ここから帰れたら
明るい照明の下で、ご主人様の体力を奪われないようゆっくりと進んでいく。人間はいつか限界が来るものだから、大切に扱わないと。ヤミはセイに優しくしろ、と言った手前、私もご主人様に優しくしないと、と、どうしても思ってしまう。そのほうがいいのは確かだが。
「大丈夫ですか?ご主人様。」
ここに運ばれていた時のご主人様とお嬢様は一切抵抗してしなかったから、睡眠薬を嗅がされたか飲まされたかしたのだろう。スタンガンのような外傷はなさそうだしね。どうやらまだその睡眠薬の効果が残っているようで、心なしかご主人様はふらふらしていた。
「気にするな。触るなよ。」
手を差し伸べようとしただけでそんなに言わなくても。そうは思うのだが、自分が同じ立場なら同じことを言ったかもしれない。そう思うと、少し落ち着くことができた。
「あ、近づきもするなよ。」
……なんかちょっとイラっとするな。いけない、いけない、こいつ、じゃなかった、このお方はご主人様、このお方はご主人様、このお方はご主人様……。何かあっても守らなければならない対象。大切にしないと、人間なんて簡単に壊れちゃうんだから。私も元々人間なんだから、人間に弱い人がいるのも十分よく分かっている。少しの間だが、一緒に過ごしていればわかる。心は強いだろう。ここに連れてこられても、動じている様子がなかった。が、肉体的には弱い人間だ。ここから戻ったら、ヤミに言って鍛えてもらおうかな?
……あれ?どうして私、ここから戻った時のことなんて。ここから戻ったら、任務完了でご主人様とはおさらばできるはずなのに。また、自由な生活に逆戻りなはずなのに。え?逆戻り?私、戻りたくないの?どうして?家族との素晴らしい生活なはずなのに。こんな私を軽蔑している男の何がいいのよ?
「ゆり?さっきからぼーっとしているが、何かあったのか?」
ご主人様が私の肩に手を乗せた。私に近づくな、触るなと言いながら自分から触っているじゃないか。
ああ、本当にさっきから不安定になってばかりだ。前に進まなきゃ、頑張ろうと思えたのに。やっぱり私、故障しているんじゃないだろうか?セイは私の記憶が影響している、なんて言っていたけれど、ここまで不安定ならなんとかしてもらわないと。任務に支障をきたして、たまったもんじゃないわね。




