さらわれた真悟様
それを聞いた途端に、ヤミの肩が少しびくっと跳ね上がった。自分でもまずいことをしてしまったという自覚はあるのだろう。そんなこの子をこれ以上責めようとは思わないが、一応姉として、2人の主人として何があったのかくらいは聞いておかなければならない。
「すまない……。」
そう言ったヤミは本当に申し訳なさそうにうつむいていた。
「真悟が調査を俺に頼んできたんだ。どうでもいい内容の捜査だったし、こんなことをできないのかって呆れながら断ったんだけど……。」
ヤミの両手は、悔しそうに握り締められ、それは今にも皮膚が破れてしまいそうなほどだ。
「けれど、どうしてもっていうから、俺は調査に向かった。いや、向かおうとしたんだ。」
どうしてそこで調査に向かってしまったのか。負けてしまったのか。大声で叱ってやりたい気持ちもなくはないのだが、今は真悟様の救出が最優先だ。いくら悔やんでも時間は巻き戻らない。今は、前に進むしかないのだ。
「その時は、依頼者の滞在しているホテルにいたんだが、そこを出た途端、たくさんと足音が真悟のいた部屋に集まって、そして出ていったんだ。」
いくらなんでもおかしい。そう思ったヤミは、急いで真悟様のいた部屋に戻り、様子を見にいったらしい。けれど、真悟様の姿はなかった。
「足音もバラバラの方向に向かっていて、俺1人では追うのは不可能だと判断した。」
それだけであれば、真悟様自身の足で出ていった可能性も残っているが……。
「置き手紙が残されていたんだ。誰に向けられたものかはわからないが、出かけます、と書かれていた。けれど、その字は……。」
勿体ぶっていないで早く教えて欲しい。ヤミは、こういうところで気が利かない。
「別人の、字だったんだ。」
ヤミはどうやらこのような事態を想定して真悟様の筆跡をあらかじめ覚えていたらしい。さすが私の弟だ。真悟様をさらわれてしまったのは落ち度だが、その後の対応が迅速だった。まあ、通信機で知らせてくれてもよかったのだが、どちらにせよその後合流しなければならなかっただろうし。
「持ってきましたか?」
「おいてきたよ。写真は撮ったけれど。」
その判断は正しい。今回の事件は私たちだけならまだしも、普通の警察官を動員して仕舞えば厳しい戦いになることが予測される。少しは周囲の人を安心させる時間稼ぎになるだろう。




