エゼルと千春
千春の言葉が詰まった。
「お前と烈は違う。お前と同じには生きられない。臆病で優しいあいつを地獄に引き込んだのはお前だ、千春」
「っ…」
ぐっと歯を愛い縛る千春は、それ以上言葉が出てこないようだった。
黙った千春から視線を外したエゼルは、遥希と、その後ろに庇われている状態の梓を見つめた。
「…お前たちは烈のことを何も知らないな。それに、碧流のことも」
「…碧流も、お前の仕業なの」
「手を引いたのは私ではない。私の部下だ」
「変わらないじゃない」
吐き捨てた梓はエゼルを睨みつける。鋭い視線を涼し気に受け流したエゼルは、口元を更に歪めた。
「流石は剣木のひとり。この世界への親和性が高いな」
「碧流と烈はどこ。私の家族だよ、返して」
「碧流はともかく、烈は知らん。碧流も、そうやすやすと返す気はないがな」
エゼルの周りの空気が凍り始めた。
『五月雨』
氷の飛礫が襲い掛かる。咄嗟に千春が諸手を掲げて桜を召喚した。
『桜吹雪!』
視界を覆う桜の花びらが、飛礫を弾いて落としていく。それでもエゼルは、氷を召喚するのを止めない。
『一角獣』
ピンクのカーテンの中から、腕を剣化した梓が飛び掛かる。切っ先はエゼルの胸を捉えるが、触れる直前に剣の先が凍った。
腕を横に薙いで完全に凍るのを回避した梓は、一度地面についた足を力強く蹴り後退する。剣だった指先は赤く悴んでいて、再び剣化できるまでは時間が掛かりそうだ。
「お姉様!?」
「大丈夫!」
短く答えて、逆の腕を力を籠める。
しかし、剣化が起きない。梓は自分の身体から血の気が引いていくのを感じた。
「もう終わりか? 未覚醒の剣木というのは呆気ないな」
エゼルの飛礫が、梓を囲んだ。
氷の向こうで、掲げた手を握る。
『五月雨』




