2-49.視察(1)
フウマがしくじった。
まぁ、フウマのせいじゃないけどさ。
「全力で走る馬についていきながら、<念話>なんかできない」
って。
準備ができなかったじゃん!
「関所破りだ~~!」
「馬が~~!逃げろ~~」
いや、ちょっと待ってって。
関所が破られたら私の爵位はく奪とかあるよね。
それも直ぐに、エライ貴族二人が来るってのにさ・・・。
って、思って駆け付けてみたら、声が聞こえるの。
「王子!私の勝ちですな!」
「レナード、お前、俺の道を塞いだじゃないか。」
「何をおっしゃる。ちゃんと脇を抜けれたはずですぞ。」
「いや、俺がそっちへ避けようとすると、お前が道を塞いでたぞ。」
「そうでしたか?それは気が合うことで。勝ちは譲りませんが。」
「くぅ・・・。」
これって、あれか。二人が競争してきてゴールが関所と。
この人たち、関所破りとか考えてないんだね。エライから。
怪我人の事も考えてない。上流貴族だから。
とりあえず、怪我人の確認だけしてから挨拶だね。
「皆さん、怪我はありませんか~。積み荷で壊れてしまったものはありませんか~。」
「いやぁ、ねえちゃん。この二人がさ、凄い勢いで突っ込んでくるんだよ。馬術の腕前は確かで、怪我人はいなかったけど、びっくりしたのなんのって・・・。」
「びっくりして怪我した人や、荷がひっくり返ったりした方はいませんか?」
「皆、関所を越えて旅するぐらいだ。みんな大丈夫だろうさ。この二人はお嬢さんの知り合いですか?知り合いなら、今後のために注意しておいた方がいいですね。エライ貴族に見つかったらただじゃすまないですし、ここの関所も領主が通してくれなくなりますよ。」
「判りました。今、二人に伝えておきます。」
「そこの二人!関所は競走馬のゴールではありません!そんなことして遊んで領民が怪我をしたらどう責任をとるんですか。エライ貴族に見つかると、ただじゃすみませんよ!あと、領主もここを通してくれなくなります。以後気を付けてください。判りましたか?」
「おや、ヒカリ殿。エライ貴族になられましたか?」
「ヒカリ、かっかしてるね。元気で何よりだよ。」
「(形だけでいいから、馬から降りて反省してる振りしてください)」
「(そうか、そうかスマン)」
「(ヒカリも偉くなると大変だね)」
「皆さまご迷惑をおかけしました。重々反省しておりますので寛容にみていただけるでしょうか。二度とこのようなことをしません。」
「私もこちらの方と調子に乗りました。皆さんすみません。」
「(二人とも、ありがとうございます)」
「(なに、ヒカリ殿のためだ)」
「(迷惑かけたね)」
へぇ~。貴族って頭を下げないと思ったよ。なんか潔さというか、場の治め方が上手いね。周りにあった大混乱も問題なく収束しちゃったよ。
っていうか、フウマはどこいったのさ。こうならないように上手く誘導してくれるんじゃなかったのかな・・・。
まぁ、行先は知ってるけど、一応、二人に聞いてみるか。
「お二人は、これから揃って関所を越えられますか?お供の方がいらっしゃらないようですが・・・。」
「「ヒカリ(殿)に会いに来たんだよ」」
「え?そうなんですか!ありがとうございます。では、馬を預けて、こちらへ・・・。」
<<モリス、来た!館の食堂に案内すればいいね?>>
<<昼食のご予定はお判りでしょうか。あるいは、フウマさんからの続報は?>>
<<わかんない。とにかく、私の顔を見に来ただけみたい。お茶の準備をお願い。>>
<<承知しました。>>
「どうぞ、こちらになります。大した席ではございませんが、どうぞお掛けください」
「ヒカリ、気を遣わなくていいよ。二人で顔を見に来ただけだから。なぁ、レナード。」
「王子が『今から行けば間に合う』と仰った気がしますが。」
「レナードが、『なら早い方がいい。』とか競争を始めただろ?」
「すみません。お忙しいところご足労頂きありがとうございます。今日の昼食と今晩のご予定を伺っても宜しいでしょうか?」
「ヒカリ、堅苦しいのは抜きで楽にしていいから。お昼は食べる。宿も準備してほしいかな。何か見るものっても、この関所じゃ何もないから、昼ごはんを食べたら、夕飯用に皆で狩りでも行くかい?」
「ヒカリ殿、王子の言う通りでいきましょう。毒見役は連れてきてないので、貴方が代行してもらう必要がありますな。午後については、裏の森に<伝説の地下>があるって噂もあるので、探索も面白いかもしれませぬ。」
「判りました。お言葉に甘えて、フランクな言葉に変えます。食事の指示を出すのでちょっとまっててください。特にご用命がなければ、お昼ご飯をとりながら午後の予定を決めましょう。」
