英雄の弟子、異貌の小神を打ち倒す
大鮫の矛は、日本神話で言う因幡の白兎に由来するユニークアイテムだ。
スタンはこれを、神話に倣う命題をクリアすることで手にしている。
因幡の白兎で、兎に騙された八尋和邇……つまり鮫は、怒って兎の毛皮を剥いでしまった。
大鮫の矛は、この神話と同じ力を持っている。
即ち、対象が纏う生来の毛皮であったり、あるいは粘液や鱗であったりとか、そういう身を守るためのものを残さず剥ぎ取ってしまう。
『オワアアアアッ!! オ、オデの鱗が! ヌメヌメがあ!』
丸裸にされたゴメスは、痛みと驚愕に絶叫した。
不快な粘液と重厚な鱗に覆われていた肌が、スタンの世界で言うウーパールーパーのような、つるんとしたふわふわ肌になってしまっている。
「いけるぜ!!」
即座に動いたのはアンネだった。
横倒しになったキャバリアに取り付いたままで、ゴメスに向けて銃撃をする。
さっきまでなら、粘液と鱗の二重の防御に弾かれていたそれが……。
『ギ、ギョエエエ!!』
つるんとしたゴメスの肌に弾痕を穿つ。
「畳み掛ける!! 雷精よ!!」
ドゥーズもまた、精霊を行使した。
幾度も精霊による魔法を使った彼は、MPも枯渇寸前。
己の生命力を削り、血を吐きながら雷の精霊を放つ。
その一撃は、異貌の小神の肌を確かに焼いていた。
『イデデデデッ!! お、お前らの攻撃、なんでオデに通用するんだあ! おおおっ、オデは怒ったぞぉぉ!! 倍返し、だぁっ!!』
ゴメスが全身をぶるぶると震わせる。
巨体の背後の虚空から、再び粘液の津波が引き起こされた。
津波の中には、多くの深淵のものが混じっている。
「させるかよおーっ!!」
そこに突っ込んだのが、フォルトだった。
空を泳ぎ、一直線に、ゴメスに向かって突き進む。
『ヒェッヘッヘ! ひよっこ探索者め! お前くらいの攻撃はあたんねえよ!!』
ゴメスは粘液を足元に分泌し、それで巨体を滑らせ、フォルトの攻撃を回避する──。
「フォルト君、これを! 神技・“光明神の導き”!!」
ソフィの全身を、輝きが包んだ。
それは、彼女が信じる光明神、バルドルの光。
神技となった信仰が、力となってフォルトに向かう。
「な、なんだ!? 俺の体が、勝手に!」
ただの漁師の子でしかなかった少年は、光を全身に浴びると、まるで熟練の戦士のような動きをとる。
的確にゴメスを狙って繰り出された銛は、避けようとしたその巨体にしっかりと突き刺さる。
「フォルト君、神技を!」
一瞬、呆然としていたフォルトは、ソフィの声を聞いてハッとする。
脳裏に浮かぶ、神技の名前。
それを唱える。
「ミッ、神の雷槌ッ!!」
すると、銛が突き刺さったゴメスの肉体が、爆ぜた。
『ゴオアアアアアアッ!! いでええええええ!!』
叫びながら、異貌の小神が体をよじる。
まだ息があるのか……!
誰もが、その恐るべきタフネスに息を呑んだ。
『絶対、ぜえーったい、許さねえぞおっ! お、オデは神様、なんだからなっ……!?』
ゴメスは恨み言を吐き散らしながら、反撃に移ろうとする。
だが、そこまでだった。
フォルトの銛を追うように、先程ゴメスから、身を護る粘液や鱗を剥ぎ取った怪獣が、再び迫っていたのだ。
怪獣は水とともに襲いかかり、そして、その肉体は無数の小魚になって崩れ落ちた。
後に残るのは、一本の長大な矛。
大鮫の矛だ。
それが、猛烈な勢いでゴメスの顔面に突き刺さった。
『おおおおごぉぉぉぉぉぉっ!!』
眉間、鼻、口、舌、顎を二つに裂かれ、矛はどこまでも突き進んでいく。
小神の肉体は、切り裂かれた部分から糸のようにほつれ出し、空気に溶け込み消えていく。
『うがあああああ、お、オデは! オデは神様にっ、なったのにっ!!』
叫びながら、ゴメスは消えていく。
その姿を、水面から無数の魚達が、じっと見つめていた。
やがて、呆然とする探索者達の前で、異貌の神の代言者ゴメスは跡形もなく消滅してしまった。
霧が晴れていく。
洞窟は崩れ去って入江となり、その畔で探索者達は体を休めていた。
「皆さん、後少ししたら、ヒールが使えると思いますから……!」
「ああ、無理しなくていいってソフィ」
引き起こしたキャバリアにもたれながら、アンネが力なく笑う。
岩場に座したドゥーズは無言だ。
だが、心なしか彼の視線も優しくなっているように見えた。
「うひぃ……くったびれたあ……」
ぐったりとして転がっているのはフォルト。
彼の肌からは、青みも鱗も消え、人間のものに戻っている。
今回の事件の黒幕であったゴメスを倒したことで、体に起こっていた変化は無くなってしまったのだろうか。
「おーい」
そこへ、呑気な声が掛かった。
普段着姿の男が、真っ青な甲冑の女とともにぶらぶらと歩いてくる。
すると、ゴメスがいた場所に突き刺さっていた巨大な矛が、ひとりでに抜けた。
矛はくるりと回ると、男に向かって飛んでいく。
「あっ、あぶねえ!!」
アンネが叫ぶ。
だが、男はへらへら笑ったままだ。
戻ってきた矛を、片手でひょい、と掴んだ。
掴まれた矛は、その姿を消してしまう。
「よーしよし。今度はちゃんと回収できたな。で、どうやらこれは命題もクリアしたと見た。お疲れー」
「スタンさん!!」
「あたしもいるよー」
「ゴールさん! やりましたー!」
ソフィは疲れも忘れ、ぴょんと飛び跳ねた。
「よーしよし、よくやった! あたしは感動したよー!」
ゴールの姿が消える。
そして、瞬間移動でもしたかのように、探索者達の間に現れる。
「!?」
「!!」
アンネが、ドゥーズが目を剥いた。
疲れているとは言え、この女の動きが全く読めなかったのだ。
ゴールは当たり前のような顔をしてそこに立つと、どこからともなくMPポーションを取り出した。
「ほい、これでMPを回復するんだよー」
「ありがとうございます!」
そして、ソフィの回復魔法を受けた探索者達は回復し……。
そしてようやく、彼らは命題の達成を確認したのだった。
※つるんとしたふわふわ肌
唐揚げにしても美味しい
※血を吐きながら
HPをMPにコンバートしている。
※フォルトの攻撃を回避する
残念、レベルが足りない!




