プロローグ 「生贄の姫」
広大な儀式広場は、星のない闇に覆われていた。
赤い魔力の燭台がゆらゆらと無数に浮かび、人間界の寂れた古城を包む闇の中に、不吉な血のような光を降らせている。
魔界全土に生中継されているこの一大イベント……「サバトの花嫁狩り」。
司会者の甲高い声が響き渡る。
「眠れる美女・プリンセス・ルイーゼが、いよいよ祭壇に捧げられております!!
なんという白い肌! その美しさ! まさに清らかな乙女そのもの、真珠のような気品!
彼女が今夜、サバトの供物として捧げられるのです!!」
数千の悪魔が広場を埋め尽くし、興奮と欲望が赤黒い熱波となって渦巻く。
巨大スクリーンには祭壇に横たえられたリーザの姿が映し出され、歓声と口笛が爆発的に沸き起こった。
彼女の傍らには――魔界の帝王であるサタンの嫡子、アスモデール王子が立っていた。
冷たい笑みを浮かべ、祭壇に横たわるリーザをじっと見下ろした。
その顎を掴んで顔を上げさせる。
「う……」と、小さく姫君は呻いた。
気を失っているリーザの唇を、そっと親指でなぞり、ゆっくりと囁くように声を落とす。
「さぁ、はじめようか……美しい姫君。お前はただ、己が運命を受け入れればいい」
残酷な睦言を、気を失っているサバトの花嫁に投げかけたアスモデールは、もう一度、芝居掛かった動作で観衆の方に向き直った。
「見ろ、魔界の民よ。今こそ、この姫君を永遠に我が物としよう!!」
狂気とも呼べる悪魔たちの歓声が、どっと沸き起こり、この古城におうおうと雄たけびのように反響した。
美しい人間の姫君――リーザの白い体が、ただ冷たい祭壇に横たえられている。
彼女の恋人である、若き魔王・ルシエル卿は、まだこの古城へ現れない。
しかし悪魔の饗宴――
サバトは今まさに、清純な人間の姫君リーザ自身を捧げる儀式として、すでに始まっていた。




