欲しくな…い
ルビーの視線を気にしながら、取り敢えず碧流の所へ行く。
碧流は棚の前でしゃがみこんでうさぎのぬいぐるみをじーっと見つめていた。
「碧流どうしたの?」
「お、お姉ちゃん…。ううん、何でもないの」
私が急に声をかけたからびっくりしたのか、気まずそうな顔をして立ち上がった。
しかし目線は、棚にあるうさぎのぬいぐるみに釘付け。
「…欲しいの?」
「う…。…違う、欲しくない…」
「いやいや、欲しいんでしょ」
「欲しくな…い」
ふるふると首を振る。
でも明らかに目は欲しがってるし…。
「いいよ、買ってあげるよ。何色がいいの?」
「い、いらない…」
何故折れない。
碧流は私が何を言おうと頑なに首を振る。
何で?
「どったの姉貴?」
「碧流がこのぬいぐるみ欲しくないって…」
碧流と私を見比べて、成る程ねぇと頷く。
そして碧流の側にしゃがみ込み、うさぎを一体手に取った。
「碧流、姉貴が買ってくれるって。選びなよ」
「い、いらない!」
「いらなくないでしょ〜。…碧流、姉貴は『お姉様』なんだから頼って良いんだよ」
無気力さんが声のトーンを変えずに碧流の頭を撫でる。
でもその目は、いつもの飄々としている時の目ではなくどこか憂いを帯びていて、悲しげな感じだった。
碧流は少し俯いた後、ゆっくりと棚に小さな手を伸ばし、薄ピンクのうさぎを手に取る。
「…これ、欲しい…」
私は、まだみんなの事を何も知らないんだなぁと、少し悲しく思いながらも碧流を連れ立ってレジへ向かった。
「五百四十円になりま〜す」
ぴったりお金を払って、袋を碧流に渡す。
碧流は、嬉しそうに目を輝かせて袋を受け取った。
「お若いですねぇ、娘さんですか?」
「はぁ!?」
棚の前にしゃがんでいたのを見ていたのだろうか。
うそ…私そんな老けて見える…?
「旦那さんもかっこよくて…羨ましいですね」
「いや旦那さん!? 違います! 私まだ高校生です!」
「…そ、そうだったんですか!? それは申し訳ございません…」
「ああ…大丈夫です…」
びっくりした…やめて欲しい…。
碧流と手を繋いで無気力さんの元へ戻ると、彼はにやにやしながら空いている方の手を握った。
「お帰り、奥さん♡」
「斬るよ」
「ガチトーンやめて姉貴のそれは冗談に聞こえない」
不意に、外から爆発音がした。
人の悲鳴も聞こえる。ガラガラとコンクリートが壊れる音も聞こえる。
「何…!?」
「…まずい。渦中に烈と千春がいる」
何だって!?
急いで店を出る。
大きく穿たれた床。一階だったから良かったものの、二階以上だったなら確実に床が落ちていたというくらい深い。
烈と千春は、穿たれた床のすぐ横にいた。
二人が見つめる先には、タートルネックのルビー。
「あの子…っ」




