3-98.後片付け(1)
後片付けも重要だよね。
「おねえちゃん、おはよ。」
「ユッカちゃん、おはよ。」
「おねえちゃん、元気になった?」
「え?また、魔力切れで何日も寝てた?」
「ううん。夕ご飯も食べずに、ピュアもせずに寝てたから聞いたんだよ」
「そっか、ごめんね。みんなは何してる?」
「なんか忙しそうだよ。二人でご飯だよ。」
「そっか、ピュアとは別にお風呂でも入りたいね。」
「レイさんの所へ行けば、たっぷりのお湯が使えるよ。」
「朝ごはん食べて、二人でお風呂に入ろう。」
「おねえちゃんが、<役に立たないこと>するなんて珍しいね。」
「え~?いろいろ無駄な事して遊んでると思うけどなぁ。
あとね、お風呂は大切なんだよ。血行も良くなるし、気持ちもリフレッシュするし。」
「今までそんなこと言わなかったもん。」
「あ~。お風呂は贅沢品だからねぇ。時間も贅沢に使うし。我慢してたのはあるよ。」
「レイさんも、レイさんの<しょうかん>を利用する人はお金持ちだって言ってた。」
「そうだねぇ。そこまでじゃないけど、貴族の人達じゃないと、なかなか温かいお湯でお風呂に入っている人は居ないかもね。」
「おねえちゃんは、貴族なんだからいいんでしょ?」
「そういうものでも無いと思うけどね。皆がお風呂を使うのが普通に出来るようになれば、私も毎日お風呂に入ってもいいかな。」
「それは遠い世界のサーガのお話?」
「うん。そうかも。でも、今日だけは贅沢してもいいよね?」
「うん!」
軽く朝ごはんを食べてから、レイさんの所を訪問することにした。
ーーーー
「レイさん、お風呂使わせて貰ってもいい?」
「ヒカリさん、おはようございます。お風呂ですか?」
「何か不味いかな。」
「いえいえ。ヒカリさんにしては珍しいですよね。初めてじゃないですか?」
「あ~。いつもピュアで済ませてたからね。ユッカちゃんと二人で入りたいんだけど。」
「では、娼館の子に案内と備品の説明、入浴の手伝いをさせますね。」
「お願いします」
廊下を案内されて、部屋の入り口で靴を脱いで、足を洗ってから、板張りの床のある部屋に入る。
ビジネスホテルなんかより大きい、四つ星クラスのツインルームぐらいの部屋の広さがあって、ベッドとかマットとかあるよ。一応、ベッドにはマットレスとかないからね。木のベッドに布が掛けてあるだけ。
「ヒカリ様、ユッカ様、レイ様より申し遣っております。入浴とマッサージで宜しいでしょうか?」
「あ、はい。お願いします。」
インド南部で流行ってるアーユルベーダとかと同じみたい。
先ずは、体を軽くマッサージして、オイルを全身に擦り込む。
次に顔に油をタラタラ垂らす。髪とかべちょべちょ。
それが終わったら、今度はミストサウナ。薬草が敷いてある部屋のミスト。
どれもこれも、贅沢に薬草が使われてるんだけど、どっからもってきてるんだか。
関所の娼館はウンディーネのハーブもあるし、裏に森もあったけど、
上手く工夫してるのかな?
汗を一通り流し終わったら、今度はお風呂。
大人二人が同時入れるぐらい大き目のお風呂なのね。
そりゃ、ここが娼館なら当たり前か。いろいろ楽しめないとね。
簡易ビジネスホテルにあるユニットバスとかだと足も伸ばせないしね。
なんか、子供にも影響が無いハーブ類が使われてるとかで、
ちゃんと気を遣ってくれてる。
ユッカちゃんと二人で裸になって、ツルツルとかツンツンとか体触って擽りっこしたりして楽しむ。
そんなことしてたらお湯も冷めるし、体も冷めちゃうけど、今日はお湯も時間も贅沢に使おう。ユッカちゃんも楽しんでくれてるみたいだしね。
ハーブの効果とお湯の効果、ユッカちゃんとのお遊びもあって、とてもリラックスできた。髪の毛はピュアの応用で乾かして終わり。水分を良く吸う贅沢なタオルも無いし、ドライヤーなんか無いからね。
娼館の人が服と髪を整えてくれて、それでお終い。
「レイさん、ありがと!この娼館は凄いねぇ~!」
「木造なのと、ハーブマッサージと融合しているので、関所に比べて高級感はございません。」
「その分、リーズナブルなお値段なのでしょ?」
「そうですね。使用してるハーブ類も一部は長老さんから頂いたものを使用せざるを得ませんが、あとはミラニアやトロニアから購入できるもので賄っています。」
「そっか、いろいろ工夫してくれてありがとうね。一般的なお客さんも使えるのかな?」
「今のところ解放していません。何か、資金繰りに問題でもあるのでしょうか?」
「ううん。そういうことじゃなくて、架橋と治水工事が終わって、ここを閉鎖するんじゃもったいないかなって。」
「ここはヒカリさんの第二の関所になるのですよね。でしたら、ここに支店を出しても良いでしょうか?」
「え?」
「もう、皆様が興奮気味で話をしてくれましたよ。<あれは神だ>とかなんとか。」
「レイは信じてないよね?」