<<モリス、お茶で時間を稼ぐから、昼はパスタ3人前。中身はゴードンと相談で。<夕飯の食材を森に狩りに行く>とか、言い出したけど、そこはいろいろあるから、誘導して娼館に導く。夕飯を食べて泊っていくので部屋割りの準備もよろしく。>>
<<了解>>
「で、ヒカリはここを気に入ってくれたかい?」
「忙しい毎日です。ユッカちゃんと2人だけの生活でしたが、ここでは人数も増えて、いろいろやることが増えました。」
「関所があるだけで、毎日金貨が入るんだ。楽かと思ったんだけどね。」
「そうですね。金銭面では今のところ不自由しておりません。皆さんがいろいろやりたい事がある様なので、そのお手伝いをしています。」
「そういえば、領地経営は、<スザク>をお遣いにやったはずだけど、仲良くやってるかい?」
「あ、はい。家族扱いにしまして、ここでは<フウマ>と名乗らせています。姓は<ハミルトン家>とすることにしました。それで、今日はフウマが見当たらないのですが?」
「ああ。彼が考え事をしてるようだったから、キルギスの街に置いてきた。」
「そうでしたか。若いのに知識があり、魔術も使えて頼りになります。」
「彼が役に立っているんだったらいいんだ。俺にとっても一番お薦めの子を送ったつもりなんだ。見知らぬ土地での領地経営って、躓くことが多いだろ?」
「そうですね。<新しい事をするのに、権利を許可頂く必要がある>ことを知らなかったので、その事は大きいですね。」
「ヒカリはやっぱり面白いね。レナードから貰ったパンと肉の権利だけじゃ足りないのかい?お金も不自由なく使えるようになったはずなのに。」
「はい、お金は足りています。ただ、その・・・。<おねだり>してもいいですか?」
「俺は権利の許諾権はないよ。レナードに聞いてくれ。」
「ヒカリ殿は隠し事が多くて怖いから、慎重に審査しないとな。」
「え?そんな・・・」
「王子の治療を済ませたのに、報告しませんでしたな?」
「レナードすまん。それは俺が一人で動く必要があったんだ。この関所とジャガ男爵の件は任せてくれるって言ったじゃないか。そのタイミングで病気になって、なおかつ、男爵の持ってきた薬が問題でさ。ヒカリとユッカちゃんの口止めをしたのは俺のせいなんだ。」
「そうでしたか。それでは仕方ないですな。では、<こん棒>を2本も置いて行かれた件がありますな。」
「ご迷惑でしたか?大きくて、普通には使えそうにないので、レナードさんのお屋敷でしたら<何かの飾り>にでもと、お礼の意味で差し上げたのですが。」
「あれを何処で見つけてきたが知らんが、無言で門番に預ける品物では無いだろ?」
「あまりに大きくて、置き場所に困まりますよね。捨ててしまえばよかったですね。」
「レナード、その<こん棒>が問題なのか?」
「ご覧になれば判ります。ヒカリ殿がもう一本は所持しているはずで、ご覧になれるかと思います。」
「お急ぎであれば、取りに行きましょうか?」
「昼食を食べながらにしよう。誰かに取りに行ってもらってね。レナード、ヒカリは言葉足らずだけど、悪気でやってないんだ。よく聞いてあげよう。」
「最後に、<ホットミース>の件です。あれもヒカリ殿の仕業でしょう。」
「はい・・・。あの宿屋は立地が悪くて、商売に不向きだったのです。なので、<何か売りになるもの>として、レナードさんの所へのパンとは別に提供しました。」
「宿屋の繁盛はしらんが、<ホットミース>は領主の私が知らなくて恥をかいた。」
「すみません!」
「王子の俺も知らない!」
「す、すみません・・・。」
「「昼飯は<ホットミース>だな。」」
「え、あ、あの・・・。別の物を用意しているのですけど・・・。」
「金は払う。追加で作ることはできるな?」
「俺もさらに追加でお金を払うよ。レナードのより美味しいのを出してくれ。」
「お代は結構です。ただ、<ホットミース>はユッカちゃんと私しか作り方を知らなくて、少々お時間が・・・。」
「「ユッカちゃんが、なんでここに居ない?」」
「森に遊びに行ってるとおもいます。呼びに行かせましょうか?」
「ヒカリ、執事やメイドがいて、なんでお前やユッカちゃんが昼飯を作るんだ?教えて作らせればいいだろう?」
「竈がなくて・・・。最近ようやく・・・。」
「それは、家の中に作る窯だろ?『<ホットミース>はあの宿屋のでないと、焼きが甘い』って評判になってる。まだ何か隠してるな?」
「<おねだりしたいもの>って、実はそれなんです。」
「窯をここに作るのか。うちの領民のトーマスが上手いらしいぞ。ただ、粘土が採れないとか前に嘆いていたがな・・・。」
