#054 ローダ先輩にお灸をすえましょう。
「へ? もうできたって?」
保健室で眠りから覚めぐぐぅーっと猫みたいにうつ伏せで伸びをしていたローダ先輩に報告したら、聞き間違いかしらという顔をこちらに向けました。
その、そういう無防備な体勢はやめた方が良いと思います。保健室には男子も来るかもしれませんし。
その思いが通じたのか、ローダ先輩はゆっくり四つん這いでベッドの縁まで来て、そのまま足を垂らす形で座り、身だしなみを整えました。
少し顔が赤いのは私たち4人、そして今回はチエ先輩にも見られていると知ってしまったためでしょう。どうも寝起きで頭が正常に働いていなかった模様です。
「相変わらずね。いつまで寝ているつもりなのローダ。もう夜よ」
ローダ先輩はチエ先輩の言葉を咳払いして流します。
「んん、こほん。もう起きたよ。それで、なんだったかな? 何か耳を疑うような言葉が聞こえた気がするけれど?」
どうやら先ほどの報告の時は寝ぼけていたみたいで聞き逃してしまったみたいですね、もう一度私が報告します。
「はい。ローダ先輩からの依頼だった〈中和剤〉5種類、各500個ずつ、すべて完成しました!」
「……僕はいったいどれだけ寝ていたんだ?」
私の報告にローダ先輩はなぜか冷や汗を流しながらチエ先輩とミーア先輩を見ます。
「……10日くらいかしら。ねえミーア?」
「そうね。だから夜更かしはダメだとあれほど言ったのよ」
「そんな……、本当なのかい? た、確かに頭が妙にスッキリしている気がする」
面白がったチエ先輩とミーア先輩がからかうとローダ先輩は顔を引きつらせました。
あれ? 信じています? それは単純に睡眠をとって疲れが取れただけだと思いますよ?
ちなみに後ろで待つシレイアさんとアルストリアさんは嘘だと分かっているので口をもにゅもにゅしてました。
「ど、どうしよう、納期が、絶対遅れちゃダメな納期があったのに全部過ぎてるよ。それに素材はどうなったんだ? 僕に回してくれるはずだった上級素材は? いくら〈中和剤〉があっても素材がなくちゃ意味が無いのに……」
「だから体調管理をしっかりしなさいと言ったでしょ。徹夜が当り前なんて生活しているからそうなるのよ。今度から睡眠はしっかり取りなさい」
「チエちゃんの言うとおりだよローダ。反省して生活習慣を改めないとね」
「……ミーア、チエちゃんではありません。先輩を付けなさいといつも言っているでしょ」
ローダ先輩が白い顔を青くして頭を抱えると、
ここぞとばかりにチエ先輩とミーア先輩が反省を促しました。
「生活習慣を心配するなんて、3人は仲良しさんなんですね」
「……そうですわねぇ。(私は違うように見えるのですが、言わないでおきましょう。シレイアさんにはピュアでいてほしいですから)」
シレイアさんのほっこり発言にアルストリアさんが優しい顔でほっこりします。
小さい声の呟きが最後聞こえてしまいました。
それはともかく、場が和んだところでネタばらしです。
「え!! 10日も寝てたって嘘だったのかい!?」
「信じてたの?」
「寝ぼけてたんだから信じるよ!? 危うく生活習慣を本気で変えるところだったよ!?」
「いやそこは変えなよ。いつか本当に永久の眠りに落ちるわよ」
ローダ先輩の焦りをチエ先輩とミーア先輩は余裕で流します。
「さて、場が温かくなったところで、本題にいきましょう」
「チエとは後で話し合う必要がありそうだよ。それで、本題って?」
「あなた、約束したそうね。ハンナちゃんが依頼をクリアしたら〈生徒会〉にきて手伝うと」
「…………そうだった」
チエ先輩が満を持して告げると、せっかく顔色が戻ってきたローダ先輩がまた青い顔をします。
「早速明日から〈生徒会〉を手伝ってもらうのでそのつもりで。あなた用の仕事が山ほど溜まっているのよ」
「ちょ、ちょっと待ってもらえるかなチエ。あのね、さすがに依頼したその日に全て完了するなんて完全に想定外だったっていうか。僕の想定では最初に納品される予定だった20個ずつで、ある程度の生産の目処が付く予定でね、本格的な生産はそこから―――」
「問答無用よ。クエストは完了したわ。なら報酬を払うのが学園のルール。報酬を渡せないのに依頼をしたなんて学園に伝わったら、分かるでしょ?」
「ううっ、ううう……。こんなの完全に想定外だよ。寝て起きたらすべてが終わってるってどういうことなのさ」
「それが今年の1年生生産専攻トップの実力よ」
チエ先輩とローダ先輩の難しい話は終わったみたいです。
ローダ先輩は時折「ううぅ」と唸っていますが、頭痛でしょうか?
早く納品しすぎて困る、ということは聞いたことがありません。なので大丈夫でしょう。
チエ先輩もミーア先輩も私が気にすることじゃない、大丈夫って言ってくれました。
と、そこでチエ先輩がこちらに向きなおりました。
「ハンナさん。ありがとう。おかげで助かりました」
「はい、お役に立てて良かったです!」
「〈生徒会〉からもいくつか報酬を渡しますから、あとで何が欲しいか確認お願いしますね」
わわ、何かもらえるみたいです。
確か、聞いたことがあります。なぜ三大ギルドが人気なのか。
内申点が上昇し、良い就職先を紹介してもらえるのはもちろんですが、それ以外にもこうして学園から報酬が与えられるからだそうです。
ギルドで働くお給料みたいなものですね。ギルドで働くと、こうしてお給料や特典、報酬がもらえるのです。
そして、三大ギルドの報酬は、レアアイテムや、激レアアイテム。この学園のダンジョンでは手に入らない外部のダンジョンのアイテム・素材などがもらえることもあるそうです。ゼフィルス君が目を輝かせて言っていました。
すごいですよね。
報酬に釣られてこの仕事をしたわけではありませんが、貰える物は喜んで貰いますよ!
「それと、もう一つ、〈生徒会〉から依頼があるのですが――」
「はい! 頑張ります!」
「まだ内容を言っていないのですけど……」
はう。物欲に目が……。
いえ、きっと気のせいに違いありません。
私は冷静になってチエ先輩の話の続きを待ちます。
「実はですね、以前にも少しお話しましたもう1人の〈生徒会〉メンバーのことなの、できれば〈生徒会〉の活動に参加させてもらいたいのよ」
「あ、そういえばメンバーはローダ先輩を合わせて2人いるって言っていました」
「はい。それでローダを〈生徒会〉に引き込ん――、いえ、連れてきてくれたハンナさんの腕を見込んでの依頼となります。もちろん無理そうであればそう報告して貰えれば大丈夫です」
要は、もう1人のメンバーを〈生徒会〉に参加させるようにしてほしい、という依頼ですね。
できるかは分かりませんが、やってみようと思います。
決して〈生徒会〉の報酬に目が眩んだ訳ではありません。
「分かりました。やってみます!」
これは〈生徒会〉のためなのです!