「信じていませんが、素晴らしいことだと思います。」
「ありがと。みんなのおかげなんだよ。私は偶々お神輿としてのっかてるだけだよ。」
「お神輿ってなんですか?」
「ああ、お祭りの開催者みたいなもんだね。みんなが参加して楽しんでくれないと、私は意味無いでしょ?」
「ヒカリさんを中心に据えて、皆が協力している姿は見ていて楽しいですね。お祭りという表現がよく合っています。」
「レイも重要な参加者じゃん?」
「いえいえ、私など皆様に比べたら・・・。」
「謙遜はいいよ。それで、あと2-3ヶ月で安定した状態になると思う。その安定した後で、レイさんは娼館経営をどう進める?引退して、レミさんと一緒に暮らしても貰っても良いけど。」
「ヒカリさんから頂いたものを大事に使いたいですね。私にとって、とても大事な出会いだし、人生の宝物としておきたいです。」
「う~ん。そっか。そういってくれると、私としても有難いよ。ただね?人って、いろいろな環境や経験で考えも変わると思うんだ。そのときに別の判断や考えになっても構わないから。そのときは別途相談ってことでいいかな?」
「はい。」
「じゃ、今のところ関所とここの娼館経営は任せる。大臣3人のところから物や人も貰えることになるから、ミラニアとかトロニアで支店を出すなら言ってね。領主交代だし、緊縮財政になるから、雇用も確保してあげたいんだよ。」
「承知しました。ここの工事計画と合わせて、独立採算で経営できる目処が立つように進めさせていただきます。」
「うん。ありがとね。」
娼館経営は問題なさそうだし、ここの拠点は直ぐに解体できなさそうかな。
とすると、街なり村の規模で運営していく必要があるのか・・・。
ーーーー
拠点をウロウロして、トレモロさんを探し出す。
「トレモロさん、お客様をお待たせしまして、大変申し訳ございませんでした。言い訳ではございますが、身嗜みを整えてからご挨拶に伺いました。」
「ヒカリさん、フランクな会話で良いでしょうか?」
「あ、はい。すみません。それの方が楽です。」
「いやいや、昨日の進行は大したものでしたよ。台本があるのでしょうか?」
「いえ。それぞれの人の思いがありますので、基本的にはその場で対応させて頂きました。思い描いている結果はありましたが、状況に応じて多少の修正はさせて頂きました。」
「なるほど。ステラ様から伺ってますが、<戦争をしたくない>のですね?」
「争いによって、無用な被害が出ることは控えたいと考えています。戦争に勝ってもその後の復興が遅れるのでは、勝っても嬉しくないですから。」
「エスティア国王も不満を持たれていたようですが、あのような裁定で良かったのですか?国を丸ごと購入できたと思いますよ。」
「結局、その国を統治できないと、問題ばかり大きくて自由な時間が取れなくなるかなと。トレモロさんも自由人でいらっしゃれば、時間の大切さをご理解頂けるかと。」
「ヒカリさんは、王位にも爵位にも領地にも興味が無いのですね。」
「自由に行動できる権限は欲しいですね。けれどもそれ以上に管理ばかりに時間がとられるのであれば、余計な物は要りません。」
「では、今回の戦争はあくまで<自由を勝ち取ること>が目的でであったと。」
「そうです。やっと、船旅に出られそうです。」
「ヒカリさん、その件ですが・・・。」
「はい。アルバートさんとシルフから伺いました。精鋭の航海士が必要で、一ヶ月程度必要であると。あと、金貨6000枚ですね。何も知らずに申し訳ございませんでした。」
「ヒカリさんのお願いはなんとしても聞き届けたいのですが、何分、未航海大陸への出航となりますと、私としても精鋭を投入し、少しでも生還率を上げたいところです。金貨に関しましては、航海から戻ってきた積み荷を売り捌けば十分に対応可能ですので、そちらは心配要りません。」
「トレモロさん、幾つか質問というか相談をさせて頂いても良いですか?」
「何でしょうか?」
「航海術で方位を決めるって凄く重要なことだと思うんだけど、どうやってるんですか?」
「基本は太陽と星の位置から現在地を割り出しますが、時刻を分けるものがなく、また、陸地以外ですと、魔術師が召喚する妖精さんへ伺いもしにくいらしいのです。なので、十分な積み荷を用意して、一ヶ月進んで、一ヶ月戻って来るとか、大陸や島伝いに開拓するのがせいぜいです。」
「うん?海上を進んだ後、方角とかどうしてるの?」
「太陽の動きや星の動きと申した通りです。」
「嵐の夜とか、潮の流れで思うように方位が決まらないよね?」
「なので、生還率がとても低く、経験と勘で補います。」
「この私達が住んでいる地面が球体ってのはご存知ですか?」
「端まで行った人が居ないので、そのような仮説は判りません。」
うっ。そっからか。
どうしたもんだか・・・。
アリアとかステラ連れて来るかな?