「ヒカリは隠し事が多いなぁ。レナードが慎重になるのも判る。で、窯用の粘土はどうすればいいんだ?」
「王子、粘土は洞窟に魔物が居て、退治する必要があるんですよ。キリギスの街から北西の所にある洞窟です。」
「なんだ。今日来て、また逆戻りか。今から間に合うのか?」
「奥に<心が2つある魔物>ってのが居るらしく、相当手ごわいらしく、手を出せる者が居ないようですね。」
「ほぅ。そんなの倒したら神器級のアイテムが手に入るんじゃないのか?」
「洞窟が狭くて、大人数パーティーで落としにいけないとか。余程息の合う二人か三人組で無いと・・・。」
「なんだ、レナードと俺でいいのか。今からか?」
「あ、あの・・・。<ホットミース>作りますから、洞窟は今度でも・・・。」
「ヒカリ、大丈夫だ。俺ら結構強いんだ。ちゃんとした窯で<ホットミース>が作れるようにするよ。」
「あぁ。フウマ、助けて・・・。」
「何?姉さん。」
「え?フウマ、どっから!」
「さっきから、居たよ。」
「いつから?」
「『<ホットミース>を昼食に』ぐらいから。姉さん、俺も食べたいよ。」
「なら、私がユッカちゃんと一緒に<ホットミース>を作ってくるから、ご飯食べ終わったら、お二人を<窯>と<娼館>の見学に案内してね。」
「姉さんはここでお客さんの接待。俺がユッカちゃんを探して<ホットミース>を作ればいいんだね?」
「私は<ホットミース(改)>が食べたい。」
「姉さん、この場でそういう余計な事いう?」
「「俺たちも<ホットミース(改)>が食べたい」」
「お昼ご飯はもう出来上がるはずなので、<窯>の見学をしながら<ホットーミース>を実演して作りましょう。今日ならキリギスの街のトーマスさんもいらっしゃるので、詳しい説明もして頂けるとおもいます。宜しいでしょうか?」
「窯もあって、トーマスもいて、<ホットミース>も作れるなら何を<おねだり>したいんだ?」
「さきほど、ヒカリ殿は<窯>と<娼館>の見学といっていましたが。」
「今日は<窯>と<娼館>を視察頂いて、問題がなければその運営許可を頂きたいのですが・・・。それが<おねだり>の内容です。」
「レナード、いいか?」
「王子のご都合に合わせます。視察しないと、権利発行は判りませんが。」
「じゃ、<ユッカちゃん>と<こん棒>と一緒に昼食だ。」
「判りました。一旦失礼します」
「姉さん、俺も手伝うよ。」
ーーーー
「フウマ~~~!どういうこと?」
「<念話>している最中に、二人が馬で走り始めたんだよ。止めようと思ったけど、二人で競争してるから、全然無理なんだ。」
「走りながら<状況報告>できなかった?」
「あのとき初めて念話ができたんだ。全速力で追いかけながら、そこからの魔術って、そんなに多重起動できないもんなんだよ。」
「そっか。ごめん。フウマありがとうね。いろいろ助かったよ。ああ見えて、結構準備できてる。ニーニャとかステラとかも紹介しておいた方がいいかな?」
「あの二人は、そういうのに憧れないっていうか、多分、そういうのが重たいから好き勝手に飛び出してきたと思うよ。姉さんもそんな気分だろ?」
「少しわかるかも。じゃ、機会があったらでいいか。」
「あと、フウマに内緒だったわけじゃないけど、粘土の洞窟の話ね。あそこで、<こん棒>も<斧>も手に入れた。あそこに敵が居ないから<粘土が自由にとれる>ようになったんだよ。」
「粘土の洞窟の話は前に教えてくれていたけど、<こん棒>も<斧>も、そこで見つけたのは知らなかった。ひょっとして、<特大サイズの魔石>もあそこ?」
「1つは私が作った。2つはユッカちゃんのカバンの中だよ」
「ねえさん、あんなの3つも持ってるって誰にも言っちゃいけないよ。」
「わかんないけど、わかった。言わない。」
「じゃ、食事、ホットミース、<こん棒>の準備だね。他に何か手伝うことある?」
「オイルマッサージの人手を貸して。」
「なにそれ。」
「フウマが居ない間にいろいろあった。娼館の手前で一般向けのマッサージを有料で提供するようにした。ハーブオイルはステラの弟子達が長老のところで作ってる。これでいい?」
「わかんないけど、分かったよ。俺がレナードさんで、姉さんが王子でいいね?」
「え?あっ・・・。はい・・・。おねがいします・・・。」
いつも読んでいただきありがとうございます。
頑張って続けたいとおもいます。
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ありがとうございます。
10月は毎日少しずつ22時更新予定。
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