Disappearance
「……お、終わったの?」
セーラが恐る恐る、本棚から手を離して体勢を整えた。
「あ、晴れてる……明るい」
部屋を覆っていた暗闇は消え去り、室内の灯りが戻っていた。
「アイーシャさん?」
暗闇で目が利かなかったが、アイーシャの言葉で判断するなら彼女はブラックホールを召喚して暗闇を吸い込んでいたはずだ。
「おら、ここにいっと……」
「え?」
声がする方に、肩で息をしながら立っているアイーシャの姿があった。しかし、様子が違う。
「え、アイーシャさん?体が透けてません!?」
幻のように、アイーシャの姿は薄くぼんやりとしていた。彼女の姿の向こうにあるテーブルが透けて見える。
「力ばわんか使い過ぎたな……おお、こわい」
「使い過ぎたって、大丈夫なんですか!?」
「大丈夫だあよ。元々、この体は分身なだ。本体は店番してっけ」
「そ、そうですか……」
セーラは状況を把握するために辺りを見渡す。
「これ……」
目にしたのは、かめんちゃんが被っていた鉄仮面だった。かめんちゃんが立っていた場所に、顔と後頭部を覆う部分が開かれて転がっていた。
「アイーシャさん、彼女は一体……」
「分がんねえ。これはあだしの考えけっどが……」
アイーシャは鉄仮面を拾い上げる。体が透けても物体には触れられるようだ。
「あの暗闇はあだしの魔法と同し、闇魔法のエナジーだった。あだしのがわんか位が高かったから何とかおん負かしたけっどが……」
「位が高かった……さっき喚んだ契約主も相当の高ランクのように見えましたが」
「あいつはあっちゃ側の世界でも上から3番目だ」
「高っ!?ほぼ魔王さんレベルじゃないですか!」
「魔王が代替わりしたっけ、あいつは3番手さなっただ。前は2位だっただど」
「え、じゃあ今の2位は?」
「あだし」
「えっ!?」
「前は3番手だっただ」
「凄いじゃないですか!」
「いんやぁ。闇魔法ばやる人間は少ねえし、ある程度のとこで選ばれっだ。あだしは残っただけだあよ」
「闇の世界、奥深いですね……」
「んだ。深すぎて、戻って来らんねえだ」
アイーシャは静かに視線を鉄仮面に落とす。
「闇の世界で考えっと、この世の不思議なことは粗方が説明つくだ。かめんちゃん、あんては闇の存在なだな」
「闇の存在?」
「んだ。エネルギーの塊っつーかよ、闇の世界ば切り取ってこの世さそのまんま出てきたって言えば分かるか?」
「ええと……セーラの神聖魔法で考えるなら、天使や使者がこの世界に顕現したような感じですか?」
「んだな。その考えで大丈夫だ」
「だとしたら、依り代が必要です。神聖魔法なら祈りと聖遺物とかで天使を繋ぎますが」
「その依り代がこれになるんだべな」
二人は鉄仮面に視線を注ぐ。
「闇だと触媒とか言うな。存在ばこの世さ繋ぎ止めんのがこの鉄仮面だべ」
「そうだとしても、かめんちゃんは実体を持って活動してましたよね?神聖魔法だと、喚び出した天使はかなり朧気で幻のような感じなんですが」
「そら、喚ばる人間の力量の問題だっぺ。神聖だとそんなに召喚魔法さ力は要んねえし、喚ばった天使もそれなりでスカスカの幻だな。んでも、かめんちゃんは喚ばった人間が……」
「人間が?」
「命を懸けて喚ばったかもしんねえ」
「誰かが命と引き換えに……?」
「んだ。あだしもあんな濃度が高い召喚体は見たときねえ……」
アイーシャは手近のテーブルに仮面を置く。
「そんで、この仮面も普通の物品でねえな」
「普通じゃない?」
「んだ。セーラ、さっき皆して話してたこと覚えてっか?」
「さっきの話……」
「特に、ハセガワさんと毛皮のこと」
「毛皮?」
「時空ば超えた存在だっつーこと」
「そっ、そうなんですか?」
「んだ」
「時空を超えたって、毛皮とヴォルフは別物……」
「んだな。あの毛皮がハセガワさんば包んで、あだしらの世界さ連れて来たんだっぺな」
「それじゃ、この仮面も同じ……」
「だあな……誰が何のために喚ばっただか今となっちゃ分かんねけっどが」
隠す者を失った仮面が暗い眼窩でこちらを見遣る。
「と、ところで、お二人……」
虚を突く間で、ジェイドがアイーシャたちに声を掛ける。
「すみませんっす……手を貸してくださいっす……」
床にへたり込んでいるジェイド。仮面外しの技のときは気丈な振る舞いではあったが力を使い果たしたのか、脚に力が入らないようだ。
「忘れてた!ジェイド!大丈夫!?」
「い、一応、大丈夫といえば大丈夫っすけど……」
ジェイドは部屋の隅に視線を注ぐ。かめんちゃんとの戦闘で負傷したヴァーラとガモットが気を失ったままだった。
「いっけない!ヴァーラさん!ガモットさん!」
「あだしも忘れでたっけ!マット、ハセガワさん!わんか手伝っつくろ!」
「え、あ、はあ……」
「あれー?この人は誰だっけー?」
「マット!後で説明するから!」
「すみませんっす、みんな……おれも甘えて良いっすか……?」
そう言い残し、ジェイドの意識も途絶えた。




