首都テノール
途中、小村や集落を経由しつつ、荷物を積んだ馬の足で一ヶ月と少し。
ようやく、街道の向こうに白亜の大都市が見えてきた。
『お~。レッジェーロよりおっきいねぇ』
リヴィアが感嘆を上げた。
「わぁ……! 私、テノールって初めてです……!」
リヒャルトの後ろでマールも言う。
「私とリヒャルトは、ギルドのお使いで一、二回来たことあるわね」
「ウィ・マドモアゼル。非常にビューティフルで素敵な街だね。ある一部を除いて」
リヒャルトが含みのある感じで言うと、ミアが、
「まぁ、そこよね」
と苦い顔をした。
「……? どういうことだ?」
「ま、行けば分かるわよ。私たちが行くのは〈学園区〉だから……西側に回りましょう」
前方で街道が三つに別れている。
一番右の街道だけが異様に細く、雑草も生い茂っていた。
「あの道は?」
「……貧民区への道よ」
俺たちはその逆、一番左のルートを選択して進んでいった。
首都テノールの白く高い市壁を抜けると、目の前には学園区が広がっていた。
なだらかな丘陵に作られた市街には白亜の建物が整然と並び、陽光を眩しく反射している。
俺たちは門の近くの厩舎に馬を預けると、学園区中心部へと進んだ。
「取り急いで、入学試験の受付を済ませちゃいましょう」
ミアが先導して美しい街並みを進んでいく。
学園区の中心には広大な自然公園が整備されており、〈テノン国立学園〉はその中にあった。
広い敷地の中には〈国立騎士校〉と〈国立魔術校〉の二つが併設されているらしい。
それぞれ三年制で基本は別々の学校だが、三年次に〈探索者コース〉を選ぶと両校共通の授業なども出てくるらしい。
綺麗に刈り揃えられた芝生の庭園を横切って、俺たちは一番手前に建っている〈学園総合事務所〉に入った。
「失礼。入学試験を受けたいのだが?」
受付に座る妙齢の女性に、リヒャルトが声を掛ける。
「あら。もう書類しまっちゃったわ。こんなギリギリに受付なんて……」
「ギリギリ? 試験は一ヶ月後じゃないの? ほら、これ」
ミアがそう言って、手持ちの〈入学試験要項〉を見せる。
受付の女性はメガネを上げながらそれを一瞥すると、
「あらあら……。ずいぶん古いものだわ。これはもう数年前のもので、今は試験内容も変わっていますよ」
「えええ!? そ、そんな! じゃあ、試験受けれないっていうの!?」
「そうは言ってません。ただ、本当にギリギリよ? 大丈夫?」
「いつなんですか?」
俺が尋ねると、女性が小さく咳払いをしてから答えた。
「明日です」
「……え?」
「ですから、明日です」
「ええええぇぇ!?」
俺たちの絶叫に女性が顔をしかめる。
着いて早々の翌朝から、俺たちは入学試験を受けることになった。
学園の敷地を辞して、時刻は昼時。
今後の話し合いも兼ねて、大通り沿いの酒場で昼食をとることにした。
「うわ。混んでるなぁ……。あ、ちょうどあそこ四人席が空いてるぞ」
労働者や冒険者でごった返す店内で、ちょうど中央の席が一つだけ空いていた。
俺たちはそこに座って、ようやく一息をつく。
「まさか、試験が明日だったなんて……。ごめんなさい、私の確認ミスだったわ」
ミアが額に手を当てながら漏らすのを、マールがなだめた。
「何言ってるんですか。間に合って良かったですよ。明日は頑張りましょうね」
「しかし、対策出来ないまま受けることになりそうだな……」
俺は改めて貰った〈入学試験要項〉に目を通しながら言った。
「ノー・プロブレムだよ、コージ。冒険者としての思いの丈をありのままにぶつけるのさ」
「いや、そうは言ってもなぁ……」
俺が苦笑していると、ミアが同意した。
「そうよ。一次の筆記なんか、気合だけでどうにかなるもんでもないしね」
「……え? 筆記……?」
固まった俺にマールが首をかしげる。
「……? ええ。ほら、ここに」
マールが指をさした場所には〈一次試験:筆記〉と、小さく簡潔だが確かに書いてあった。
「座学、苦手なんですか? でも、きっとそこまで難しい内容は出ないはずですよ。グランクレフ史とか、簡単な魔術理論とか……」
慰めるように言うマール。
だが、何の慰めにもなっていない。
この大陸の歴史なんかわからないし、ましてや〈魔術理論〉って……。
「ダメだ……終わった」
俺が机に突っ伏すと、ミアがカラカラと笑いながら肩を叩いた。
「あっはっは。何よ、あんた結構バカだったの?」
「おや。まるで仲間を見つけたようだね」
「うっさいわね」
リヒャルトの言葉に唇を尖らせるミア。
「あっ、そうだ! リヴィア、ランスロット! 歴史とか魔術なら詳しいんじゃないか!?」
がばっと起き上がって問いかける。
『魔帝国時代の歴史なら良く分かるのですが……。主、申し訳ない』
『あたしも、人間の魔術のことは分からないなぁ』
俺は再び突っ伏してむせび泣いた。
「あ、やっぱダメだ……。みんな今までありがとう。学校に行っても俺のことは忘れないでくれ……」
「マイプレシャス・コージ。気を落とさないでくれたまえよ。一次試験は座学と実技の合計点で決まる。実技で高得点を叩き出せば、ドリーム・カム・トゥルーさ」
『おー! だってさ! それだったら大丈夫じゃない? あたしが全員ぶっちぎってあげる!』
『主。私にも、功を立てる機会を……!』
召喚獣二人が鼻息を荒くする。
「うーん……。何とかなるもんだろうか……」
俺が頭を抱えていると、注文していた飲み物をウェイトレスがテーブルに置いていった。
「ま、とにかくさ。明日の健闘を祈って」
ミアが言って、エール入りのジョッキを掲げた。
俺たちもそれにならう。
マールもアイスティのグラスを両手で持ち上げた。
ここから第二幕です!
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