最良の方法
「…仕方ないよ。そうしなきゃ、こっちが死んでた」
「でも! あんなことしなくても、止める方法なんていくらでもっ」
「ないよ」
私を見下ろす無気力さんの瞳が、いつもより冷たかった。
「…どうして…?」
「あれが最良だったんだよ、姉貴。千春が人質に取られてた、あの状況では…碧流に、やってもらうしかなかった」
本当にあれが最良だったんだろうか。
まだ十一歳の碧流に、脅しまがいの台詞を使わせて。私を、操らせて。
それが本当に、能力の正しい使い方なのか。
「…姉貴、俺は」
「もう…いい」
話しても、無駄だと思った。
無気力さんの言う“最良”の意味がわからない。何を言われても、理解できる気がしなかった。
リビングでお茶を飲む無気力さんに背を向け、私は部屋に戻った。
「…最良、だったの…あれが…?」
カチリ、時計の針が十二の位置で重なった。
碧流にあんなことさせなくても。尊に刃を突きつけなくても。解決できる道はなかったの?
「…おねえちゃん…?」
布団から寝ぼけ眼を擦りながら起き上がった碧流。ベッドが足りないから、碧流は私のベッドと千春が寝てるお母さんのベッドを行き来することになった。
今日は、私のところの日。
碧流は私を見て、首をかしげる。
「…ごめんね、碧流…」
私は、リーダーなのに。
お姉様なのに。幼い彼女に、酷いことをやらせてしまった。
千春には怪我をさせた。烈には無理をさせた。
そして遥希さんには、お姉様の代わりに、事の収束に当たった。
セストを、尊の家族とも言える子を壊して、気が動転した私の代わりに。
護るなんて言っておきながら、私は何も護れていない。
「…ごめんね…っ」
悪いのは、無気力さんじゃない。
…私なんだ。
体のずっと奥で、何かがきゅぅっと締め付けられる。
その後すぐに、私は意識を手放した。
「…はよ、姉御」
「おはよう、烈…」
寝落ちした私に、碧流は布団を掛けてくれたようで、朝起きたらベッドに寄りかかったまま寝ていた。
お陰で体が痛い。
「…無気力さんは?」
「あー…昨日寝るの遅かったみてーで、まだ寝てる」
「…そっか」
千春は、と口を開き掛けた時、リビングのドアが開いた。
「お姉様ーーー!!!」
「ゔっ」
私に向かって一直線で飛び掛かってきた千春。衝撃で変な声が出た。
「お姉様…やっと本物に会えました! ご心配をおかけしました、私はもう大丈夫です!」
いつも通りだ。きちんと着物を着たのに、着崩れをお構い無しに飛び掛かってくる。
「千春…もう、平気?」
「はい! もうすごく元気です!」
…よかった。
「…お姉様? お元気がありませんけど…」
「え? いや、全然…元気だよ。ちょっと寝不足だけど」
心配そうに私の目を見る千春。なんだか、心の中まで見透かされそうで、目を逸らした。
「…俺、遥希起こしてくるわ」
「え、あのニートまだ起きてないんですか!? ちょっと、烈! 一発ぶん殴ってきなさい!」
「お前目覚めた途端元気だな!?」
ああ…無気力さんに、謝らなきゃ。
彼は私の代わりに決断したのに、それを否定して、もっと他に方法があったとか言って…。
私は、何もすることができなかったのに。




