今からでも遅くないよ。
「…あ、来てくれた。“家族”の事になると大人しく来るんだね?」
両手を広げ、歓迎するかのような態度の尊。後ろには、人形が控えている。
「…千春に、何をしたの」
「僕の能力は『案山子』。ものに命を吹き込む事ができる能力。それを使って、その子の体にもう一つの命を入れさせてもらったんだ」
尊の口が、三日月を描く。
「定着させるのに、本来一週間くらいかかるもんなんだけどね。その子の中には、今二つ分の命が入ってるんだよ」
目覚めない理由は、それ。
千春の中には、千春と、別の命が入ってる。そして、その別の命が定着しようとしてるから、千春は目覚めない。
「本当は、梓のためにとって置いたものなんだ。…ねえ梓? 今からでも遅くないよ。僕の人形になって」
不意に、尊が片手をポケットにしまった。
「…嫌だ」
「そっか…なら、仕方ないね」
尊が地を蹴った。ポケットから抜いた手には、閃光を放つスタンガン。
反射的に、スタンガンを狙って剣化した右腕を振るった。
ところが、私の腕はスタンガンを捕えられなかった。
尊が後ろに倒れる。彼と入れ替わりに出て来たのは、セスト。
「ワタシは、マスターが、いなきゃ…生きられないの…マスターが、ワタシに命をくれたから、マスターは…ワタシの、大切な…」
嫌だ。
腕を引っ込めようとしたが戻らない。私の剣は、セストを袈裟懸けに斬り裂いた。
カランと、軽い音が地面に落ちる。
「ぁ…」
生気が、命が。抜けて行くのがわかる。
尊の能力が切れた…いや、違う。
私が、殺した。
私が斬った。
不意に、綺麗な声で紡がれる唄が耳から頭を侵食しはじめた。
辛うじて後ろを振り返る。予想通り碧流が歌っていた。一番最初に誘拐された時の声。
しかし、今回は意識があった。
ただ、体は動かない。右腕の剣どころか指一本さえ動かせない。
私は、まっすぐ尊を見据えた。
「…『千春に掛けた能力を、解いて』」
私の声が、私の口から言葉を紡ぐ。
私のものではない言葉を。
「『…解かないなら、あなたを殺して千春を目覚めさせる』」
血の気がサッと引いた。
殺す? 私が、尊を?
そんなこと、できるわけがない。
私を操っているのは碧流だ。でも、この台詞を作ってるのは絶対に碧流じゃない。
私の腕が、尊の首に触れた。
「…わかったよ」
尊が両手を挙げる。スタンガンが落ちた。
「解くよ。…今回は、諦める」
* * *
「…無気力さん、話がある」
「んー? 何、姉貴」
飄々とこちらを見上げる無気力さん。
千春は目覚めた。でも、すぐに眠ってしまったため、烈が布団に運んでいった。碧流はもう寝た。
リビングには、無気力さんと私だけ。
「…あの台詞を碧流に吹き込んだの、無気力さんでしょ」




