英雄の弟子、村を支配するものの手がかりに迫る
「尋問の結果は出たのかい?」
スタンの問いに、ラシードが顔を曇らせた。
どうやらあまり、進展は良くないらしい。
「それらしい単語を引き出すことは出来ているのですが、奴らは頭が混乱している様子。意味のある言葉としては、まだ情報を得られていません」
「永続的狂気に囚われているのかもしれないな。あるいは、交渉判定が成功してないか。ソフィ、ここは君の出番だな」
「はい!?」
突然話を振られて、ソフィは跳び上がるほど驚いた。
「わ、私、そんな尋問なんて全然分からないんですけどっ」
「君の特技だ。導きと幸運の女神の出番だ」
「あ、ああ、それですか!」
明確に言われて、彼女も理解する。
そして、ラシードに続いて尋問を行っている部屋にやって来た。
部屋のあちこちに、縛られた村人が転がっている。
彼らは猿ぐつわを噛まされ、ふぐふぐと唸る。
そして椅子に座っている村人は、まるで夢でも見ているかのように視線が曖昧だ。
「これって」
「猫催眠」
ちらりとソフィを見たイアンナが、そんな妙な単語を口にした。
「村人くらいならばすぐに掛かるのですけれど、それでも満足な言葉が引き出せません。何か、言葉による誘導が足りないのでしょうか」
イアンナは思案している。
「わ、私が手伝います! そういう特技があるので。だから、イアンナさんはもう一度聞いてみてください」
「尋問を補助する特技ですか。それはありがたい……。では」
イアンナは村人に向き合う。
「もう一度。深く、深く沈む。月の夜。夜の広場。広場の猫。猫の集会。集会の囁き。囁きが聞こえる。あなたは何が聞こえるの」
歌うように囁く。
村人はぼうっとしながら、視線を宙にさまよわせた。
ここで、スタンがソフィの肩を叩く。
「あ、はい! 導きを……!」
ソフィが宣言すると、彼女の指先が淡く光った。
光はイアンナに向かって放たれると、その言葉を通じて村人に向かう。
村人はカッと目を見開いた。
そして、ぱくぱくと口を開閉させる。
「聞こえる……聞こ……える」
「……いつもよりも深く催眠が掛かりました」
イアンナが眼を見開く。
ソフィが持つ、白魔導師のスキル、導きによって、イアンナの猫催眠の効果が高まったのだ。
ほんの僅かな差だが、一般人相手なら効果はてきめん。
「何が聞こえていますか。何者が、あなたに囁きましたか」
「お、おおお。神の……神のみ使い……。黄衣をまとう風の神の代言者……。異貌の神の神官様……」
「出たな。そいつが黒幕だ」
スタンが断言した。
「異貌の神……。機械神が、明確な敵であると託宣した存在だ。スタン殿の仰るとおり、そのような邪神めいたものがこの村に関わっていたのか」
「正しくは、神の力を振るう人間みたいだな。代言者と言っていただろう。つまり、神は直接的にこの事件には関与していない。異貌の神の代言者はこの村のどこかにいて、村人を操っているか、洗脳しておかしくしてしまったんだろう」
スタンが補足すると、アレクセイ一行は得心がいった、という顔になった。
話が分かりやすくなった。
知らない単語を、理解しやすい概念に置き換えたので、この場にいる誰もがすぐに納得できたのだ。
ソフィはちょっと嬉しくなった。
ほら、スタンさんは凄いでしょ、と言いたくなる。
「イアンナとラシードが尋問を行った時は、掴みどころがない話ばかりで参ったが、スタン殿とソフィが手を貸してくれたことで光明が見えた。この俺にも理解できるのだから、皆は言うまでもないだろう」
アレクセイは一息入れると、今後の行動を口にした。
「村の探索を行う。この時、洗脳されている可能性がある村人が立ち塞がるだろう。これを排除することになる」
「なるべく殺さないようにな……」
スタンが進言すると、アレクセイは難しい顔をした。
「ここで昏倒させた村人程度の強さならば問題がないが、氷の巨人のようなものが出てこないとも限らない。俺はあれと戦う時に、他が死なないように気を配るなどできん」
「神技を使ってもか? アレクセイ、君は戦士だろう。ならば、打撃力を上昇させる神技、神槌が使えるはずだが」
「確かに……。だが、一度きりの切り札だ。それを使って、あれを退けても、次に何があるか分かるまい」
「じゃ、じゃあ、ああいう反則みたいな怪物は、スタンさんにお願いすればいいと思います!」
思わず口を挟むソフィ。
スタンは、あちゃーという顔になった。
「ソフィ。俺たちはアレクセイのパーティに間借りしている形なんだ。ここで熟練者である俺が出張って、彼らの出番を奪うような事をしてどうする。やはりここは、俺は裏方に徹してだな」
「そうだな。スタン殿に頼めば問題がない」
「えっ、いいの?」
スタンが思わず素になったようで、砕けた口調で聞いた。
イアンナ、ラシードもそれでいいと思っているようだ。
すると、スタンはちょっと嬉しそうな顔になった。
「よし分かったぞ。では、明らかにバランスがおかしい敵が出てきたら、それは俺が担当しよう」
「頼りにしている」
そのようなことになった。
スタンの手足がむずむずと動いている。
(ほんとに嬉しかったんだなあ)と、ソフィはほっこりした。
だが、そんな彼女にスタンが囁くのだ。
「ちなみに、勝負の鍵はソフィ、君が握っているからな。MPポーションを服用しつつバランスよく支援するのだ……」
「え、ええええーっ!?」
※猫催眠
ウェアリンクスのクラスが持つ特技である。
イアンナがとちくるったわけではない。
※代言者
異貌の神、あるいは神々は、人間に理解できる言葉を話せない。
そのために、狂気に陥った人間を代言者として使い、ラグナロク・ウォーの世界に影響を及ぼそうとする。
どちらにせよ邪神なので、ろくなことにはならない。




