当たった予感
予感が当たった。
今、家には眠ったままの千春がいる。Lancelotの攻撃の要は私だ。その私はここにいる。
人形三人を相手にするなんて、とてもじゃないけど無理だ。
「っ!」
「あれ、何処行くの? 梓」
ひらりとプリーモが私の前に立ちはだかる。
後ろには、セコンドとテルツォが尊に付き従っている。
「…逃がさないよ、梓。君を、彼らの所には帰さない」
プリーモが、私に向かって一歩踏み出した。
* * *
「…? お姉ちゃん…?」
「あ…? どうした碧流。姉御なら部屋で寝てんだろ」
「いない。れつは、何してるの?」
「喉乾いたから、水飲みに…。…」
コップに水を注いで、部屋の違和感に気づいた。
姉御のパーカーが、ない。
「…碧流。遥希叩き起こしてこい。何してもいい、奇想曲ぶっ放してもいい。急いで起こせ」
「う、うん! わかった」
碧流が階段を駆け上がったのを見送り、窓の外を見据える。
ゆらりと現れた、二つの影。
「冗談じゃねーよ、引っ越して早々…!」
ホラーゲームかっつーの。夜な夜な窓の外に現れる女とか。
この暗い中、ぼんやり輝く瞳。一対は赤、一対は紫。
一番端の瞳の色には、見覚えがあった。
「…二度も」
二度も同じやつに、千春を傷付けさせる訳にはいかない。
窓を開けて、庭へ飛び降りた。
「Lancelot」
「マスターの敵」
見覚えのある片方が、ぬいぐるみを掲げる。
勢いよく起動したそれは、まっすぐ俺に向かって飛んできた。
「二度も同じ事させるか!」
持っていたライターに着火。手を翳す。
小さな炎はうねり、ぬいぐるみを呑み込んだ。
黒焦げになった猫が、地面に落ちる。
初めて、奴の顔に表情を見た。
「…セスト」
片方の白髪紫目がセストの腕を引く。
「マスターの命令」
「あ…めい、れ…?」
なんだかよくわからないが、片方を戦闘不能にできたらしい。
好機だ。これを逃すな。
自分に言い聞かせ、もう一度炎に手を翳した、その時。
「…っ、ああああああああああ!!」
空気を震わせる高音が響いた。
碧流? あいつ、何やってるんだ!?
「室内は任せたわ、クイント」
耳元で、風を切る音。
咄嗟に横へ転がった。
「わたしの名前はクアルト。マスターのドール、四番目」
クアルトの肩には、セストの猫と同じような熊のぬいぐるみ。
熊は、刀を握っていた。
「わたしには双子の妹がいる。名前はクイント」
家の中から再び高音。
まずい、まずいまずいまずい…!
中には意識不明の千春がいる。遥希は明らか戦闘向きじゃないし、俺が外で防ぎつつ姉御の帰還を待つ予定だったのに。
そもそも俺の炎は威力が弱い。できてぬいぐるみ丸焦げにさせるくらいだ。人間にダメージ与えられるほどの攻撃力はない。
しかも相手は人形だ。
「っ、姉御…!」
頼む、早く戻ってきてくれ…!
* * *
「っは…!」
もう何分経っただろう。体感的にはとんでもなく長いこと戦っているような気がする。
「ねえ梓。勝てると思うの? 三対一、しかもこちらは人形だ!」
剣の届かない安全地帯で、尊が笑う。
小さく舌打ちして、プリーモから距離を取った。
ついさっき、怒りに反応したのか右腕が剣化した。私の意思で元には戻らないが、今は都合がいいのでこのまま使うことにする。
予想では脚もなると思ったんだがそう上手くはいかないようで。
一角獣が発動したのは右腕だけ。過去二回使えたはずの特大ジャンプは、なんでか今回使えない。
「護るなんて思ってるから」
「…うるさい」
「あはは。僕の人形になれば、使い方教えてあげるのに」
「過程が怖そうだから遠慮する」
「なら無理矢理そうするまでだよ」
尊の声音が冷たくなる。
三体が、一斉に飛びかかってきた。




