04:配達
折り詰めはルーファに全部食べられました。
別にいいんだけどね。
「楽しいねぇ〜。」
ルーファとじゃれつきながら飛行中。
ルーファは、二人で波を書く様にして交差する飛び方が最近のお気に入りだ。
「えへへ。」
照れているのか喜んでいるのかはわからないけど機嫌は良さそうである。
今日は週に一回の配達の日。
港湾都市モスターの宝石商「リリア」に週一で尋ねる約束をしている。
事の起こりは、学園に入学すると話した僕に週一で配達をしないかとユノさんが持ちかけて来た事が始まり。
ユノさん腕は良いけれど、仕事は多くない為に高価な在庫を抱える事をしないでいた。その為に以前の様な依頼が発生したのだけど、僕が一日かからずに往復できる事を知って一か月に一度宝石を届けてくれないかという話しになった。
折角出来た縁なのでOKしたのだけど、それを聞いたリリンさんがユノさんの所へ届けるだけではなく「リリン」の商品も運んで欲しいと言って来たのだ。
運ぶのは宝石だからかさばらないし、配達先は基本的に自由都市共和国内。今までは商人に運んでもらったり、近くの都市は自分達で運んでいたらしいけど、僕が運べば早いし、盗賊とかの心配も無く安全。商人に頼んで、いざという時の保障や最悪盗まれるリスクも減ると力説されて頷いてしまった。
さすがに毎日という訳にはいかないけれど、週一でも馬車移動に比べて充分に早いので問題は無いらしい。
それに、毎週運ぶ事によって在庫は増えないし、ユノさんへの発注も出来る。ギルドを通して指名依頼にしてもらえば僕も助かるとWin-Win-Winの関係なので今は受けて良かったと思う。
今日の届け先はユノさんへの往復の他は「迷宮都市グルユロ」のアクセサリー屋「アジェル」一件だけ。
今はグルユロを目指して飛んでいる。
グルユロは自由都市共和国の中で一番大きな都市で、迷宮都市の名前の通りに迷宮、つまりダンジョンを抱えている。その為に冒険者が多く集まり、その落とす金を求めて商人も集まる。
さらに、恒常的に人が集まればその生活を支える人や家族も増える。そうして大都市へと進化をとげた都市である。
クスターからは街道が延びているので、それに沿って飛べば迷う事も無い。
遠目にグルユロの街影が見えて来た。
「あれなんだろねー。」
ルーファが言っているのは僕達の下。
「助けるよ。」
「りょーかいしました。たいちょー。」
これは、最近仲の良い警備兵の口調を覚えたらしく気に入って使っている。
助けると言っても、ルーファが降り立てば大抵の魔物は逃げて行く。今回居た「影狼」もあっという間に逃げて行った。
「大丈夫ですか?」
ルーファが「影狼」を追いかけているのので、そっちは任せて僕は馬車の影に座り込んだ人に話しかける。
「助かった。礼を言う。」
「あっ。動かないで下さい。」
お礼を言って来た人の後ろに居た二人も立ち上がろうとしたので止める。
男の方の人は腕と足に傷。女の人も足に傷。
「魔法をかけますから動かないで下さい。」
傷口に水筒から水をかけて汚れを落とすと手を当てる。
『水軟膏』『水軟膏』『水軟膏』
水属性Lv05の回復魔法『水軟膏』の三連発。水の回復魔法は切り傷に効きやすい。
女の人は腕にヒビも入っているようだ。
『骨継』
こちらは土属性Lv06の回復魔法。骨折に効く。
どうも回復魔法は属性によって得意分野が変わるらしく、火は火傷等の傷、水は切り傷、土は骨折となっている。光だけは別格で全身全体回復だけどLvによってその効果は変わる。他の闇と風は状態異常の回復である。
「ありがとうございます。」
「これで動けるとは思いますけど、無理はしないで下さい。」
「はい。それにしても治療師の方でしたか、助かりました。」
回復魔法を二属性以上使う人は一般に治療師と呼ばれる。
「ただの冒険者ですよ。それよりも移動した方が良いでしょう。」
「しかし、馬が・・・。」
馬車を引いていた馬は影狼に殺されてしまった様だ。
「このままここに居てもまた教われないとも限りません。ルーファが居れば大丈夫だとは思いますけど、血に酔った魔物は我を忘れる場合があります。」
