28.冒険者(よろずや)になろう(2)
冒険者の仕事ってなんだろうね?
やらなくていいなら、狩人の特訓の続きをしたいんだけどね。
冒険者登録所のおばちゃんに、冒険者登録証を2枚もらった。
ユッカちゃんの分と私の分だ。
「お嬢さん達、おめでとう。
これであんたらは無事にこの国の冒険者に登録されたよ。
自由に稼げる資格を貰えたってことだ。
今後ともよろしく頼むよ」
「私はヒカリ、この子はユッカです。
どうぞよろしくお願いします」
「早速、仕事の斡旋なんだがね?
貴族の屋敷でメイドを募集してるんだ。
小さな子と二人でいいかは、分からないけど、
ちょっと行ってみるのどうだろう?」
「ありがとうございます。
けれど、今日はやっと城下町から着いたばかりで、
ちょっと休もうかなと……」
「おやおや、いいのかい?
住むところも無く、仕事もないんだろ?
ちょっとの小銭で宿に泊まっていては、
あっという間に一文無しだ。
そんな小さな子が居て食事も無しじゃ困るだろう。
よく考えた方が良いんじゃないかい?」
「は、はい……。
で、ですが、狩りをしつつ、野宿をすれば、
お金には困らないんじゃないかなと……」
「あんた!
あんた達がどこの国から来たのか知らないけれど、
ここの領地では勝手に狩りはできないんだよ。
ほとんどが王や貴族の領地になっていて、
許可無く勝手に狩りをすると罰せられるんだ。
当然、組合に属していて許可証があるなら構わないがね。
そんな許可証があるなら冒険者登録証なんかいらないはずだがねぇ?」
な、なんかえらく攻撃的っていうか、不機嫌にさせてしまった?
メイドを断ったのが機嫌を損ねたの?
ここは今後のこともあるから、迎合しておこう……。
「確かにおっしゃる通りですね。
いろいろ心配して頂きありがとうございます。
二人でよく考えてみたいので、
そのメイド募集の話を伺えますか?」
「そうこなくっちゃ。
ここはレナード侯爵の治める領地でキリギスって街だ。
この町を抜けて城下町と反対の南に進むと、ジャガ男爵領になる。
そこのジャガ男爵が募集してるんだよ。
川もあって、きれいなところだって聞くよ。
ちょうど、一人のメイドが休みを取ってるらしくてね。
急遽募集がかかってるようなんだ。
貴族のメイドの空きはなかなか無いと思うから、
あんた達には良いチャンスと思ったんだよ」
「丁寧な説明ありがとうございます。明日にでも訪問してみます」
「そうだね。そうするといいよ。ジャガ様が喜ぶといいね」
ベッセルさんのときとは違う予感がする。絶対おかしいって。
この人、何かを隠すようにやたら良くしゃべる。
斡旋手数料が結構な金額なのかな。
そもそも、ジャガ男爵の時点で日本人には無理だよ。
名前呼ぶたびに噴出して処罰されるよ……。
冒険者登録所を出て、今晩の宿を探す。
ここから暗い中を森の中の小屋まで戻って、
吹き飛ばした追跡者と遭遇するのは危険だもんね。
異世界で初めての宿なんだけど、料金ってどうなんだろ?
ユッカちゃんも外泊はほとんどなくて、
お母さんかお父さんがやってくれていたとのこと。
そりゃそっか~。
繁華街でもなく、居酒屋が並ぶような夜の店が近い場所でもない、
ちょっと町の外れのこじんまりした感じの宿を見つけて、
空き部屋があるか聞いてみることにした。
「すみませ~~ん。今晩、2人分の宿の空きってありますか?」
「いらっしゃいませ。少々おまちください」
ユッカちゃんより大分年上の10歳ぐらいの男の子だ。
こんな子が受付とかするのか。
生きるためのハードルが高いね。
「大丈夫です。2人1部屋でしたら銀貨5枚になります。
食事は今日は提供できないのですが、
それでもよろしいでしょうか」
「判りましたそれで構いません。
夕飯についてなんですけど、
持ち込みの食材でこちらの台所を使わせてもらうことは出来ますか?」
「少々おまちください」
なんだろ?やたら相談に行くね。
まだ見習いだからかな?
「こちらの台所を使って頂いて結構です。
もし僕の分も作ってもらえるなら、ここの食材を使っていいとのことです」
「「え?」」
「お母さんがお休みを取っていて、
お父さんもいろいろ仕事があるので、
僕も一緒に夕飯たべたいな~って。
お父さんが『そうすればいいよ』って」
「そうですか。台所を見せてもらってもいいですか?」
「どうぞ、こちらです。
大したものはないですけど、
家族用の食材なので何を使って戴いても構いません」
「ユッカちゃん、
おねえちゃんは夕飯作るから、休憩してていいよ~。
外に出かけるなら必ず声を掛けてね?」
「わかった~」
ユッカちゃんは男の子と出て行った。
部屋でも案内でもしてもらうのかな。
私は深く考えるの止めた。
外食でもいろいろな面倒に巻き込まれるだろうし、
それを回避するのも大変だもんね。
それよりも今ある環境で今出来そうことを考えることにした。
宿の台所は食材が充実している訳ではないだろうけど、
小麦粉さえ見つかれば、うどんでも、粉物でもなんでもつくれるさぁ。
今日は時間もないことだし、<すいとん>みたいな物でいっかな。
粉、水、塩、野菜はおっけー。
ひき肉が無い~。
鶏肉もない~。たんぱく源がないねぇ。
チーズと牛乳、生クリームみたいなバターならあるね。
よし、乳製品をたんぱく源に切り替えて、
<クリームソース風すいとん>にしよう。
胡椒はないみたい。
唐辛子もこの家には無い。
オリーブオイルはあるね。
いける!
