日本、魔族の歴史を語る
やったぜ!この小説で初めて感想が来ました!
感想を返せるのは次回の更新近くあるいは更新後になりますが感想の方もよろしくお願いします!
「二人ともそこにかけてくれ。」
夕方、オルフェウスと優は何故か内閣総理大臣、君島と対面することになった。
「どうしてこうなったの……?」
何故か君島の真正面に座っている優がボソリと呟いた。ちなみに優が君島の真正面に座っているのはオルフェウスの関係者であるからだ。
「自己紹介が遅れたが私の名前は君島彰久。知っているかもしれないが内閣総理大臣だ」
「わわわ、私は天ひゃ、天谷……」
優は緊張のあまり舌を噛んでしまった。政治に関わらない一般人ならば一生に一度会えるかどうかの大物だ。緊張しない方がおかしいのだ。優がオルフェウスに対してビビらなかったのはあまりにも現実離れしすぎたからであって総理大臣ともなれば現実味を帯び話は変わる。
「落ち着いてくれ。何、この場には私達しかいないから敬語じゃなくとも良いんだぞ」
「(そんなことできるかぁっ!)」
優が心の中でそう叫ぶ。口に出さないのは庶民ならば当然の反応だった。
それから優はしどろもどろになりながらも自己紹介を終えた。
「俺はオルフェウス。異世界からやってきた元魔王の迷宮主だ」
「(いくら他の人がいないとはいえ総理にタメ口きいてるよ…図太いというかなんというか、流石元魔王?)」
「オルフェウス君、君は異世界からやって来たと?」
「そうだ。これを見ればわかるんじゃねえか?」
オルフェウスは今まで隠していた角を君島に見せると君島は納得言ったように頷いた。
「ふむ……にわかに信じがたいが本物のようだ。だが奇病でない証拠はあるのか? 世の中には奇病で肌に鱗がある人間、首が二つある人間、身体が木になっている人間がいる。それだけでは異世界からやってきた証拠にはならないだろう」
「俺が異世界からやってきたことよりも話したいことがある。これを見てくれ」
オルフェウスは先ほど政治家に見せた原油の入った瓶を君島に見せた。
「これは石油……いや原油か?」
「そうだ原油だ。日本じゃ原油なんて取れはしない。ところが俺はその場所を知っている」
「異世界からやってきた君が何故日本から原油が取れないことを知っている?」
「ある程度の知識はそこのユウから聞いている」
「では異世界の技術が関係しているのか?」
「似ているが違う……それはそうと、この国を動かしているのは誰だ?総理大臣のあんたとは別の人物なのか?」
オルフェウスの質問に君島は首を振った。
「そうだな。オルフェウス君の世界でいうところの宰相にあたる人物が内閣総理大臣である私だ」
「国王は?」
「国王というよりも世界中から皇帝と呼ばれる天皇陛下はいる。しかし天皇陛下は条約の承認など一部の政治にしか参加できない。憲法と呼ばれる規則で決まっているからだ。だから国を1番動かしてかつ責任を負っているのは総理大臣と言えるだろう。」
「なるほど。わかりやすく解説してくれてありがとう。本題に入る」
オルフェウスの雰囲気が突如変わり君島が冷や汗をかく。子供とはいえ歴代最強の魔王を瞬殺した魔王だったのだ。その威圧に呑み込まれない優に至ってはもはやその空気から置いてかれてしまった。
「俺達の世界では地下迷宮と呼ばれる場所がある。俺はその地下迷宮を作ったが事故によって地下迷宮ごと日本に来てしまった」
「地下迷宮?」
「その前に俺がいた世界の話をするか?」
「是非」
君島が頷き、優も興味を持ってオルフェウスの方へ振り向く。
「俺の元の世界は人間、魔族、龍族の三族が地を治めていた。そんな中魔族は人間よりも数が少なく龍族よりも弱い存在だった。元々魔物と呼ばれる凶暴なものから知性を持ち進化したものが魔族だからな。数の多い人間や身体能力で大きく劣る龍族に叶う筈がない。そんな中、中途半端な存在だった俺達魔族が習得したのが魔法だ」
「魔法……やはりあるのか」
「もちろんある。もっともこの世界では魔族がいなかったから魔法もないんだろうな。…続けるぞ。魔法を習得した魔族達は魔法を使い自分達の生活を脅かす人間や龍族を追い出し世界を支配していた」
「過去形ということは今はしていないのか?」
君島の質問にオルフェウスは首を縦に振った。
「そうだ。その支配も束の間。人間や龍族も魔族が使っていた魔法を習得し、再び魔族は窮地に追いやられたかに見えた。魔族とて馬鹿ではない。魔法がいずれ人間や龍族達に習得されることくらい分かっていた。その対策として作られたのが地下迷宮だ」
「なるほど……」
「正確に言えば地下迷宮の原型だがそれを地下迷宮と統一させて話させてもらう。地下迷宮は魔物を増やし、育てて進化させ魔族にするために作られた魔法道具だったんだ。人間や龍族はそれに気づいて真っ先に潰そうとするが人間は地下迷宮の魔物に襲われて死んでしまい、龍族は大半が身体があまりにも巨体すぎて地下迷宮に入れず魔物退治が出来ないと言った有様だ」
