英雄の弟子、隠された通路を発見する
ソフィは緊張しながら、アゾットを握り締める。
目の前では、早速戦闘が始まった。
外に出た一行を迎え撃つように、氷の巨人が出現したのだ。
ただし、その大きさは山で出会った個体よりもずいぶん小さい。
平屋の家の屋根くらいなのだ。
その代わり、数だけはたくさんいる。
これらは、巡回していた村人が呼び出したのだ。
村人は今、地面に倒れて気を失っている。
「村人一人につき、巨人一体を担当してるんだろう。システムは良く分らないが、数はほら、村人と同じだろう」
「確かに……! だが、これはどういう原理なのだ。私が学んだ錬金術にも、こんな技は存在しなかった」
スタンの説明に衝撃を受けるラシード。
だが、会話をしながらも、彼は巨人たちに対する攻撃を行っている。
展開した賢者の箱から、刃のようになった光が飛び、巨人たちを傷つける。
そこにアレクセイが突っ込み、回転するチェンソー剣で叩き切るというわけだ。
「数が多いですね。広範囲の攻撃を行います。アレクセイは下がって」
「うむ」
スカウトの言葉の通り、後退するアレクセイ。
その機に乗じて襲い掛かろうとする巨人へ、イアンナは手にしたボール状のものを投げつけた。
「魔導炸裂弾です。巻き込まれればただでは済みませんよ……!」
爆発が起きる。
巨人たちの一部は、腕や足を吹き飛ばされ、動きを鈍くする。
「この程度では死なないか。やはり、普通の生物ではないようだな」
アレクセイは再び、戦場へ飛び込み、巨人たちに武器を叩きつけ始めた。
だが、それを待ち構えていた巨人がいる。
巨人はアレクセイ目掛けて、横合いから突っ掛けた。
「ぬうっ!」
咄嗟に反応できず、アレクセイは真横からの奇襲を受けてしまった。
その瞬間、スタンがソフィに指示を出す。
「ソフィ、あれだ!」
「は、はい!」
理解するソフィ。
「幸運の女神よ!」
彼女の手のひらが輝く。
そして、放浪者クラスの特技は効果を発揮した。
まるで時間が巻き戻ったように、状況はアレクセイが奇襲を受ける瞬間に戻る。
機甲兵は驚いた顔をしていたが、すぐに奇襲に対応した。
チェンソー剣を立てて、襲い掛かる巨人の攻撃を防いだのだ。
「助かる、ソフィ」
「いえ!」
「うむ。あの特技の使い手だったのか。これは心強い……!」
ラシードは、ソフィに笑顔を見せた。
「よし、押し込んでいくぞ!」
ここでスタンが出陣だ。
後衛に向かって攻撃してこようとする巨人を、まずは拳一発で地に沈める。
「横は制圧する。明らかに正面の巨人どもが守りを厚くしてるから、そこに何かあるかもしれないぞ」
そうアドバイスを残し、一人別の戦線を構築し始める。
スタンを目掛けて、村の家々から巨人があふれ出してきた。
これを拳一本で次々に迎え撃つ。
流石はエインヘリヤル様、とソフィは感心した。
戦況を見渡す限り、どうやらソフィたちが優勢なようだった。
前線を支えるアレクセイとイアンナ。そして後ろから攻撃を行うラシード。
彼らを横や後ろから狙おうとする相手は、スタンが撃破する。
ソフィは全体をきょろきょろ見回しながら、時々幸運の女神を使ったり、ヒールを使ったり。
「ふう……」
疲れを感じて、ソフィはアイテム欄からMPポーションを取り出し、ごくりと飲んだ。
特技や魔法の使用で失われていたMPが、回復していくのが分る。
「でも、戦うだけじゃダメだよね。えっと、スタンさんは確か、正面に何か隠してるって……」
じいっとソフィは正面を見る。
そこは村の広場で、中心には井戸しかないように見える。
井戸なんか、ソフィの村にだってあったわけで特別なものでは……。
「……あれっ? あの井戸、横に階段がついてる……? それに大きい」
彼女は、井戸のおかしな点に気づいた。
それがマキナ帝国流の井戸だと言ってしまえばそれまでだが、そもそも男爵領よりも技術が発達している帝国が、こんな旧式の井戸を使うだろうか?
ましてや、井戸についた階段なんてどう使うのだ。
「ラシードさん、あの井戸、変です! もしかして、井戸の中にどこかに行ける道があるのかも」
「むっ!? 言われてみれば確かに、アレクセイすら楽に入れるほど大きい。どれ……グレムリン!」
ラシードは戦闘を中断し、賢者の箱から使い魔を呼び出した。
翼の生えた小鬼が空を飛び、井戸に向かって急降下する。
「皆! グレムリンの突入を支援してくれ!」
「うむ。では神技を使用する」
アレクセイは即座に決断した。
彼が強く一歩を踏み込むと、全身の鎧から一斉に蒸気めいた煙が上がった。
イアンナが素早く一歩下がる。
巨人たちは、前線が下がったと見て、大きく前進してくる。
「特技発動。回転撃!」
その瞬間、アレクセイの鎧から噴き出した煙が一定方向を向き、彼の片足を軸にして、その体を回転させる。
人間の体では不可能な速度だ。
チェンソー剣を起動したままの回転は、刃を次々に巨人へと叩き込んでいく。
「神技・死の女神」
チェンソー剣が、青白く輝いた。
その回転刃は、まるで抵抗など無いかのように、巨人の肉体を次々に切り裂いていく。
たちまち、十体近い巨人がバラバラに引き裂かれ、飛び散った。
白煙を上げながら、アレクセイの動きが止まる。
「行け」
「よし、グレムリン!」
使い魔が、井戸の中へと突入する。
※どういう原理なのだ
クトゥルフ神話がせめてき(略
※魔導炸裂弾
イアンナが常備化しているアイテム。
範囲を一度に攻撃することが出来る高威力のアイテムだが、シナリオ中で一度しか使えない。
※井戸
マキナ帝国の井戸は、自動汲み上げ式になっている。




