪んだような気がした。
『ぼしゅう』と言う音がして、炎尖牙が掻き消える。
「なっ……!? そ、そうか! 〈封魔〉とか言うスキル……! リヴィアの魔法が――」
同時に、マガツメの刃撃が襲いかかった。
「リヴィアッ!」
リヴィアの前に跳び出し、剣に意識を集中。
咄嗟に張った白光の障壁が刃尾を受け止める。
「ぐああっ!!」
受け止めきれなかった衝撃に、俺とリヴィアはまとめて吹き飛ばされた。
森の木々を突き破り、その先の草原地帯まで吹き飛ばされる。
『主っ……!』
俺たちの周囲に張った光壁も、地面に叩きつけられると同時に弾け消えた。
丘陵の草原をごろごろと何メートルも転がる。
「……ぐっ……かはっ……!」
「コージ……!」
背中を打って息も出来ない俺を、リヴィアが心配そうに抱え起こす。
「リヴィア……大丈夫……か?」
「あたしは大丈夫だよ……! コージ、しっかり!」
「ごほっ……! すまない、大丈夫だ」
なんとか息を整える。
HPが減少している。
【HP:1,852/2,736】
くそ、こんなにごっそり持ってかれるのかよ……!
俺は、なんとかリヴィアの肩を借りて立ち上がった。
「あいつは……!?」
俺がマガツメの動向を探るよりも早く、森の方から大きな黒い影が音もなく跳んできた。
俺たちの眼前にふわりと着地。
尾の鋼殻の擦れる音がギリギリと鳴る。
どうやら、俺たちに止めを刺すのを優先させるようだ。
『クオォォォン!』
マガツメの咆哮で、再び封魔の領域が生み出される。
マガツメは瀕死の獲物を前にしたように、悠々と俺たちを見下ろした。
「リヴィア! 魔法が使えない以上、俺とランスロットで戦うしかない! 戻っ――」
言いかけた俺の口をリヴィアの人差し指が塞いだ。
「ごめん。ちょっと怒ってるの」
微笑を浮かべて言うと、マガツメの方を振り返って進んでいく。
その小さな身体から溢れ出る、恐ろしいプレッシャー。
『クルルォォ……!』
マガツメは気おされるように数歩後退した。
「魔法が使えなければ、勝てるとでも?」
リヴィアの後ろ姿に、巨大な海龍の姿がダブって見える。
『クカアァァァ!』
マガツメが激しく吼えて刃尾を繰り出した。
横薙ぎに鋭い攻撃が迫る。
しかし、リヴィアが右手をそれに軽く向けると、その尾は空中で静止した。
透明な何かにがっちりと握りしめられているように、びくともしない。
『クアァァァ!?』
マガツメが慌てふためく。
俺のイメージの中に、海神がその剛爪で尾を握りしめている姿が見えた。
リヴィアが腕を振り払うと、その透明な手にマガツメの巨体がぶん投げられた。
『消え去れ、雑兵がッ……!!』
リヴィアの声に重なって、重く響き渡る海神の声。
そのまま、全身を使って掌を地に叩きつけるように振り下ろす。
『クルオォォォォォ……!!』
見えない海龍の爪が、空中のマガツメを大地へと叩き潰した。
草原が巨大な爪の形に抉れる。
マガツメはその中心でぺちゃんこに潰され、小さく声を上げたかと思うと青白い燐光を迸らせて爆散した。
「お……終わった……?」
レベルアップの光が俺の身体を包む。
と、同時に俺のAPが【0/400】になった。
「あっ――」
リヴィアの身体が光りに包まれ、カードとなって俺の手元に戻ってくる。
『主。ギリギリでしたな』
ランスロットもそう言い残してカードに戻った。
「あっぶねぇ……。二人とも、ありがとう」
思い返せば、かなり危険な戦いだった。
俺は背中を冷たい汗が伝うのを感じながら、俺は緑碧と白銀、二枚のカードを丁寧にバインダーに戻した。




