Confession
「じゃあ、私も仮面くんとお呼びします」
「よろしゅうな、仮面くん」
「は、はい」
「仲間が増えて、セネも仕事が楽になるな」
「ええ、そうですね。そして実は、狼になったことで体力も底上げされたようで、疲労もあまり感じなくなりました」
「それは良かったな」
「セネこそ、人間やのうなって絶望しとるかと思ったわ」
「自分自身、狼になりたい願望があって毛皮を着てしまったわけですから」
「おれと同じっすね」
「そうですね。獣のパワーには憧れますし」
「獣とは正反対の理知的な人間やのに、分からんもんやなー」
「しかし、私もまだ狼人間になって日が浅いので新しい生活に慣れてないです。指は固くて鋭い爪が生えたもの、元の人間と動作は変わらないので問題ないのですが……」
「何が問題なんだ?」
「肌、ですね。まだまだ人間だったときの感覚が残っていて、毛皮だと暑くて暑くて。たまに舌を出してハアハア言うことがありますが、そこはご容赦ください」
「大丈夫だ、問題ねえ。ヴォルフも夏場は常にハアハアしてたからな。ただ、セネがやるとデカい犬みたいだな」
「自分でもそんな気がします。狼の姿になれど、ワンちゃんみたいに可愛がられたいので」
「そやけど、難しいことになるわな」
「何がだ?」
「セネも長いこと独身やろ?こないな姿になってもうたら、相手は人間以外も考えなあかんで?」
「と、唐突ですね……確かに、獣人を対象に伴侶を選ばなくてはなりませんね……」
「なあんだ、そんなことか」
「そんなことて、ヴァーラ」
「ヴァーラさん?」
やおら席を立つと、ヴァーラはセネの鼻面に自らの顔を近付ける。仰け反らせる隙を与えず、セネが口を噤んだ瞬間だった。ヴァーラは大きく自らの口を広げた。
「んっ!?んんっ!?」
ヴァーラは一気にセネのマズルを咥え込んだ。すかさず、両腕をセネの頭に回して抱え込む。突然の出来事に、セネはヴァーラにされるが儘で抵抗も出来なかった。
「んっ……!はぁ、はぁ……ヴァ、ヴァーラさん、な、何を……?」
暫しの抱擁の後に解放されたセネ。鼻の頭や顎はヴァーラの唾液で濡れている。
「ドラゴン流のキスだ」
「キ、キス……」
キスと呼ぶには体裁も脈絡もなく、心の整理が追い付かないセネ。
「セネ、実はずっとお前が好きだった。本当はお前が人間だったときに人間式のキスをしたかったけどな。お前が狼になっちまって正直、平気なふりして内心は驚いてる。でも、狼になってもお前はお前だ。おれがいつかドラゴンになっても、男になっちまってもずっと一緒に居てくれ」
「ヴァーラさん……!」
「お前を愛してる。セネ、おれと結婚してくれ」
獣毛で覆われたセネの手を取るヴァーラ。緋色と黄金色の双眸が合わさった。
「……はい!喜んで!」
セネはヴァーラの力強い手を握り返す。かくして、雄々しいドラゴンハーフの女と女々しい狼男のカップルが誕生した。
「ヴァーラさん、セネさん、両思いだったんすね」
「こりゃめでたいわ!何な、今日はデカいことが立て続けに起こるのう!」
「よく分からないけど、とりあえずおめでとう!」
「仮面くんも喜んでるっす!」
一転して、事務所が幸せな雰囲気に包まれた。
「さて、夫婦の共同作業といこうぜ!」
ヴァーラは自席に積まれた書類の束に取り掛かった。




