ご主人様の覚悟
ご主人様が目を大きく見開く。開かられた口から、声は発せられることもなく、驚きの表情を隠せないご主人様は、下を向いてふっ、と声を漏らした。
「なんで、なんでだよ……。」
気持ちはわからないこともない。母親が消え、父親が唯一の家族だったはずなのに。その父親でさえもいなくなってしまったのだから。けれど、私達に立ち止まっている暇などない。すぐにでも助けにいかなければ、命の保障はない。
「行きますか?お父様を助けに。」
ゆっくりとご主人様に手を差し伸べる。その手は素早く私の弟の手によって引き戻された。
「連れて行くべきじゃない。」
真剣な表情で、ヤミは私の手をぎゅっと握りしめた。やはり、私たちだけで解決した方がいいのだろうか?きっと、その方がいい。その方が、民間人を巻き込まずに済むのだから。
「……連れて行ってくれ。」
顔を上げたご主人様の目は、覚悟の涙で光っていた。
ヤミの方を振り返る。ヤミは私とご主人様を交互に見て、はあ、と、大きくため息をついた。
「わかった、わかった。」
手をぶらぶらさせながら、もう降参だ、という意を示す。
「連れて行こう。」
そう決まったのなら、さっそく作戦を立てなくては。真悟様のことだ。きっとなんとか生きてはいると思うが、いつまでもつかはわからない。
ご主人様の腕を掴み、無理やり立ち上がらせる。
「さあ、作戦を立てましょう。」
ご主人様は右手で涙を拭いながら、
「ああ。」
と言ってうなずいた。
ポケットに入れている手帳とペンを取り出して、作戦を立てる準備をする。その間に、ヤミは先ほどまで忘れ去られていた玄関の鍵をかけに行ったようだ。ヤミも先に鍵を作っておいたのだろうか?鍵を開ける音は確かにしたから、私が鍵をかけ忘れたわけではないのだろうけど。
「これからどうするんだ?」
ご主人様が暗い声で私に話しかけてきた。
このまま敵の本拠地に乗り込んでもいいのだが、その敵の本拠地がとこかもわからないし、それに何よりお嬢様のことが心配だ。敵の目がご主人様や真悟様の近くにいたお嬢様に向かないとも限らない。もしかしたら、もうさらわれていてもおかしくない。
「とりあえず、お嬢様の様子を見に行きます。敵がお嬢様をさらわないとも限りませんので。その後、敵の本拠地、真悟様のいらっしゃいそうなところですね。そこを探して、向かいます。」
私がそういうと、ご主人様はぽかんと口を開けて私を見ていた。
「もっとこう……ないのか?作戦とか……。」
うーん、いつも作戦を立てていたのは私じゃなくて妹のセイだからなあ……。