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ざまぁフラグの立った男たち


 乾杯、の声で一口目を飲み下したその時、入り口から新たな客が入店してきた。

 店内の喧騒が急に静かになり、俺たちも自然とその連中に注目する。

 三人組の男たちだ。

 全員が、純白の生地に黒い意匠の入った揃いの服を着ている。

 俺が学生の頃に着てた学校の制服を奇抜にしたらあんな感じになるだろうか。


「……学園の生徒だわ。あのバッヂは〈騎士校〉ね」


 ミアが俺に耳打ちする。

 白服の生徒たちの胸には、鷹の紋章を象った金色のバッヂが留められていた。

 彼らが店の中に進んでくる。


「ちっ。ゴミ溜めみてぇな店だな」


 三人のうちの一人……目付きの悪い青年がそう吐き捨てる。


「はぁ。だから言ったでしょう。平民の来る店など行くものではない、と」


 その隣の、丸眼鏡をかけた長身の男がため息混じりに言った。


「えー。ボク意外と好きなんだけど。いいじゃんなんか、社会の底辺ーって感じで」


 もう一人が楽しそうに言う。

 背が低く、まだ少年にも見えるような感じだ。


「あれー? なんか見ない顔の冒険者くんたちがいるよ?」


 その少年が俺たちを指さした。

 三人はまっすぐ俺たちの方に向かってくると、家畜でも見るような目で見下ろした。

 少年がニコニコと口を開く。


「ねぇ、はじめましてだよね? ボクはティル。こっちの頭良さそうなのがシュピーゲルで、この目付きの悪いのがオーレンだよ」


 にこやかな自己紹介だ。

 醸し出している雰囲気ほど、悪い連中では無いのかも知れない。


「えっと……俺は冒険者のコージです。よろ――」

「あぁ、きみたちのはいらないよ。平民の顔と名前なんていちいち覚えないから」

「ってーか、どけよてめぇら。俺たちが座れねぇだろ」


 目付きの悪いオーレンが俺たちを見下ろして言う。

 剣士なのか、見事な装飾の施された鞘に収められたブロードソードを腰に吊っていた。


「見ての通り、満席さ。座りたいなら入口で待っていたらどうだい?」


 リヒャルトが見上げ返して言った。


「はあ? ……くく……はっはっは! 嘘だろ……? おいおい、なんか平民に説教されちゃったんだけど!」


 オーレンがバカにしたように笑いながら横の二人に言う。

 すると、誰かが後ろで俺にこっそりと耳打ちしてきた。


「あの……貴族のご子息の騎士校生ですよ。やめておいたほうが……」


 後ろのテーブルにいた少女だ。

 肩くらいまでの栗毛の髪に、ふっくらとした穏やかで優しそうな顔。

 よく見たら、彼らと同じく純白の制服を着ている。

 胸には銀のバッヂ。


「あっれぇ? ブタ子ちゃんじゃ~ん! こんなところで何してるの?」

「あわわわ……」


 ティルがおもちゃでも見つけたように言うと、少女は俺の背中に隠れるように身を縮こまらせた。


「トイレの掃除終わったの? 舐められるくらい綺麗にしないと、またお仕置きだよ☆」


 ヘドが出そうなセリフを言いながら、心底愉快そうに笑う。


「こんなとこで遊んでないで、早く〈弓術〉のスキル上げに行きなよ! くっそ弱くて皆に迷惑かけてるんだからさぁ! 自慢の〈代々伝わる長弓〉で、大ナメクジ退治とか! あのボロ弓じゃ無理か! あっはっはっはっは!」


 ティルは流れるように罵倒を続けた。


「ふん。ファッキン・イディオットどもだね。実力のない者ほど、よく吠える」


 リヒャルトが軽蔑するように吐き捨てる。

 その言葉にオーレンとティルは腹を抱えて笑った。


「くっくっ……! だめだ、腹いてぇよ! 底辺平民冒険者の実力だと! あーくそ、〈観察〉持ちのヤツ連れてくればよかった! 校舎のロビーに晒しもんにしてあるブタ子のステータス表の隣に付け加えられたのによぉ!」

「あっはっは! それ最高!」

『コージ。なんなの? こいつら』


 腰に吊ったマジックバインダーがとてつもない殺気を醸し出し始めたのを、俺は表紙に手を添えてなだめる。


「…………」


 俺は、ミアとマールと目配せをした。

 最低な人間だが、学院の生徒だ。揉め事は避けた方がいい。


「失礼しました。行こう」


 そう言ってミアと立ち上がる。


「あなたも、一緒に出ましょう」


 マールは俺の影に隠れている少女に微笑むと、手を引いて歩きだした。


「行くわよ、リヒャルト」


 ミアも臨戦状態のリヒャルトの腕を掴んで席から離れる。


「ゴミ冒険者が。最初からそうしてりゃいいんだよ。さっさと薬草でも集めに行ってこいボケ」

「ブタ子ちゃん、またね~! 今度、あの長弓試射させてよ! またぶっ壊しちゃうかもしれないけど!」


 最低な言葉を背中に吐き捨てられる。

 連中がどっと笑った。


「……いきましょう」


 ミアとリヒャルトも奥歯を噛み締めて耐えていた。

 俺はちらりと振り返りざまに〈観察〉を試みた。

 ターゲットはオーレン。

 あそこまで態度をでかく出来る、貴族の学院生のレベルとはどれほどなのか……。


【オーレン Lv:52

 HP:538/538

 マナ:0/0

 AP:81/81

 ジョブ:剣士

 スキル:剣術 68 パリィング 51 体術 50 格闘術 42 治療 40

 装備品:霊銀の長剣 学園の制服】


「……えぇ?」


 ステータスを見て頓狂な声を上げてしまった俺を、オーレンがギロリと睨んだ。


「なに見てやがる?」

「あ……いえ……」

「消えろクズが」


 オーレンに凄まれて、俺たちはそそくさと店を出た。

 大通りに出て軽く息をつく。


「すみません、わたしのせいで不快な思いを……」


 少女が申し訳無さそうな顔で頭を下げる。


「そんな、あなたのせいじゃないわ」


 ミアが肩に手を置いて慰めた。

 学園生だが、僕らよりはだいぶ年下のようだ。


「いえ、弱いのが悪いんです……。お父様から預かった弓も、上手く使えないし……」


 涙目でうつむく少女。


「あんなファッキン・イディオットどもの言葉は無視すればいいさ! それより、今

後ともよろしく頼むよ、未来の先輩くん!」


 落ち込む少女の手をリヒャルトがぎゅっと握った。


「え……!? 皆さん、もしかして明日の試験を受けるんですか!?」


 マールが頷く。


「ええ。もし受かったら本当に先輩ですね」

「うわぁ……! あなた方みたいな優しい人たちだったら、大歓迎ですよ! 頑張ってくださいね! あ、わたしは来期から二年生のクララって言います!」


 笑顔を輝かせる少女――クララにそれぞれ自己紹介をして、俺たちは彼女と別れた。


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