3-85.橋を架けよう(21)
今度こそ、空気搬送用の石板作成をしたいけど、
やっぱり助っ人が欲しいなぁ。
「レミ、ちょっといいかな?」
「ヒカリ様、何か御用でしょうか。何なりとお申しつけくだださい。」
「あ~。畏まらなくていいよ。敬語使われると面倒だから。
でね?用事ってのは、獣人族の人達がラナちゃんのナイフを使えるか聞きたかったの。」
「はい。使える者と使えない者がおります。どうも、魔術に長けてる人物ほど、長く使い続けていられるようです。」
「なるほど。レミはどうなの?」
「私はサッパリです。」
「え?」
「これまで、魔術というものを習うことをせずに生きてきましたので、その辺りの感覚がないのでしょう。」
「<獣人族の長>として、いろいろ困らない?<加護の印>とか施すのにさ。」
「何のことか、お話を伺っても良ろしいですか?」
「え?」
「いえいえ。判らないのは私の方です。」
「私の額の印とか見えるんだよね?」
「素敵な紋章が描いてありますよね。多くの人には見えないのだとか。」
「これを描いてくれた人達ってさ、その族長クラスでさ。何て言うか、単純な武力だけじゃなくて、魔法もそれなりに使いこなせるんだよ。だから、こういった特別な印も描いて貰えてる訳で。」
「それが、私と何か関係がありますか?」
「レミが獣人族の族長として王位につくなら、今度はレミが<加護の印>を与える立場になるでしょ。」
「え?」
「レミでも驚くんだ。」
「私はヒカリ様と出会うまで、必死に生きていたし、突っ張り続けていました。ヒカリ様に出会って、ちっぽけな自分に気付いて以来、全てを受け入れるように心がけています。なので、あまり驚かなくはなっていたのですが・・・・。」
「レイと会ったときも、あまり驚いている様子がなかったもんね。」
「生きていればいつか会える状況ですから、そんなに驚く必要もありませんでした。ただ、試験を受けさせられているのかと、かなり緊張はしていましたけど。」
「あれはごめんね。レイとは付き合いが長くて、いろいろ慎重な判断ができる人って分かっていたけど、レミとは無理やり奴隷として買い取った感じだったからさ。でも、レミもちゃんと冷静に判断して行動できて、素晴らしいと思ったよ。」
「お褒めに預かり光栄です。」
「私が褒めたからって、なんにも良いこと無いよ。<加護の印>のが、まだ意味があるよ。」
「私は単に王位を継ぐだけでなく、<獣人族の長>として、適切に<加護の印>を与えられるようにならないといけないのですね。」
「何が適切なのか判らないけど、<お友達の印>みたいなもんだよ。私が『頂戴』って言ったら、『役にも立たないけど、いいよ』って、みんながくれたんだもん。」
「ヒカリ様、もし私が<加護の印>を描けるようになったら、<友の証>として受け取って頂けますか?」
「え?」
「お嫌ですか?」
「ううん。別に・・・。」
「何か問題があるのでしょうか?」
「私は<加護の印>が見えるからさ、どこに描いて貰おうかなとか、可愛いのがいいなとか考えただけ。」
「でしたら、ヒカリ様も<加護の印>が描けるのですね?私も欲しいです。」
「あ、いや。描いたこと無い。描ける気がしない。描こうとも思わない。」
「何でですか。」
「私は人族の長でもないし、たまたま<見える能力だけ>を貰ったみたいでさ。」
「それは残念ですね・・・。」
「うんうん。レミが可愛いの描いてくれるなら頂戴ね。」
「王族全滅してるので、誰に習えばいいのでしょうか?」
「ここならラナちゃんかな。一緒に聞いてみる?」
「もしよろしければ、お願いします。」
ーーーー
「ラナちゃん、今、お話できる時間はありますか?」
「お菓子があるならいいわよ。」
「あ、え、あ・・・。作ってきます。レミさんとお話しててください。」
「良い心がけね。トレモロってのから砂糖を貢がせたんですってね。ちゃんと皆に配分しないといけないわね。」
「あ、あれはステラの脅しが効いて・・・。何か好きなお菓子はありますか?」
「クッキー」
「判りました。直ぐに作ってきます。」
クッキー、クッキーっと。
簡単な注文でよかった。
保管さえ良ければ日持ちもするし、皆にも配り易いしね。
ちゃちゃっと作って、直ぐに合流だ。
「ただいま戻りました。こちらクッキーです。冷めてからだと、カリカリ感がでて良いです。」
「ヒカリは魔術が使えるのに気が利かないわね。」
「直ちに!」
冷却と風で、さっと冷やして完成させる。
いろいろと大変だ。