「すみません。トレモロさんの科学に関する知識はどこで習得されたものでしょうか?」
「アカデミーの指導官、錬金術師、著名な宮廷魔術師などです。」
うん・・・。
切り出した以上、話を進めるかな。
「もし、常に北を示す道具があれば、とても便利だと思いませんか?」
「妖精を閉じこめるような秘術でしょうか?ステラ様なら出来そうですね。」
「ステラは妖精を飼い始めたから出来るかもね。」
「やはりそうでしたか。」
「いや、ごめん。そうじゃなくてね。
ここに、常に北を示す針があるの。赤く色を付けた側が北を向いてるよ。」
「別に、赤い針があっても、動かさなければ、同じ方向を向きますよね」
「うん、でも、こうやってぐるぐる回っても、器を南北逆にしても、針の赤い方向は常にさっきから一定の方角に戻って来るよね。」
「ひ、ひかりさん!」
「なに?」
「これは、鉱物の妖精が入った魔術でしょうか!」
「いや、これは科学でさ・・・。
ちょっと試しに、地図をもって、飛竜と一緒に飛んでみようよ。」
何が何やら判らないトレモロさんを無理やり実証実験に付き合わせる。
飛竜のタカさんに載せて貰って、ミラニア川からトロニア方面まで。
今度はロメリア王宮の方を経由して、それからミラニア川に沿って戻ってきた。
「ね?地図と飛竜と一緒に飛んだけど、針はいつも北を指していたでしょ?」
「ヒカリさん、これは何か小さな魔石が仕込んである魔道器なのでしょうか?」
「純粋に科学の産物だね。」
「高価なものでしょうね・・・。私が手に入れるのは何年掛かるか・・・。」
「そうでもないよ。金貨10枚も掛からない。ちょっと材料が手に入り難いぐらい。」
「ヒカリさん?」
「なに?」
「私にその材料が手に入らない物を見せつけて、何をされたいのですか?」
「え?」
「それがあれば、地図の精度も航路の開拓も成功率が全然変わりますよ。」
「あ、そうそう。それを共有したかったんだけどさ。」
「共有といいますと?」
「この<方位磁針>を船に付けておけば便利だよねってことを。」
「今度の航海で使われるのですか?」
「私は使わなくても良いけど、使って地図作っておくと、次回からトレモロさん達が自分たちで航路を切り拓けるよね?」
「ヒカリさん、航海士が不要と仰りたいのでしたら、そう言ってください。」
「いやいや、違うの、違うの。船の操舵とかできないし、帆の張り方とか分かんないから。岩礁にのりあげない工夫とか、そういうのも全然分かんないのね。だから助けが必要なの。」
「操舵技術が主たる仕事でしたら、10日ほど前に帰ってきた航海士達でも十分に対応できます。」
「そっか、そっか。じゃ、この<方位磁針>を役立てて、地図とか新航路の開拓も進められるってこと?」
「私も同行させて頂ければ大丈夫です。」
「やっぱ、トレモロさん級じゃないと難しいのかな・・・。」
「いえ、私自身がこの機会を逃す訳には行きません。」
「あ~。変な事がいっぱい起こるけど良いかな?」
「昨日の模擬戦や戦争の終結方法より変な事はありません。」
「あれはさ・・・。」
「たまたまなのでしょうか?」
「作戦勝ちで、準備してた範囲だからねぇ・・・。」
「<普通の範囲>であると?」
「う~ん・・・。例えばさ、この子、見える?」
ちょっと、意識して私に懐いている光の妖精さんを、トレモロさんに挨拶をさせてみる。
「ヒカリさん、これはサーガなんかで見かける<妖精の長>でしょうか?強力な存在であれば、人の目にも映るようになると聞いたことがあります。それどころか人語を解して、会話も出来るとか。」
「この子、私の子なんだけどさ。」
「いや。それはちょっと・・・。ステラ様が言うなら分かりますが。」
「ステラも5人ぐらい居るよ。」
「ヒカリさん、何を言っているか全然判りません。」
「うん。私も何を言いたいのか全然分かってないよ。」
「ヒカリさん、私は誰と何の会話をしてるのでしょうか?」
「うん。フウマにもそうやって、よく怒られる。ステラが良き理解者で助かるよ。」
「ヒカリさん、ヒカリ様とお呼びしても宜しいでしょうか?」
「ダメ。というか、こういうのに慣れないとダメなんだよ・・・。」
「慣れます。努力しますので、航海に私も連れて行ってください。」
「うん。仲間の一人として一緒に協力してくれるなら、是非同行してください。」
「ハイ!」
なんだ、なんだ。なんなんだ・・・。
望遠鏡の話とか、水や風を出す印を持ち込む話とかしたかったのにさ。
方位磁針と光の妖精さんでお終いだよ。
飛竜と会話してるとか、妖精の長がゴロゴロ居るとかどうしよう・・・。
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




