Magic1
魔術が世界に広まってからもう長い年月が過ぎ去り、それと同時に魔法も世界中に認知された。
魔術と魔法の区別ははっきりと付けられていた。
前者は誰もが修練しだいで習得・上達が可能な後天的なもの。
後者は魔術が世界に広まるまでは[超能力]と呼ばれていた先天的なもの。
魔術師は魔法に追いつき、それを越えることを最大の目標とする家系がほとんどで、世のため人のためにそのチカラを行使しようとする者はまず存在しない。
存在したとしても魔術に足を踏み入れたばかりの一代目の術者で知識も経験も浅いさほど役には立たたない術者ばかりなのが現状だった。
こんな現状を打破するために数年前から国内の主要都市にはそれぞれ一校魔術の習得・鍛錬に力を入れた学園が設立され始めた。
その中でも最も早く設立された中高一貫の[月代学園]に俺、綾野閃の入学が決まったのは入学式の一月前のことだった。
この学校は他の学校設立の先駆けとなったため通称ゼロ校と呼ばれており、この通称は最初に学園設立の話が持ち上がった際にいち早く賛同し、協力した大魔術師[御堂怜治]にもかかっているらしい。
この高校はかなりレベルの高い学校だったがある事情により勉強に全く困ったことが無かったため試験を受けることを決めた時点で入学は決まっていたと言っても過言ではなかった。
ここに決めた理由は家から最も近いということだけだったが、入試直前に一度学校の下見に行った時にもう1つの理由が生まれた。
無駄に大きな校舎やグランドを一通り見て回り、そろそろ帰ろうと校門に足を向けた時に武道場の裏辺りに結界が張られているのを目にした。
目にした結界はそれなりにしっかりとしたもので、もしこの学校の生徒が張ったものだとすればさぞ成績優秀な生徒なのだろう。
ここに入学することがほぼ確実である以上人脈は広いほうがいいと考え、結界を張った生徒と知り合いになっておこうとその結界の張られている場所に足を進めた。
結界の中には意外にも多くの人がいた。
俺から見て手前側には一人の女の子、向こう側には10人ほどの男子……とは言ってもまともに立っているのは半数で明らかに肩で息をしていた。
「喧嘩…だよな?」
確かどこの学校でも普通の喧嘩はもちろん魔術を使用した喧嘩は禁止されているはずだった。
「…にしても、すごいなあの子」
女の子一人であれだけの人数に対処することは魔術師であっても簡単ではないはずだが、目の前の女の子は楽々とはいっていないようだが対処できていた。
しかし、
「もう限界だな」
女の子は後姿だけで分かるほど疲弊していた。
「見ちまったもんは仕方ないか…」
むこうの何人かは止めとばかりにやたら長い詠唱を読み始めた……が、その詠唱は一人の男の言葉で停止した。
「結界が…消えた!!」
結界担当だった男子は突然の事態に慌てふためき、その動揺は周りの男子にも伝染して集団で混乱状態に陥ってしまったようだ。
「大丈夫ですか?」
向こう側の男子達がパニックになっている間に俺は女の子のそばまで近づき声をかけた。
女の子は疲弊しきっている目を目いっぱい開いて俺のほうを見た。
「どうやっ…」
「お前が結界を破ったのか!?」
女の子が何かを言おうとしたのとほぼ同時に結界担当が俺を見つけた。
「悪かったな。アレ結界だったのか?蜘蛛の巣かと思って無意識に振り払ったんだけど…いや〜スマン」
パニック状態から抜けきれていないままで挑発すれば疲弊していても突っ込んでくると予想していたが意外と頭の回転は良いらしい。
「もう一度結界を張る魔力は残っていないしな、今日はもういい。疲れた」
結界担当はそう言いながら周りの殺気立っている男子を治め、倒れている生徒を連れてその場から立ち去った。
10人ほどの男子生徒がぞろぞろと立ち去る姿を見送り終わり横にいる女の子の方に目をやると顔を向けるのと同時に力なく倒れこんだ。
「ちょっっ」
なんとか体を支えるのは間に合ったがとっさのことだったために背中に回した手が胸に思いっきり触れてしまっていた。
この子が気を失っていて良かった。
起きていたらえらい事になっていただろう。
しかしまぁ、
「この子どうしたらいいんだろう?」
左手の位置を胸に触れないようにずらしため息をつきながら全く目を覚ます気配の無い女の子のこれでもかってぐらいに幸せそうな寝顔を拝みながら途方にくれる俺だった。




