具体的なイメージ…。
幼い碧流は、自分を捨てて逃げた元リーダーを嫌っている。
当然だ。彼が逃げたせいで、彼女は恐ろしい目にあった。
「…お姉ちゃん」
碧流が、震える声で私を呼ぶ。
手にあるはんぺんは、もういいだろってくらい細かく潰されていた。
「お姉ちゃんは…わたしを、みすてないよね…?」
エメラルドグリーンの瞳が、揺れる。
「わたしが、のうりょくをおさえられないからって…パパみたいに、あの人みたいに、すてないよね…?」
潤んだ瞳が涙を零す前に、私は碧流の頭を撫でた。
「大丈夫だよ。能力抑えられないのは私も一緒だし。ていうかそもそも碧流の方が能力が発現したのは先輩なんだから」
Lancelotの中で、一番発現が遅いのは私。最近ようやく自分の意思で出し入れできるようになったのだ。
それでも、千春に届かなかった。
「ねえ無気力さん」
「うん?」
「…能力を、上手く使えるようになるにはどうしたらいい?」
無気力さんは少しびっくりして、そうだね…と考え始める。
「何回も使う事かな? やっぱり。具体的なイメージを持って、何回もやって、感覚を頭に刷り込む感じ」
具体的なイメージ…。
私は、この能力を、どうしたい?
「…そっか。ありがとう。参考にする」
「あ、姉貴、お湯溢れる」
「早く言って!?」
ぼこぼこと沸騰した鍋。火を弱める。
「お姉ちゃん、はんぺん」
「えーっと、はんぺんは…。袋開けて、そこのボールに入れて。無気力さん挽肉とって」
「はぁい」
ふと、雑貨屋の店員さんの言葉が頭に浮かんだ。
『旦那さんもかっこよくて…羨ましいですね』
何でそんなことが今フラッシュバックした!?
無気力さんが旦那!? 碧流が娘!? そんな歳に見えたのか!?
「ちょ、姉貴何してんの!? まな板駄目になるよ!?」
気付けば、いつの間にか腕は剣になっていて、まな板を刺していた。
…無意識に能力出してた。ちゃんと使えるようにならなきゃお思っていた矢先にこれ。駄目だ。今夜から特訓始めよう。
「…何でもない」
恥ずかしい。何だかよくわからないけど、今なら恥ずかしさで死ねそう。
そんな事を考えていると、ピンポーンとベルが鳴った。
「無気力さん火お願い」
ぱたぱたと玄関の鍵を開ける。
誰もいなかった。
そこに置いてあったのは、一枚の封筒。
それを拾い上げて、はっと息を呑む。
見覚えのある猫の、シール。
千春を斬った、あの猫のシールが貼られていた。
差出人の名前はなし。その場でシールを破り、封筒を開ける。
中に入っていたのは、招待状。
ここから少し先、よく知る人物の家への招待状。
「…っ、何で…」
昔からよく知る、佐伯尊の家への…招待所だった。




