001-4 こうして私は誘拐されました!
まるで、映画のワンシーンのようだった。
クラシックなメイド服という普段見ることのない衣装に、それを着こなす白銀の女性。
それだけでなく彼女の姿が幻想的で・・・・・・。
銀色の髪に、全体的に色白な肌。洗練された仕草も含め、美麗な3Dモデルがそのまま現実へ飛び出してきたような現実感のない姿に、自宅のはずなのに、何処かへ異世界転生でもしたのかと思ってしまった。
「どうかされましたか、ハル様?」
お辞儀を終え、顔を上げたというのに反応のない悠に、女性は不思議そうに訊ねる。
その声に “はっ" とした悠はーーー思考を巡らせるよりも先に逃走することを選んだ。
「おや、懸命な判断をされる方で」
その逃げっぷりに女性がなにか言っているような気がするが、気にすることなく逃げ、飛び出すように玄関から出る。
非常事態に扉の向こうに人がいるなんて考えもせずに開け、飛び出したため、人がいることに気づいた時には止められず、相手の胸に飛び込む形となってしまった。
普段なら弾力ある部位の感触に喜びを感じるのだろうが、家に帰ったら不審者がいる異常事態では正常に判断することは出来ず、
「あ、す、すいません」
「大丈夫すよ。そちらは大丈夫すか?」
「い、家に不審者がいて!け、警察を!」
安易な第三者へ助けを求めてしまう。
「いや〜、警察は困るっす」
そこにいたのは窃盗犯を捕まえてくれた女性で、
「あら、遅かったわねジ・・・・・・カッパー」
「いや〜、エントランスで鉢合わせしちゃいまして。エレベーターを彼と一緒に乗ってしまったので、降りる階を変えたっすよ」
玄関から出てきた不法侵入者と親しげに話す様子から、どうやら自分の味方ではなかったようだ。
それが理解出来た時点で逃げたかったが、窃盗犯を捕まえた女性ーーーカッパーに抱き締められるように捕縛され逃げられなかった。
「あ、悠さん。こちら私の上司のシルバーです」
それどころか暴れる悠をものともせず、平然とした様子で不法侵入者を紹介する。
ーーー絶望だった。
顔を柔らかな感触に包まれているだけなら息苦しいながらも幸せだが、捕える腕は鍛え抜かれ機械に締め上げられているようで、しかも周囲に助けを求められるような味方もいない状況。
(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!)
過去の不運とは比にならない、直接的な危機に悠は打開策を考える。
「カッパー。その格好では挨拶も出来ないし、ここでは他の方の迷惑にもなるわ」
「了解っす!」
そんな悠の心境など知らず、上司の要望を受けたカッパーは悠の身体をくるりと回し、正面を向かせると、片方で腕をキメ、片方で首を固めた。
そして、逃げてきた自宅の中へと歩かされる。
玄関の閉まる音が地獄の門が閉まる音に思えた。
「さて、改めまして私はシルバーと申します。貴方様を拘束しているのがーーー」
「カッパーっす、よろしくっす!」
「・・・・・・よろしく」
打開策がない悠は、諦めたように告げる。
その様子が抵抗を諦めたように見えたのか、シルバーは満足そうに笑みを浮かべると、先程の挨拶のときより深く、深く頭を下げた。
「悠さまには不法侵入した件と併せまして、これからのことを先に謝罪させていただきます」
「いや、許すもなにも犯罪で・・・・・・」
なんて意趣返しのつもりで非難するも、あることに気づき言葉がとまる。
「これからって言った?」
「えぇ。それに私は最初の挨拶のあとに言いましたよーーお迎えにあがりましたーーと」
あ、これ本気でヤバイやつだ。
そう思ったときには遅く、カッパーが固めていた首が締め上げられていく。
頭への酸素供給がジワジワとなくなる感覚に、悠はカッパーの腕をタップするが、解放する気はないようで、最後の仕上げとばからに締め上げる力を強める。
( ーーーーー )
遠のいていく意識のなか、
「本当に、申し訳御座いません」
と、シルバーの謝罪する声が聞こえた気がした。