「そうだな。馬車は置いて先に向かうか。幸い食われる様な物は無いからな。」
「街は近いので運んでしまいましょう。ルーファ。」
「はいはーい。」
大人しく待っていたルーファがこちらに近寄って来た。
「この馬車を持って街の入り口まで行っておいてくれる?」
「りょーかいしました。たいちょー。」
「丁寧にね。」
「もちろんだよ。」
ルーファが足に引っ掛けて馬車を運んで行くのを驚きながら見送っている三人にも声をかける。
「グルユロはそれほど遠くはありません。疲れているかもしれませんが頑張って下さい。」
「あぁ。荷物が無けりゃ大丈夫だ。そうだろ?」
「大丈夫です親方。怪我も治してもらいましたし。」
「骨のヒビまで治してもらったからね。」
「だとよ。礼はつきねぇが、まずは移動するか。」
三人が歩き出したので最後尾で回りに気を配りながらその後に続く。
幸いルーファを警戒して魔物が近寄って来る素振りはない。
途中今回の件についての話しを聞かせてくれた。
最初はゴブリンの襲撃にあったらしい。ゴブリンは魔物だけど弱い。小学生くらいの子供が武器をもって襲って来る感じなので、その数さえなんとかできる実力があれば苦戦する相手ではない。一匹だったら子供数人でも倒せるくらいなのだから。
そのゴブリン達には護衛の冒険者と一緒になって対応したので何の問題も無かったらしいけど、その騒ぎで気付いたのが影狼。
影狼は夜行性の狼で昼間は木陰や薮の中に身を潜め寝ている為襲われる事はない。今回はその寝ていた所と近かったのだろう。気付いたときには囲まれていたらしい。
馬車は捨てて、一点突破で逃げる予定だったのだけど、女性の方の冒険者(サチさんというらしい。)が怪我をおい。それを庇った男の人(こっちはカズさん。)も怪我したらしい。
それを見捨てる事は出来ずに残ったのが最初武器をもっていた男性。
殺されるのは覚悟で一匹でも多く倒そうと覚悟を決めたけど馬が殺される事によって時間を稼ぐ事ができ、僕が間に合ったというわけだ。
馬には悪いけれど、間に合って良かった。
一時間程歩くと街がその姿を見せた。
ルーファもちゃんと馬車と共に待っていてくれている。
「あいつらも無事だった様だな。」
「あいつら」とはルーファの側にビビりながら立っている人達だろうか。
「「親方ー。」」
「「サチーー。」」
こちらの姿を見つけると走って来た。
「親方無事で良かったです。」
肩で息をしながら無事を喜び合っている。
「こちらのルイジュさんが助けてくだすった。」
「あれ?名乗りましたっけ?」
「俺は普段クスターに住んでいる。「リリン」に出入りしている真なる竜のルーファ殿とその友人のルイズさんくらい知っているさ。」
「親方がさんだって?」
「うるせぇ。」
茶々を入れた男に拳骨が落ちた。
「まぁ無事で何よりです。僕も依頼があるのでこれで失礼します。」
「礼をしたい所だが依頼があるのなら引き止めん。時間が出来たら何時でも良いクスターの俺の所に来てくれ。場所はイガンにタツギの居所は何処だと尋ねてくれればわかる。」
「タツギさんですか。お礼はともかく今度うかがいます。お二人は無理をなさらないで下さいね。」
「あぁ。ありがとう。」
「このお礼は必ずするから。」
深々と頭を下げて来る皆と別れて街へと向かう。
とっとと配達してユノさんの所にも向かわないとルーファとの狩りの時間が無くなってしまう。
幸いアクセサリー屋の「アジェル」は直に見付かった。
ユノさんの所でお昼ご飯を食べさせてくれたので寄り道もせずにまっすぐ「リリン」へと戻って依頼完了。
後はルーファと狩りをするだけ。
「今日は何が食べたい?」
狩りの目的はルーファの食事用。おまけでLv上げ。
ルーファ一人で狩りも出来るのだけど、週一回は一緒に狩ってなるべく一週間分貯蔵できるようにしている。
「んー。牛!」
「じゃあ一角野牛でいいか。」
「いいよー。」
「どちらが先見つけれられるかな。」
「きょうは負けない!」
得物を目指して空に舞い上がる。
上手く群れが見つかるといいな。




