別れ
翌日の昼間、水進船がカンナの神木が浮いている水上都市に到着した。
水進船の上で、行商人に交ざっているコハクが、僕たちの方を向いて口を開いた。
「俺はこの人たちと一緒に、ここで降りる」
昨日サラサの話を聞いて、薄らとそうなるかもと覚悟していたけど、やっぱりコハクの口から聞くと、少しだけ気分が落ち込んだ。
「カンナで暮らすんですか? それとも彼らと行商を?」
「ツキカに帰るよ。カンナから人がこなくなってた原因、なくなったから。また、ツキカとカンナの交流を再開させたいんだよね」
コハクの目が真剣な光を帯びて輝いた。
──ああ、コハクさんには、新しく叶えたい夢ができたんだな……。
もう会えないかもしれないけど、頬が緩んだ。
「ロランもサラサもエルド、さんも。これから気を付けて」
頬を掻いたコハクの肩に、ひょこりとリーンの顔が覗いた。
「生き物に別れはつきものなの」
小さな手がパタパタと振られて、リーンの姿がコハクの髪の中に消えた。
「コハクさんとリーンさんも、気を付けてください」
コハクが頷いて、行商人たちと一緒に水進船を降りて、都市の中へと紛れて行った。
船縁から都市の真ん中にあるカンナの神木を眺める。
今まで見たどの神木よりも幹が大きく太かった。
葉は黄色がかっていて、ぽつぽつと青い花が咲いていた。
花よりも青い果実の方が多く実っていて、果実の中から水が溢れて滴り落ちていた。
果実が実っているのが、故郷の神木を思い出させた。
珍しいな……。
エルドも隣で神木を見上げていた。
「ねえねえ二人とも、そろそろ船内で遊ぼうよー」
サラサの呼び声に、エルドと顔を見合わせる。
面倒そうなエルドを連れて、サラサと一緒に船内へと向かった。
◆◆◆
温水遊泳所に行くのはエルドが渋ったから、まずは景品を賭けて遊ぶ場所にきた。
灯りが薄暗くて、少し怖そうな人たちがテーブルを囲んで、笑ったり真剣な表情をして騒いでいた。
エルドが女の人たちに誘われて、遊び始めたのをサラサと一緒に近くで眺めた。
なんか、よく分からなかったけど、最後にエルドが勝って手に入れた景品を僕とサラサにくれた。
青く煌めく石だった。腐敗水域から出てきた神木守が持ってた物より、だいぶ小さかったけど、海の宝石だと思った。
その後は、行商人の店で食べ歩きして、物語を演じる人たちの場所を見に行った。
エルドは大人しく見ていたけど、サラサは途中からうとうとし出して、物語が終わる頃には熟睡していた。
エルドが面倒そうにサラサを部屋まで運び、僕はそのまま自分の部屋に向かって眠りについた。
翌日から水進船はまた動き出して、サラサが言っていた高い山の方に向かうにつれて、肌寒さを感じ始めた。
だから、水進船の中で旅に必要な物を準備して、数日過ごした。
船内から窓の外を見ていると、雪がちらつく水進船乗り場で、船が止まった。
「着いたねー! 世界の果てまでいざゆかん!」
元気なサラサに苦笑いを向けて頷き、三人で水進船を降りた。




