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06:襲来

 入学して約半年。

 

 僕の食生活も豊かになり、それを支える為に頑張って働いている。

 最近では配達先の街でも狩りで集めた素材を売ってもいる。ルーファと狩るとどうしても大量になりがちなので騒ぎになる為、一カ所で売らない様にとの配慮からだ。


 (時間魔法が使えるので米や香辛料は何処かで育てても良いかもしれないな。)


 配達を終えた後の狩りをしながらそんな事を思った。

 米は買うのも良いけれど大量に使うなら育てるのも良さそうだ。それに香辛料は手に入ったり入らなかったりするとが多い。多分主食で無いからなんだろうけれど、市場はおろか農家でも無い場合があるのだ。


 今日の得物は角牙鯨ホーンホエール。ルーファの鯨を食べたいとの意見から海の上に居る。

 この世界には普通の鯨も居るけれど、穏やかに泳いでいるその姿を見ると狩る気はしない。それに比べて角牙鯨ホーンホエールは気性が荒く、自分より小さな物に対して襲いかかる。

 初めて狩ったのは鯨の子供に襲いかかっていた奴。味は鯨肉に似ていて、僕には違いがわからない。日本に生きていた時もそれほど食べた訳じゃないしね。

 とにかく、これが最近のルーファのお気に入り。

 肉以外だと角と牙と骨が売れるのだけど、今の所仕舞いっぱなしである。


 三匹目の角牙鯨ホーンホエールを倒すと帰る事にする。

 さすがに三匹居れば一週間以上持つだろう。


 「あっ。」

 「どうした?」 

 

 ルーファが驚く何て珍しい。


 「うん。伯母さんの所の卵が生まれそうなんだって。僕、二・三日行って来る。」

 「おう。そうだ。お土産に鯨持って行けば?」

 「いいの?」

 「一人じゃ食べきれないしね。」


 今日獲った三匹を全て出す。

 口に一匹、片足に一匹づつだ。


 「ふぁっふぁきまふ(いってきます)。」

 「今度会いに行かせて下さいっていっといて。」

 「ふぉーかい(りょーかい)。」


 去って行くルーファの後ろ姿は若干嬉しそうだ。


 少し寂しく思いながら街へと戻る。

 街の上を飛ぶと少し騒がしいのは夕食が近いからか。

 待つ人の無い家に降り立つと明かりを付ける。


 「ただいま。」


 誰も居ないと思っていてもついつい言ってしまう。

 いつもなら後ろからルーファが「おかえり」と言ってくれるのだけど・・・。


 ローブを脱ぐと、気持ちを切り替えて夕食作りにとりかかる。

 今日は簡単に一角野牛ホーンバッファローのステーキと茹でた人参。最後にステーキを焼いたフライパンでご飯を炒める予定だ。


 コンコンッ


 一角野牛ホーンバッファローのステーキを取り出した所で来客があった。

 珍しい事もあるもんだ。


 「はい。」

  

 ドアを開けるとそこにはいつぞやのメイドさん。


 「王女様がお呼びでございます。」

 「あっはい。直に行きます。」


 再びローブを着て鍵をかけると先へ進むメイドさんに付いて行く。

 



 「帰って来たか。」

 

 僕の帰宅を待っていたらしい。

 とするとメイドさんはずっと見張っていたのだろうか?


