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秘密結社のお姉様!?  作者: 折上莢
きそうきょく編
68/71

霧の中

「お姉様!」


梓は目を閉じて衝撃に備える。しかしいつまで経っても痛みは訪れない。


「は、るき…」


千春の悲痛な声が耳に届いて目を開ける。


「…遥希」

「馬鹿だなあエゼル。どうせ姉貴のこと聞いたか調べたかしたんでしょ? でも残念。お前はもっと、俺たちのことも警戒すべきだ」


梓の前には遥希が立っていた。霧を纏った彼は、エゼルから見たら梓しかいないように見える。ティーシャツを赤く染めながら、遥希は挑発的に笑う。


「お前は俺のことも烈のことも、もちろん千春のこともよく知ってる。Lancelotの能力を考えて、碧流と姉貴が危険だと考えたんだろうけどさ」


霧が濃くなった。梓の視界にもエゼルの視界にも、遥希は映らない。

彼は笑う。血の匂いを纏ったまま、梓と千春を守るように立って。


「俺らのことももっと気にした方がいいよ。まだ未覚醒なんだから!」

「…ッ、『五月雨』!」


声と共に、周囲の空気が凍る。梓は霧でよく見えない視界に臨戦態勢を取りながら、音のする方へ進もうとした。

血の匂いが気持ち悪い。それでも、真っ赤に染まるシャツを見て、エゼルに立ち向かわないわけにはいかなかった。

彼の発動した能力が、地面に叩きつけられる音がする。それを頼りに一歩を踏み出した途端、腕を掴まれ真逆の方向に引き摺られた。


「…千春?」

「はい、お姉様」

「千春、無気力さんは」

「…一旦引きましょう、お姉様。火力の足りない今、この状況はあまりにも分が悪すぎます」

「千春」

「…あの、遥希が作った時間です。逃げましょうお姉様」


千春に腕を引かれる。つまずくように動き出した足は、エゼルの音がする方角とは真逆に進んでいく。

音が遠ざかる。千春の足は止まらない。


「千春、待って、無気力さんが、遥希さんが来てない。血が出てた、連れて帰って治療しなきゃ」

「…大丈夫です。あいつは本当にしぶといので」

「でもッ」


千春はそれっきり口を噤んだ。背中を向けている彼女の顔は見えない。梓は何度も千春を呼んだ。しかし返事をすることも、止まることもなく、二人は『蜃気楼』の範囲外まで来た。

陽が落ちた暗闇の中、ようやく止まった千春の手を握ったまま振り返る。


いつの間にか、背後にすら霧はなかった。


「…はるきさん…?」



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