ドキドキと困憊
「…何コソコソやってんの」
「ヒィッッッッ!!」
「お前さ、まともに挨拶できねえのか?」
優にガンを飛ばされ、私はまた身体を小さくさせる。
圭太との話し合いの後、一応顔は出しておこうとミロックハウスへ向かった。
そのタイミングで優に見つかったのである。
…気まずい。
早くこの場を退散したい。
「確かこっちにあったはずなんだけど、ミロックの方かな?」
「だと思うよ、俺見たことないし」
利愛と竜の声が向こうから聞こえてくる。何か探してるのかな?
声をかけようとしたその時、突然優が私の口を塞ぎそのまま部屋の中に連れ込んだ。
「ちょっと、何するの「静かにして」
パタパタと利愛と竜の足音が聞こえる。
どうやら部屋の前にいるらしい。
「やっぱりないよ、ミロックの方探そ」
「勘違いだったかな…まあ戻るか」
そう言うとそのまま音は遠ざかっていった。
辺りが静かになると、私は口を塞いていた優の手を振り払った。
「何のつもり?意味がわからないんだけど?」
「意味がわからないのはお前の方だろ」
優は私の両手首を掴み、そのまま持ち上げられ身動きが取れなくなる。
まるでT◯レボリューションの有名なPVのような格好だ。
あのポーズって何か名前があるんですか?
例え用がなくて困っています。
知っている方は下記メールアドレスまでお願いします。
「俺、まだお前に好きって言われてないけど?」
「はい?」
何を言ってるんだ、この人は。
「何を今更言ってんのよ。もう数ヶ月前のことじゃない。
前も言ったけど、昔のことをネチネチ言う男は嫌われるよ」
「お前が圭太と会ってるの見て思い出した」
圭太と会ってたの見られてた!?いつの間に!?
「あと、全然名前呼ばねえじゃねえかよ」
「あんただって私のことお前って言うじゃん!」
「むつき」
まっすぐ私の目を見て優は言う。
…ズルい、この前もそうだった。
私の手を持つ力を少し強め、優は顔を近づけてくる。
唇が触れるか触れないかギリギリのところで、囁くように言った。
「なあ、むつきは俺のこと好き?」
吐息混じりの優の声が頭の中をこだまする。
とにかく何かがうるさい。
なんの音?これ、また竜たちが戻ってきた?
いや、違う。これは私の心臓の音だ。
ドクンドクンと脈を打つ音。
どんどん早くなっていく。
訳がわからなくなった私は、そのまま優に頭突きをかました。
「いっって!」
油断をしていた優はそのまま後ろに転がる。
「す、好きかどうかなんて分かんないよ!
でもその、竜に言われた時とはなんか違うんだよ、あんたに言われると自分が変な感じになるんだよ!!」
「それ答えじゃん、なんで逆ギレしてんの?バカ?」
「うっさいな!バカっていう人がバ」
バカなんだよ、という言葉は私の口からは発せられなかった。
それよりも前に優が塞いでしまったからだ。
ゆっくりと唇を離す。
優の視線を間近で感じるが、私は彼の姿を見ることができない。
きょ、今日は何曜日だったカナ〜…
「嫌だったら拒否って」
「それした後に言う人いる?順番どうなってんの?」
「違う、もう一回したい」
まっすぐすぎる優の瞳に思わず目を逸らす。
会話が、できない…
「バ、バカじゃないのほんとに…。嫌だって言ってもするクセに」
「いや、本当にしない」
優はゆっくりとまた顔を近づけてくる。
拒否するかどうか考える時間を与えているようにゆっくりと。
ただ、私に拒否するという選択肢は、なかった。
「ふっ、俺の勝ち」
満足そうに言う優。
そのまま私たちはもう一度キスをした。
「…勝負なんかしてないし」
ああ、きっと私は優のこと好きなんだろうな。
嫌でも気付かされてしまった。
ただ心臓が保たないから、ほどほどにしてほしい。
「それじゃ、むつきはもう帰れな」
「アルファバ?」
「アルファバじゃなくて帰れな?表記揺れした緑の悪い魔女かよ」
もう帰れはひどくない???
あれだけ私に好き放題しておいて???
「嫌なら辞めるって言ったのにお前も拒否しなかっただろうが。
なんか熱っぽいから休んだ方が良い。疲れ溜まってるんじゃないか?」
「なんで思ってることがわかったの!?」
「感情が顔に出過ぎ、扱いやすくて助かるけど」
ずっと私より優位な場所にいてやっぱりムカつく。
ムカつくけど…なんか、こういうのも、いいかもしれない……
って!惚けるな如月むつき!
しっかりしろ!
「でも熱なんかあるかなあ、そんな感じはしないけど」
「あれだけくっついてたんだから間違いねえよ、なあ?」
ニヤニヤしながら優は言う。
「そうですね!もしかするとあなたの言うとおり風邪でも引いたのかもしれないですね!
