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つらい朝だった。
もう二度と経験したくないと感じる朝だった。
今後の人生を左右する、決定的な朝だった。
そうして私は男の頭を撃ち抜いた。
飛び散る脳漿と吐き気のする臭気を今でも忘れられない。男の顔だったモノは血で汚れて見えない。
私には銃の才能があるのだとその時初めて知った。
男は客の一人だった。男と寝るのが私の仕事だった。殴られるのはしょっちゅうだし、暴言を吐かれることもよくあることだった。私たちは皆ごみ箱なのだ。要らないものを捨てる。排泄物を捨てる。汚いものを捨てる。私たちは受け取るのが仕事。ごみ箱は返事したりしない。すべてを捨て終わった男たちは皆スッキリして帰っていく。私たちがどう感じて何を考えているのかなんて気にもせずに。
ある日、客の男が私を怖がらせようと銃を持ってきた。街の男たちが自慢げに腰に差しているのは知っていたが、じっくり見たことが無い私は興味をそそられた。全然怖がらない私を頭が足りないと思った男は銃を私に持たせて撃ち方を教えてきた。頭が足りないから撃ち方も知らないし、銃を持っても撃てないと考えたのだろう。いや、本当に考えたのかも怪しい。本当は何を思っていたのかなんて今では知る由もないが、とにかく私は銃の撃ち方を教わったのだった。
男は私に男の頭を狙わせた。
「どうせお前は狙っても当たらねぇだろ!」と嘲笑してきた。
「撃ってみろよ!」と男が言う。
完全に酔っている。
私も面倒なことになるのは嫌だったが、初めて銃を撃てるという誘惑には抗い難かった。これを逃せば、もう一生銃を持つ機会なんてないだろう。銃は「男」のものだから。
「ビビっちゃって撃てねぇよなぁ~。」
「これだから女は馬鹿なんだ。男じゃねぇと銃なんか撃てねぇよ!」
「いいから撃てよ~。」
男は完全に酔っている。
一瞬近所の人の顔が頭をよぎったが、人生で一度くらい羽目を外してもいいだろう。私は人生に飽きていた。一生こんな肥溜めみたいな人生を送るのだと辟易していたのだ。何より手に吸い付いてくるような銃の感覚が心地よかった。当たれば他人の命を奪えるモノを手にしている全能感。男たちはいつもこんな気持ちなのか。私は狙いを定める。男の頭が見える。銃身の先にある突起はきっと狙いを合わせる為のものだろう。男の頭が見える。安全装置はとっくに解除してある。人差し指をトリガーにかける。男の顔が鮮明に見える。顔に浮いた汗が見える。にやけた顔をしているが、銃口が自分に向いている事に少し怯えた表情も混じっている。瞬きが増えている。緊張している証拠だ。窓から差す月の光に反射して男の瞳だけが輝いている。
「冗談だよな?怖い顔をしてるぞ姉ちゃん…。」
男の瞳が輝いている。
銃弾が真っ直ぐ男の瞳に吸い込まれていくイメージをする。そうして私はトリガーを引いた。銃弾は恐ろしいほど大きな音を発して真っ直ぐ男の瞳に吸い込まれていった。私のイメージと寸分の狂いもなかった。