でも、王族相手だとしたら、こういう気遣いが重要なんだろうね。
だからこそ、私のステラへの態度がトレモロさんを怒らせちゃったんだね。
今更勉強になるよ。
「ヒカリ、何かしら?」
「レミさんが<加護の印>を描けるよになれる方法はあるか、相談に参りました。」
「簡単よ。先ずは魔術ランク7になりなさい。」
「ラナちゃん、ステラやユッカちゃんですら、まだ魔術ランク6です。」
「なら、魔術ランク6でいいわ。最後の一押しは何とでもなるのよ。」
「そうですか。ではレミ、魔術ランク6までがんばってください。」
「ヒカリ様、何をいってるか判らないです。」
「レミ、無詠唱で水が出せればランク4だよ。」
「<むえいしょう>が何か判らないです。」
「魔術を使うのに、印を結んだり、呪文を唱えずに魔術を実現すること。」
「何もしないのに魔術ができたら危険です。」
「ちゃんと、<魔術が成功しろ!>って考えると、魔術ができるの。」
「そんな訳は無い。高名な魔術師、執事、宮廷魔術師など、全員印を結ぶか呪文を唱えている。ラナちゃんのナイフを使ってる人も『切れろ』とか、呟いている。断言できる。」
「あ、レミ、焦ってる?敬語がとれたよ。」
「ヒカリと話すと混乱する。敬語を使うのは無理だ。」
「レミは何か人に出来ない得意なこととか、不思議に思われたことってないの?」
「血管が見える。」
「なにそれ?」
「獲物の解体時に血管の位置が分かるから、血を流さずに解体ができる。」
「知ってるんじゃなくて、見て、それを避けることができるってこと?」
「皆には不思議がられるが、見えるものは仕方ない。」
「それって、何か考えて、見ようとしてたりしない?」
「今は何も考えずに、作業しようと思うだけで見える。クジラは初めてで、久しぶりに<見えろ>って念じた。」
「レミ、それが魔術なんだよ。」
「そんな魔術は聞いたことがない。」
「まぁ、いいや。上手く行くよ。<お願いの仕方>だけ判れば十分だ。ステラに手伝って貰おう。そのままちょっと待っててね。」
<<ステラ、今どこ?>>
<<服飾店の夫婦と交流会をしていますわ。何か御用でしょうか?>>
<<今、いつもの部屋でラナちゃんとレミさんと一緒なんだけど、手が離せない状況?>>
<<一旦片付けてから行きますわ。お茶の準備をお願いしても良いかしら?>>
<<クッキーはあるよ。よろしくね~>>
「レミ、来てくれるって。」
「ヒカリ、何がだ。」
「ステラがだよ」
「どうしてステラがここに来るのが判るのか?」
「『すぐ行くから、お茶を準備していて欲しい』って。」
「ヒカリは、ワザとやってるな?」
「理屈じゃないもん。信じられたら、魔術も使えるようになるもん」
「分かった。信じる。ステラ様のお茶を入れて待とう。」
「レミは、よく他人が言うことを平気で信じられるね。」
「ヒカリ、あのな? いや、いい。お茶を入れる。『レミ、お茶を入れよう』って、言う気だったろ?」
「あ、凄い凄い!よく分かったね。」
「凄くない。私ならそう言うからだ。人にモノを教えるときも、『信じろ』と、教えることがある。だから信じる。」
「じゃ、お茶入れて待とうか。ラナちゃんはどうする?」
「ヒカリは何故聞くの?『冷めた残りを飲んでろ』とでも、思ったのかしら?」
「失礼しました。直ちに!」
二人で四人分のお茶お入れつつ、ステラが来るのを待つ。
割と直ぐに来てくれた。まだ、お茶が冷めなくて良かったよ。
「ヒカリさん、どういったご用件でしょうか?」
「レミが魔術を習いたいんだって。」
「ヒカリが覚えろって言ったんだ。私はどうでも良い。」
「ヒカリさん、どういうことですの?」
「『レミが王位についたら、<加護の印>を使えた方がいいね。』って話から、レミが魔術を習ったことが無いことが発覚したの。透視して血管の在り処とか判るから、あとはコツだけだと思うんだよね。ちなみに、魔術ランク6まで上げてくれれば、あとはラナちゃんが教えてくれるって。」
「レミさん、血管の透視をするときは、何か呟いたり、指とかで印を結んだりしてますか?」
「ステラ様、私が小さい頃は、口に出して唱えていました。それが周囲から笑われたり、不思議がられるので、あるときからは頭の中で念じて、そのまま目に投影されるのを見ながら作業するようになりました。」
「ヒカリさん。レミさんは既に魔術ランク5ぐらいありますわ。あとは念話が通せれば、魔術ランク6になるのかしら?」
「そうなんだ。ステラにせっかく来てもらったのに、教えることは無いか。」