 「何か起こりましたか?」

 「ああ。街に居なかったのならギルドにも顔を出していないな?」

 「はい。」

 「先程ギルドの早鐘が三つなったわ。」


 早鐘はどの町のギルドにもあるシステム。

 一つの場合は何処かで火事等の事件。近くに居る者は協力されたし。

 二つの場合は敵が街に接近。Bランク以上協力されたし。

 三つの場合は本拠地ギルド員強制集合。

 四つの場合は要避難準備。

 最大の五つの場合は所属を問わずギルド員強制集合。


 今回は三つなので僕に要請はかからない。


 「三つという事はスタンピードがありえそうですね。」


 三つで多いのがスタンピード発生。何かしらの原因でモンスター(動物・魔物・魔獣まとめて街の敵となるモノ)の群れが街へ接近して来るというものだ。


 「確かにスタンピードだそうよ。」

 「この辺だと影狼シャドーウルフでしょうか。」

 「だといいのだけど・・・。」

 「何か別の情報が?」

 「遠見の人達が言うにはどうも大きさがそうではないと。」

 「ふむ・・・。」


 この辺に住む大きな獲物で群れを作るのは居なかったと思うけど・・・。


 「取り合えずギルドに行って情報を集めて来ます。」

 「私が行くと手間かけちゃうからよろしくお願いするわ。」


 まぁ忙しい時に王族の相手とかしてられないだろう。


 「僕一人で行ってきますよ。ギルド員ですし。」

 「そうね。それがいいわよね。」

 「もしかして、不安ですか?」


 オビリアン王国ではこんな事は無かった。


 「えぇ、少しね。でも大丈夫。ここには皆も居るし、戻って来てくれるのでしょ?」

 「勿論です。」

 「何かあったら動ける様にだけはしておくわ。」

 「そうしておいて下さい。」


 ここには騎士の皆さんも居るし、そうそう遅れをとる事は無いはずだ。

 先程のメイドさんに見送られて冒険者ギルドへと向かうが、ギルドの前の道には学生と思われる冒険者が詰めかけていて中に入れそうも無い。

 一部貴族だと威張っている人もいるけど学生の喧騒に埋もれてしまっている。むしろこんな時に何言ってんだと周りからは冷たい目で見られてるわ。


 うん。サルーン姫が来なかったのは正解ですね。



 「見ててもしょうがないか。。。」


 ずるいけど裏へと回って空を飛ぶ。

 訓練場に降りれば裏口から中に入れるだろう。


 案の定裏口には鍵もかかってなく入れたが、人影もない。

 進んで行くとホールは何やら騒がしい。外の連中とあまりかわらないな。


 こそこそしていると職員さんに見付かった。


 「ルイジュさん。マスターがお呼びです。」

 「マスターが?」

 「はい。執務室に向かって下さい。」


 周りの目が集まる中、執務室へ向かう。

 ノックをすると直に返事があった。


 「誰だ?」

 「ルイジュです。お呼びと聞きましたが。」

 「おっ帰って来たか。間に合って良かった。入ってくれ。」


 執務室の中にはマスターの他に三人。

 そのうちの一人は以前話した事もあるアルノルドさん。目が合ったので会釈をしておく。


 「家にも行かせたのだが何処へ行っていた?」

 「海の方へ。」

 「見付からんはずだな。それで何が起きているか聞いたか?」

 「サルーン王女より鐘が三つなったと。スタンピードですか?」

 「そうだ。ただし、五つにすべきか今話していた。」


 五つとはよっぽどの事だ。

 ギルド員だけではなく普通の街であれば兵隊達も力を合わせる事態である。


 「南北、両方から群れが来ておる。」


 教えてくれたのはアルノルドさん。


 「スタンピードが二つですか。」

 「さらに未確認だが西の空も騒がしい。」

 

 マスターの苦い顔も納得だ。

 スタンピードというのもがそもそも非常事態なのに、それが三つにそのうちの一つは塀が役に立たない空の敵。

 

 「それで魔術院にも声がかかったのじゃよ。既に塀を取り囲む様に配置についておる。」

 「結界ですか。」

 「知っておったか。」

 「はい。」


 街に備えられている結界は僕が使う結界とは違い、塀に埋められた魔石に限界以上に魔力を注ぎ込む事によって起きる魔石崩壊オーバードライブの共振と魔力の放出を使用するもので、約三時間程持つ。


 「ルーファ殿の協力は得られるのであろうか?」


 初めて見る甲冑を着た男性に聞かれた。


 「ルーファは親戚の所に行ってしまいました。二・三日したら戻るそうです。」

 「そうであるか・・・。」


 がっかりするのもわかる。

 ルーファがいれば被害は最小限で済んだだろう。


 「少し敵を探ってみます。」


 一言断って執務室から外へ出て飛び上がる。

 遠目に近づいて来る砂埃が見えるが使うのは結界。視界は関係ない。

 威力は最小限。円を書く様に放った結界は魔石以外を通過する設定だ。


 「確かに西の空には魔物がいるようです。」

 「そうか。種類と数はわかるか?」

 「種類は不明ですが数は100を越えるかと。」

 「ふむ・・・。」

 

 僕と追加で届けられた情報を元に人数の配置を話し合っているが、どうしても数が足りない様だ。

 正確には数は足りているけれど実力が足りない者が多すぎる。


 西は空から来る魔物。空を飛ぶ魔物のランクは少なくともC以上に分類されるし、弓か魔法使いでなければ攻撃が届かない。

 南からは一角野牛ホーンバッファロー影狼シャドーウルフの群れ。

 北からは影狼シャドーウルフ


 南と北の場合は門も広いので守るのも大変だろう。


 「もし許しが得られたるなら僕が西を受け持ちましょうか?」

 「一人でか?」

 「許しとは何だ?冒険者ではないのか?」

 「過信は禁物だぞ。」


 アルノルドさん以外の三人がそれぞれ口を開いた。


 「ルイジュ君はオビリアン王国が本拠地なのだ。それに今は相談役という長期依頼を受けているので雇い主であるサルーン王女の許可がいる。それにしても助かるが一人で大丈夫なのか?」

 「心配でしたら西門の警備兵を貸して下さい。最悪でも飛んでいる敵は叩き落としますから。」

 「本拠地でないのなら守る必要もないだろう。」

 「家が西門の外なのでどちらにせよ勝手に守りますけど、信用できないのならそちらも勝手にして下さい。」

 「なにっ。」


 甲冑を着た人が立ち上がったけど気にしない。

 今は言い合っている暇もないし、一応断っただけだ。


 「こうして話している間にも敵は近づいて来ていますし、僕は好きにします。」

 「好きにしたまえ。」


 向こうも僕に怒っている暇は無いと気付いたのだろう、男性はテーブルに広げられた紙と駒を睨みつける作業に戻った。


 「もし西門へ誰かよこすようであったら僕より前に出ない様に言っておいて下さい。巻き込みたくは無いので。」

 「ああ。頼んだ。」


 マスターが請け負ってくれたので僕は部屋を出る。

 勿論ギルド側ではなく、ベランダから。



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