俺、湖の魚に力を貸し、英雄の弟子、湖の怪獣の力を借りる
深淵のものはどれだけ出てきたことか。
俺がサクサク倒したから、さほど時間は掛かっていない。
仮に奴らが倒されて消滅するのでなければ、死体の山が出来上がっていただろう。
「こんなところか」
俺は矛を下ろした。
エネミーどもと一緒に霧も切り裂いたから、俺の周囲はスッキリと晴れやかになっている。
ふと、水面が動いた。
ぱしゃりと、湖の魚が跳ねる。
それが、次々に跳ねていく。
「おっ!? なんだなんだ」
「スタン、あれって昨日、あたし達が矛を取り上げた魚の群れじゃん?」
「マジか!」
ゴールのジャベリンランチャーを喰らい、散り散りになったはずだ。
そいつらが、どうして水面に姿を見せているのだろう。
魚たちは、飛び跳ねながら、俺に何かを訴えようとしているのか。
「魚が跳ねてる……」
「こんなこと、初めてだよ」
「何が起こってるって言うの?」
「まさか、湖の怪獣が……」
後ろで街の人間が話す言葉を聞いて、俺はピンと来た。
「なるほどな。お前さん達、やっぱりこの矛を使って、異貌の神と戦ってたんだな。そいつを俺が取り上げちまったと」
俺は、大鮫の矛を握る。
「今、こいつが必要なんだな?」
俺の問いかけに答えるように、水面で一斉に、魚たちが跳ねた。
「よし、じゃあ、貸してやる。お前さん達がやろうとしてる事を、果たして来い!」
俺は矛を振りかぶると、湖面目掛けて放り投げた。
大鮫の矛が、飛ぶ。
その周囲を覆うように、水面から魚達が跳び出してきた。
矛が魚の肉を纏い、巨大な生き物へと変わっていく。
「か、か、怪獣……!!」
街の住人達がどよめく。
パスガー湖から現れたそれは、巨大な首長竜のように見えた。
さしずめ、こいつはパッシーだな。
「行って来い、パッシー! 少しの間、矛は貸してやる!」
遠く、湖の対岸にて。
ソフィ達は戦っていた。
対するのは、異貌の小神と化したゴメス。
本来であれば、力を管理する役割を果たすデュナミスのタクトと、対となる漆黒のヴァルキュリアがいるはずなのだが、彼らは既に倒されている。
そのため、ゴメスは際限なく、タクトが用意した異貌の神の力を吸い上げ、巨大化していっていた。
「くっそ! あの野郎、肌のヌメヌメと鱗が邪魔で弾丸が通らねえ!!」
二丁拳銃を立て続けに放ちながら、アンネが悪態を吐く。
「むうんっ……!! 裁きの力よ、下れ! 神技、司法神の裁き!!」
ドゥーズが放った神技は、直接白い稲妻となってゴメスの体に突き立つ。
『グロロロロロロロロッ!!』
これは効いたと見えて、異貌の小神の体が揺らぐ。
だが、一撃のみでは決め手にはならない。
「なんという頑健さだ。我が精霊の攻撃を幾度も受けているであろうに」
呻くドゥーズ。
既にその体は血まみれだ。
何度も、小神による攻撃を受け止めているのだ。
その度、後方に控えるソフィから、特技・光の障壁が飛んでいる。
『お前らぁぁぁぁっ! いい加減、おっ死ねぇぇぇ!!』
ゴメスがその巨体を震わせながら叫んだ。
その周囲から、粘液の渦が巻き起こる。
今まで何度も、ゴメスが放った攻撃だ。
「はぁっ、はぁっ……。き、きついかも。今度のは、範囲拡大できない……!」
そろそろMPの限界を迎えているソフィ。
短期決戦であれば、数少ない攻撃を受け止めればいい。
だが、生半可な攻撃が通用しないゴメスに対して、一行は攻め手を欠いていた。
自然、戦いは長期戦になる。
そうなってしまった時に一番負担がかかるのは、支援役であるソフィだ。
彼女は、MPポーションもあらかた飲み干してしまっていた。
「せめて、フォルト君だけでも……! 光の障壁!」
「お、おいソフィ!」
そして、粘液の渦が襲いかかってきた。
「ぐええっ! 気持ち悪い!!」
「くっ……!」
「うううっ……!!」
粘液に押し流されて、アンネのキャバリアが転倒する。
ドゥーズは膝を突き、ソフィは水の中に突き落とされた。
「ソフィ!!」
フォルトが、空を泳ぎながらソフィのもとに向かう。
「がぶっ……!! フォ、ルト君っ……! 行って……! 神技、使って……」
「馬鹿! お前、泳げないだろうが!」
それに……と言い掛けて、フォルトは口を噤む。
こんな状況で、自分には自信が無いなどと言えるものか。
いきなり探索者になり、冒険に加わり、そして見たことも無いような、こんな化物と戦っているのだ。
「フォルト君っ……!!」
「ああっ……分かったよ!!」
空を泳ぎながら、フォルトは銛を構える。
眼の前にいるのは、小山の如き大きさまで巨大化したゴメス。
その、焦点が合っていない目がフォルトを見下ろしたように見えた。
恐怖が、フォルトの心臓を鷲掴みにする。
人間であった頃の彼なら、この恐怖に屈してしまっていただろう。
だが、今のフォルトは探索者だ。
その半身は、水棲の民であるメロウになっている。
「やってやらあ!!」
決意を固めて、フォルトは空を泳いだ。
未熟な自分の銛が、届かないとしても。
頭の中で、命題が囁くのだ。
本当の怪獣を倒せ、と。
このゴメスこそが、本当に怪獣に違いない。
「うおお!!」
叫びを上げながら、フォルトはゴメスに飛びかかった。
ダメージを受けた仲間達は、戦闘に戻って来れないかもしれない。
ならば、ここは自分が頑張るところなのだ。
ゴメスは、薄ら笑いを浮かべたように見えた。
そして、その巨大な腕を振り上げる。
宙を泳いでくるフォルトを叩き落とそうと……。
「くっそぉぉぉぉ!!」
迫る腕に銛を向けながら、フォルトは絶叫した。
その時だ。
霧が、押し寄せてきた。
いや、霧をかき分けて、湖の水と共に巨大なものが崩れた洞窟に入り込んでくる。
それは、溺れかけたソフィを掬い上げ、ドゥーズとアンネを包んだ粘液を洗い流し……。
『あぁん!?』
突然やって来たそれに、目を剥いたゴメス。
彼には反応が出来なかった。
水そのものが起き上がったように見える。
それは、首の長い怪獣だ。
霧の中に現れたという、あの怪獣に違いない。
「スタン……さん……!?」
水を吐いたソフィが、よく知った雰囲気を怪獣から感じ取り、体を起こす。
そして怪獣はゴメスに覆いかぶさり……その身を包んでいた粘液も、鱗も、何もかもを洗い流していくのである。
今、異貌の小神が丸裸になる。
※魚たち
我が名はス◯ミー。
我々は大勢であるがゆえに。
※ソフィたちは戦っていた。
劣勢であります。
※首の長い怪獣
ネス湖とか屈斜路湖に出てくるアレ