「ですわ。」
「ステラ様、私は魔術の初心者ゆえ、もう少し基礎から教えて頂く訳には行かないでしょうか。例えば、水を出したり、火を付けたりです。」
「う~ん。ヒカリさん、そんな時間ありますか?」
「ラナちゃんのナイフで石板が掘れれば即戦力。水や火は要らない。」
「でしたら、<念話>を通してもらって、そのコツが掴めれば、ラナちゃんのナイフは簡単に使えると思いますわ。」
「じゃ、そっちでいこう。」
「ヒカリ、<加護の印>の話はどこいった?その<即戦力>とは、何に対してだ。」
「レミ、細かいことは気にしないでいいよ。素晴らしい先生が二人も居るんだから、出来るだけ吸収して、あとは自分で訓練しながら身に着けるしかないよ。」
「ステラ様、ヒカリの言うことは正しいのでしょうか?」
「う~ん。『魔術は訓練して身に着ける』という考えは正しいわ。
覚える優先順位が何になるかは、その人によって違うの。
ラナちゃんがいるうちに、<念話>は覚えておかないと、私やヒカリさんでは、レミさんの<加護の印>について、助けられないので、そこの優先順位は高いと思いますわ。」
「ヒカリ、信じていいんだな?」
「レミ、ステラが言うんだから間違いないよ。<念話>を習得しようよ。」
「わかった。ところで、<ねんわ>とは何だ?」
「ステラが来てくれたでしょ?<念話>で会話したからだよ。」
「絶対に嘘だ。信じない。声も出さずに会話なんかできる訳が無い。たまたまお茶をする時間が判っていたに違いない。」
「その考えを言うのが普通の人なら正しいよ。でも、レミだって、『血管を透視するんなんて出来る訳が無い』って、思われてたんでしょ?」
「そうだ。だが、これは話が違う。二人とも見知らぬ場所で会話ができるのはオカシイ」
「声は空気が震えて耳に届くの。<念話>は、エーテルが相手の脳へ直接届くの。耳とか塞いでても会話が出来るんだよ。」
「なら、試してもいいか?」
「いいよ。何する?」
「私がヒカリの耳を塞ぐ。そして、ステラ様に話しかける。ステラ様は私が喋った内容をヒカリに伝えて頂いても宜しいでしょうか。」
「私はいいよ。ステラ、協力してくれる?」
「判りましたわ。」
アリアより、なんか雑な試し方だね。
ステラが口パクとか手振りで私にサインを送れば、
耳なんか聞こえなくても、伝わると思うんだけどさ。
ま、いいや。
レミが私の後ろに立って、私の耳を塞ぐ。
で、ステラから直ぐに念話が届く。
<<『ほら見ろ。既に会話してるぞ。判るなら返事してみろ』ですわ>>
「レミ、何?返事したよ。」
<<『ステラが適当に合図を送ってるだけだ。目もつぶってみろ』ですわ>>
「分かった。目を瞑るよ。」
<<『ほら、これで合図が送れないだろ。ギブアップしろ』ですわ>>
「ギブアップって、なにさ?ちゃんと念話で会話できてるんだからさ。」
すると、レミが私の耳から手をどけた。
「もう目を開けていい。何か判らないが会話が出来たのを認める。その奇妙な会話方法を私が身に着ける必要はあるのか?」
「少なくとも、<加護の印>を施すには、習得する必要があるよ。」
「ステラ様、どうか私に<念話>の魔術を教えて頂けますでしょうか。」
「簡単ですわ。
最初に話したい相手のことを考えて、
次に伝えたい内容を頭の中で考えて、
ぎゅ~~~ってして、とどけ~って。
それだけですわ。そのうち、適当に普通に会話できるようになりますわ。」
<<ヒカリ、ヒカリ、騙してるな。ステラ様がこんなこと言うのは何か仕掛けがある。ヒカリ、ヒカリ・・・。>>
<<レミ、届いてる。大丈夫>>
「な、なにっ?」
「折角だから、そのまま念話で返事すれば良かったのに。」
「出来たのか?」
「出来たよ。」
「ヒカリ、レミに、<飛竜の血>を与えなさい。それが簡単だから。それで<加護の印>のデザインを決めて、描く練習をするだけよ。」
「レミ、そういうことで宜しく。」
「ヒカリ、練習はどうするんだ?」
「例えば、単純な作業でも、心を無にして、ひたすら繰り返してるうちに、突然何かが頭に思い浮かぶことってあるんだよ。そういう環境に身を置いてみるのはどうかな?
魔術を繰り返し使えば、魔力も上がって来るしね。」
「わ、わかった。」
よ~~し!
これで2000枚の石板を一人で掘らなくて済むね。
それに獣人が居ればご飯もお肉食べ放題だよ!
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




