は? 鈍感ですか
遥希が小さく揺れた。
「…わからない」
「…わかんねーわけねーだろ」
あんな好意全開にしといて、今更何を。
頭叩いてやろうかと思ったが、沈んだ顔のまま微かに眉間にしわを寄せている。本当にわからないみたいだ。こんな遥希初めて見た。
こいつは多分姉御の事が好きだ。側から見てもわかるほどには。
それは、“お姉様”としてではない。遥希は、明らかに、異性として剣木梓が好きなんだ。
鈍感の千春でもわかる。遥希が姉御を見る目は、
違う。でも、本人はそれを無意識でやっている。自覚は殆どない。
「は? 鈍感ですか」
「千春にだけは言われたくねーと思う」
半眼で睨め付ける千春ツッコミを入れる。マジで千春にだけは言われたくない。お前の鈍感のせいで俺がどれだけ傷付いていると。
「…姉貴を、守るためだったんだ」
ぽつりと遥希が呟いた。
「あれが、最良だと思った。…思ったから、俺は碧流に言った。姉貴を操って、この台詞を言わせて…って」
解かないなら、あなたを殺して千春を目覚めさせる。
いつもからは想像できないくらい、冷たい声音で姉御は言った。
遥希は両手で顔を覆う。
「あのまま膠着状態で、もし姉貴が人形遣いの所に行くって言い出したら? 千春を戻すのと交換条件に、あいつの手に落ちたら? …そんなの、嫌だ」
確かに、姉御なら言いかねない言葉だ。
千春は悲しそうに目を伏せる。こいつは人質だった。自分を巡ってそんなやりとりがあったなんて知らない。
「姉貴を一生手離すくらいなら、碧流を利用してでも、姉貴にやってもらう方がいいと思った。あの人形を、壊してでも。だから、俺は…」
遥希の言葉が止まる。
俺は溜息を吐いた。
「…つまり」
自覚無しのくせして一丁前に嫉妬してたわけだ、こいつは。
姉貴が怒っていたのは、遥希が碧流に人を操らせたこと。碧流の奇想曲はそういった洗脳もできる。しかし、その使い方は人道的だとは言えない。
碧流はまだ子供だ。能力だって不安定で、使い方もまだ上手くはない。そんな初心者状態の奴に間違った使い方を教えてはいけない。
「発現は姉貴の方が後のはずなんだけどな。…本当に、リーダーの鏡のようだな。姉御は」