てなわけで、チャチャっと作る。
捏ねて、茹でてる間にソースを作って火を通す。
ゆで汁捨てて、ソースに絡めておしまい。
良しとする!
二人が戻ってきた。えらい、いいタイミング。
「できたよ~。簡単だけどね」と、私。
「おねえちゃん、美味しそう」と、ユッカちゃん。
「良い香りがしますね。楽しみです」と、宿屋の少年。
「時間掛けてないけど、まあまあと思うよ。みんなで食べよ」
「「は~い」」と、二人が元気に返事をする。
何ら問題なく食事も終わり、後片付けも済ませる。
お風呂なんかないから、部屋に戻ってのピュア!
で、一息ついて今日の疲れを癒そうとするタイミングで、
ユッカちゃんが神妙そうな声で私に話しかける。
「おねえちゃん。お願いがあるの」
なんだろね。元気さが足りない。
エネルギー不足か、夕飯が美味しくなかったのか。
と、とにかく話を聞こう。
「なに?」
「あのね。エーテルさんを使いたいの」
「さっき、ピュアしてるし。この二人が泊まる部屋ならいいんじゃない?」
「ううん。別の部屋で使いたいの……」
「ふむ。使いたい理由を聞かせてもらってもいい?」
「あのね。男の子のお母さんが病気みたいなの。肺が悪いの。
私がおかあさんに教えてもらった方法なら治せるかもしれないの」
「うんうん。それで?」
「でも、森の家まで宿屋のお母さんを運べないし、
ここでエーテルさんを呼ぶと、みんなに知られちゃうから困ってるの」
「分かった。
ユッカちゃんの考えはとても大切なことだと思う。
私も協力したい。
だけど、一応、男の子とお父さんにも話を聞いてからでもいいかな?
もし、本当に困っているなら、私やユッカちゃんの事を黙っててくれると思うんだよ」
「そっか。早く二人とお話しをしに行こ!」
ーーーー
男の子のところへ行って、お父さんと一緒に話ができるか尋ねる。
すると、お父さんと一緒に空いてる部屋でお話ができるとのこと。
「あの~。どういったご用件でしょうか。
今日は丁寧な対応ができず、申し訳ないです。
息子の夕飯も一緒に作ってもらったそうで、ありがとうございます」と、宿屋のご主人。
「その~。
通りすがりの者がご家庭の事情に立ち入るのは失礼とは思うのですが、
奥様の体調はよろしくないんですか?」と、私が切り出す。
「ええ……。
最初はちょっとした風邪かと思っていたのです。
ですが、家内も相当無理をしていたようで、どんどん酷くなっています。
高価な薬も飲ませているのですが、効き目もなく、貯蓄もなくなりつつある状況です」と、ご主人。
「そうですか、それは大変ですね……。
もし差し支えなければ、詳しく伺っても宜しいですか?」
「うちの宿屋はメインストリートから外れていて、
かといって夜の街の帰りに立ち寄る立地でもないので、
宿屋の経営だけでは苦しかったのです。
家内も『すこしでも家計の足しになれば』と、
<よろず屋>で募集していたメイドの仕事に応募して、
とある貴族の所で昼間だけの条件で仕事をしていたんです。
ところが、その……。
その男爵様から『夜の仕事もできないか?』と話があったようなのです。
子供がまだ成人してないこともあって、
家内は『昼間だけでお願いします』と、きっぱり断ったそうなんです。
すると、その後からキツイ仕事がたくさんくるようになって、
カビと埃っぽい地下室の掃除とか、重い荷物の運搬とかを次々に与えられて、
それで体調を崩したのです。
それでも家内は家計のためにと我慢して重労働を続けていたようなんです。
男爵様はその様子を知りながら、さらにキツイ仕事を与えられるようになって、
とうとう本格的に体を壊してしまい、今は寝込んでいて起き上がれません……」
皆が黙ってしまう。
私は思いつくこともある。ただ、この場で全てが解決に至るかというとそうでもない。
そもそも、私は【自由に研究すること】を夢見て異世界へ転移したのだし、
たまたまユッカちゃんとの出会いから異世界ライフを立ち上げようとしている最中だ。
よそ様の家庭事情に首を突っ込んでる場合じゃない。
けどね?
日本の両親に保護された環境で達成したかった夢と、
この異世界で自分が実現できることは違うと思う。
目標が違うのであれば、手段も行動も修正されるべき。そんなのは当たり前だ。
私はこの異世界で生を全うする覚悟がある以上は、
私が選んだ選択肢を後悔するようなことは避けたい。
私がユッカちゃんの指を3本握りながら沈黙を破る。
「手元にある薬が効くかもしれません。
しかし、その薬は効果が必ず出るとは限らないので、
お二人にその薬を与えても良いか了解をいただけますか?」
と、私は問いかけた。
誤字などの修正のみです。