「その様子だと魔族は世界を支配し続けられたのか?」
君島がそう尋ねるとオルフェウスは首を横に振った。
「外れだ。魔族は世界を支配し続けることは出来なかったんだ」
「地下迷宮に何か問題でもあったの?」
「地下迷宮の欠点は魔物が自然に地下迷宮から出ることはないという点だ。魔法で移動させようにも膨大なエネルギーが必要、つまるところ国内でしか力を発揮しない兵器と同じだ。これを知った人間や龍族は魔族から支配を逃れ、今では三族が世界各地に暮らしているという訳だ」
「肝心の地下迷宮の話は?」
優は地下迷宮の話が気になりオルフェウスに聞くとオルフェウスは腕を組んだ。
「そう慌てるなユウ。地下迷宮が兵器としては大して役に立たないとわかった。しかし地下迷宮に潜り込んで人間達が落としていった武具や宝飾品が手に入り、小遣い稼ぎには丁度よかったんだ。それを改良して小遣い稼ぎに特化させたのが今の地下迷宮だ」
「そういえばオルの世界に冒険者なんて職業もあったね」
「そうなのか? オルフェウス君」
「ああ。あったあった。冒険者が現れたのは地下迷宮の原型が出始めた頃だな。もっとも今と昔じゃ意味が違う。原型の頃の冒険者は魔族一強状態から打開するために魔物を殺しどんな弱点があるかを探る、まさしく命がけの冒険者だったんだ。ところが今の冒険者は違う。魔族の作った地下迷宮の中に眠る金銀財宝や魔物から素材を剥ぎ取ったり等をしてそれらを売りさばく…それが今の冒険者だ」
オルフェウスはため息を吐いた。
「……話を聞いていると要するにこの原油はその地下迷宮から取れたのか?」
「そうだ。地下迷宮を少し弄ったら出てきたものだ。無論他にもここの世界にはないものもあるかもしれないから俺は日本に対して認めて貰いたいものがある」
「何だね?」
「地下迷宮の経営権、所有権及びその他諸々の権利だ」
「その他諸々の権利というと?」
「俺はまだ日本に来てから一ヶ月も経っていない。一番親しい仲であるユウにしても一週間程の付き合いでしかない。つまりまだまだ日本で認められている権利や義務を知り尽くしていないってことだ。それどころかひらがなやカタカナでしか文字は書けない」
「一週間でそれだけ書ければ十分だと思うぞ?世界各国全ての人間が日本語は難しいと声を揃えるくらいだからな」
「そいつはどうも。そんな訳で俺は日本の法律に関して理解していない。だから後々権利を主張できるようにしたいんだよ」
「態々それを言ってよかったのか?」
「それはアキヒサを信頼しているから問題はない」
優はそれを聞いて顔を引きつらせた。オルフェウスは元が付くとはいえ魔王だ。いざとなれば日本を沈没させることくらいは出来る。それに地下迷宮内の魔物を地上、つまり日本に出せば間違いなく世紀末の荒野となる。それを言わないのはオルフェウスが日本をいつでも混乱状態に出来るようにしたのかもしれない。
「そうか。そう言ってくれた以上、私も期待に応えねばな」
君島は満足そうに頷き、握手を求めて右手を前に出そうとした。しかし携帯が鳴り、その手は胸ポケットの中へと入り込んだ。
「失礼。もしもし私だ。……なんだ堂島君か。ああ、ちょっと君の事務所を借りているだけだ。そんなことは聞いていない?…わかった。交渉してみよう。これで貸し一だぞ?居酒屋で貸しは返したって?そういえばそんなこともあったような」
オルフェウスは君島が携帯で話しているのを見て不審に思った。
「ユウ、アニメでもあんなものがあったような気がしたんだが…あれはなんだ?」
「携帯電話。早い話が通信手段に使われる道具よ」
「あれが日本の通信道具か」
オルフェウスは元の世界の通信手段を思い出した。オルフェウスの世界の通信手段と言えば魔法によるテレパシー、あるいは手紙が主流だ。前者は魔族が主に使い、後者は人間や龍族だけが使う。
その理由として魔族が他の二族に比べ魔力が多いからだ。魔法は魔力を使い、様々な現象を引き起こすものである。それ故に魔力が多い魔族は手紙を使うまでもなく、テレパシーでやりとりする。しかし人間や龍族はそうもいかない。人間や龍族で魔法を使えるものは少数だ。そもそも魔法は魔力の多い魔族用に作られたものであり、魔力で劣る二族が使ったところで劣化するのは当たり前のことだ。数で補ったりしてフォロー出来る魔法ならばそれでもいいだろう。
しかしそれが出来ない魔法もある。それがテレパシーだ。テレパシーは1人が対象を選び通信する。多人数が一つの対象に選んで通信することは出来ない。電話の状態で言うなら通話中に電話をかけるようなものだ。
つまり、テレパシーは一部の人間や龍族しか使えない為に通信手段として手紙が主流なのだ。
「(魔法がないから道具が発達したのか、あるいはその逆か……どっちだろうな?)」
オルフェウスは君島の携帯を見つめながらふとそう思った。