それじゃ私はここで寝るので、早く出て行ってください!!」
そう言い、私は部屋のベッドに寝転がった。
ミロックハウスには個々に部屋が割り振られていて、泊まれるようにもなっている。
このままふて寝してやろう。
そしたら優も懲りて出ていくだろう。
そう思い頭まで布団を被っていたが、出ていく気配が全くない。
あいつ何やってるんだ…?
気になって布団から顔を出すと、さらに優はニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「…ここ、俺の部屋なんだけどそこで寝るっていうのはつまりそういうこと?誘ってんの?」
「か、帰ります!!!」
「はいはい、気をつけてな」
ひらひら〜と優は手を振った。
あまりにも手の裏で転がされすぎている。
でも、正直助かったところもある。
連日マリックの情報を探しつつ、学校も行きながらで少し疲れは溜まっていた。
竜や零ちゃんには行くと伝えたままで悪いが、優が上手く言ってくれるだろう。
「…熱が上がってたら優のせいだからね」
そう呟き、私は帰路へ着く。
そしてそのままベッドに倒れた後からの記憶がない。
次に起きた時には、もう朝になっていた。
なんか、身体が重たい…フラフラする……
ゆっくり階段を降りてリビングへ向かう。
「あらむつき、あんた大丈夫?顔色悪いけど」
「大丈夫、朝ごはん食べて学校行かなきゃ…」
「一応測っときなさい」
お母さんから体温計を渡される。
熱?まさか私に熱がある訳が…
「ふ、フラグだったー!!!」
「何叫んでるの、今日はもう休みなさい。学校にも連絡しとくから」
38度、しっかり発火しております、私。
というか、別に昨日は体調悪くなかったよね?
優が言ってからなんかそんな感じがしてきて…
言の葉の力ってこと?優の新しい四季剣の力!?
……ダメだ、今日は大人しくしておこう。
何をしてもダメな気がする。
私はおでこに冷えピタを貼ってまたベッドへと潜った。
それから夕方までしっかり休み、体調はかなり改善した。
結局朝ごはんは食べられなかったんだっけ。
少しお腹が空いたな…
手すりを使いながらまたリビングへ行く。
私に気づいたお母さんが言った。
「だいぶ顔色は良くなったわね、よく寝た?」
「うん寝た、お腹空いちゃった」
「ならゼリー食べる?」
冷蔵庫からフルーツゼリーを取り出す。
なぜか個包装されている。
「これね、むつきのクラスメイトの子が持ってきてくれたのよ」
「クラスメイト?誰だろ、どんな感じの子?」
「黒髪の男の子だったわよ」
「ふーん、そうなんだ…」
どう考えても優だ、来てくれたんだ。
…嬉しいな。
お母さんに表情を悟られないように私は少し顔を背けた。
「その子、家に2回来たのよね」
「なんで!?どう2回!?」
聞き捨てならない言葉が聞こえて反応してしまう。
「1回目は他の子とプリントを持ってきて、その後1人でゼリーを持ってきてくれたのよ。
これなら食べられるかなと思ってだって。
むつき呼ぼうか?って聞いたら大丈夫って言うからそのまま帰っちゃったけど」
「な、なるほどね」
……あとでお礼を言おう。
私はゼリーを食べながら少し温かい気持ちになった。
夜にもなれば、体調はもうほぼ回復していた。
明日から学校も行けそうだ。
あ、優に連絡しとこう。
スマホを開くと、圭太から連絡が来ていた。
『マリック潜入調査、いつにします?」
そういえば日付まで決めてなかったな。
私は圭太に電話をかけると3コール目に出てくれた。
「もしもし?ごめんね連絡遅くなっちゃって」
『いや大丈夫ですよ、むつき先輩も忙しいでしょうし。
で、さっそくなんですけどいつが良いですか?1週間後?』
「…明日にしましょう」
『そう来ると思った!それじゃ明日、この前のファストフード店で待ち合わせしましょう。
校門前だと少し目立っちゃうから。前大変だったんで』
「わかった、明日はお願いね」
『もちろんです、任せてください!』
要件だけ済ませて、電話を切った。
うかうかしている場合ではない、気合を入れないと。
…忘れないうちに優にも連絡しとくか。
そう思いアプリを開くと、既にメッセージが来ていた。
『本当に風邪引くとか笑える。
俺に移ってたらちゃんと責任取れよな。
キスまでしたんだから』
ンムムキィィィ!!!!
『うるさい!!!!!!
もう元気だから!!!!!!!!!
明日には学校行くから!!!!!!!!!!!!』
今まで生きていた中で一番エクスクラメーションマークを使った気がする。
1分も経たずに返事が来る。
『おやすみ』
こ、こいつといると疲れてぶり返しそうだ…
それでも明日に影響が出てはいけない。
私は、そのままスマホを閉じ眠ることにした。




