家族、でしょう…?
「…お姉様、やっぱり顔色が悪いですよ。どうかなさいましたか?」
心配そうな声音の千春に、背を向けたまま答える。
「ううん、違うの…」
「お姉様。私今寂しくなりました」
予想外の言葉に驚いて振り返ると、むすっとした顔の千春。
手が伸びてきて、私の頬を摘まんだ。
「お姉様、違くありません。他者が辛そうだと言ってるんです。話してください。…家族、でしょう…?」
語尾が萎んでいく。
私は、もしかしたら無意識のうちに、家族に話すということを忘れていたんだろうか。
「…っ、あの、ね…っ」
堪え切れなくなった嗚咽が、言葉とともに溢れる。
暦が家を出てから、私は何があっても一人で抱えてきた。そうするしかなかったから。
学校で嫌なことがあっても、楽しいことがあっても。話せる家族が家にいなかったから。
でも、今は。
千春がいる、烈がいる、碧流がいる、遥希さんがいる。
私の、Lancelotが。
「そう、だったんですか…」
「うん…」
話し終わった頃、リビングのドアが開いた。
「オラ、キリキリ歩けや!」
「え〜眠いよ」
「遥希」
千春の声が、地を這っている。
びっくりして涙が止まった。
「えっ、何…」
「遥希、ちょっと面貸しなさい」
笑っている。いや、微笑んではいるんだけど、声が怒ってる。前に聞いた、ドスの効いた声。
そのまま無気力さんの首根っこを掴んで、リビングから出て行った。
取り残された私と烈。
烈は唖然と閉まったドアを見ていた。
「あ…姉御? あいつ、どうした、ってお前もどうした!? なんで泣いてる!?」
「いや…千春怖くて涙引っ込んだ…」
「今はな!?」
ごしごしと烈が頬に残った涙の跡を消してくれる。
「こんな顔で学校行ったら、絶対なんか言われんだろ…」
「ああ…今日学校か…」
「今日平日だわ」
何言ってんだよと笑う。
そうね、あなたたちは平日も休日だものね…。
「朝飯、昨日の夕飯の残りでいいか? あっためる」
「うん、ありがとう」
洗面所で顔を洗い、髪を梳かす。
烈が温めてくれたおかずとホカホカのご飯を食べて、食器を流しに出した。
千春と無気力さんは戻ってこない。
「…いつまで話してるんだ、あの二人」
「廊下出たくない…」
でも着替えてこなきゃ、時間がなくなる。
仕方なしに、椅子から立ち上がった時、ドアが開いた。
両頬を真っ赤に腫らした無気力さんと、澄まし顔の千春が戻ってくる。
「あ…おはよう、姉貴」
「お、おはよう…」
ぎこちなく挨拶を交わす。そして無言。
言わなきゃいけないことがある。早く言わなきゃ、どんどん言いづらくなる。
でも、言葉が出て来ない。
「…姉御、そろそろ着替えて来ないと遅刻するぞ」
「あ、うん!」
烈の言葉で我に返り、リビングを出る。
…謝らなきゃ。わかってる。
でも、何故だかいつもみたいに、彼と話せない。
☆ ☆ ☆
「…で」
姉御とぎこちなく挨拶を交わした遥希を前に座らせる。
「まず、その頬どうした」
「…千春に引き千切られそうになった」
目を逸らし、頬を摩る遥希。痛そうだ。どんだけ抓られていたんだ。
「…姉御に、何言ったんだ?」
遥希は黙り込んだ。
沈黙。答えない。
助けを求めるように千春を見た。
「答えないんです。だから無理矢理言わせようと頬抓ってたんですけどねえ…」
頑なに口を割らない遥希に、千春が諦めたようだ。
「でも、悪いと思ってる自覚はあるんでしょう? 謝るが吉だと思いますが」
「…わかってるよ、そんな事」
いつもより声のトーンが低い。
そりゃそうか。姉御を怒らせたんだ。
唯一無二、他には絶対にいない、俺たちのリーダー。これで、姉御がお姉様やめるなんて言い出したら俺たちはまた、戻ってしまう。
もう戻りたくない。それは遥希だって同じはずだ。前のリーダーが逃げてから、俺たちは裏切られたショックで腐っていた。
「…でも、今の見ただろ? 姉貴、俺と目合わせてくれなかった…」
「おい大丈夫かよ年長者」
いつもの飄々振りはどうした。夢の中にでも置いてきたか?
「…遥希、あなたはお姉様のことをどう思っていますか?」




