3-81.橋を架けよう(17)
用もないのに、ナポルの街に行くことに。
ステラの試料調達に役立つなら、手伝うけどね。
「イワノフ、ごめん。今日も出かけても良いかな?」
「ヒカリ様、おはようございます。工事は順調です。天候にも恵まれているので、明日ぐらいには、初期の粘土が固まり始めて、次の段階に移れます。」
「何か問題無い?奴隷さん達が言うことを聞かないとか。」
「全くありません。緊急事態があったら、連絡をいれさせて頂きます。」
「今日はステラも加わって、4人で行動するよ。何かあったら、アルさんかラナちゃんに言ってね。」
「承知しました。」
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「門番さん、おはよ~」
「おや、昨日は野宿したってことかい?それに、今日は美人のエルフもご一緒なのかい?」
「うん。昨日の残りとか片付けに来た。」
「3人は構わないけど、そこのエルフの分は<通行証>が必要になるよ。」
「ステラ、<通行証>ある?」
「ありませんわ。ヒカリさんの奴隷扱いで入れて貰ってください。」
「この人、私の奴隷。いくらで入れる?」
「銀貨一枚だ。でも、お嬢さんのネーミングセンスには恐れ入るね。女性の奴隷エルフにあの<ステラ>の名前を付けるとか、本人が聞いたらお嬢さんこの世から消えちゃうかもよ?」
「ステラ、実は昔にそんなことしてるの?」
「してませんわ。噂が勝手に独り歩きしてるんですわ。」
「そっか。門番さん大丈夫みたいだよ。」
「ハハハ。本人が目の前に居なければ、なんとでも言えるよ。くれぐれも気を付けてな。」
「「ハイ」」
腰の小さな革袋から、銀貨一枚を取り出して門番さんに渡して通してもらう。
昨日は<通行証>の試験のクリアが目的で街中を適当に移動しちゃったから、メイン通りと市場以外、良く判んないんだよね。
メディチ家へ行くならステラに案内してもらうのがいいね。
「ステラ、<万事屋>と<メディチ家>どっちから行こう?」
「メディチ家で良いと思いますわ。ギルド長がいらっしゃらなかったら、話がグダグダになって、ヒカリさんの機嫌が悪くなりますわ。」
「そっか。じゃ、そうしよう。」
中央広場を西に抜けて、高台のある方へと30分ぐらい進む。
商店を構えているなら街中が便利なんだろうけど、侯爵までくるとちゃんと見晴らしの良い高台に住居を構えた方が、治安も良いのだろうね。
ここは景色もいいし、港町全体が見渡せるから、なかなか都合がいい場所だね。
でもさ?
柵はあるけど、木造なんだよね。
小屋もあるけど、うちの関所と変わらない。
侯爵様のパーティーとか開けないと思うよ。
なんか、柵の中で庭で畑をいじってる40歳ぐらいのおじさんが一人いるね。
私も時間ができたら、ああいうのやってみたいんだよ。
自分で作った収穫物は美味しいからね。
で、ステラがその庭いじりをしてるおじさんに声を掛ける。
「トレモロさん、こんにちは。」
「おやおや?ひょっとしてステラ様でしょうか?」
「はい、お久しぶりですわ。」
「お元気でしたか?立ち話はなんですので、狭いところですがお上がりください。」
関所の待合室みたいな作り。
華美な装飾も無く、とても質素で最低限のモノしか置いてない。
ひょっとして、使用人用の小屋にあがりこんでる?
「ステラ様が訪問されるとは、ただ事ではございませんな?お茶でも飲みながらご用件を伺っても宜しいでしょうか?」
「ええ。とある筋から、<丸太の強引な買い取り>と<岩キノコの独占>を聞きまして、どういう状況なのかなと思いました。」
「ステラ様、それは耳が早いというか、ギルド長しか知らない情報ですな。何か問題がありましたか?」
「丸太の方は、<通行証>の試験に使いたかったらしく、それが突然紛失してしまって、少々困惑されたようです。」
「素晴らしい木材が門番前にあるとのことでしたので、二人で持ち主を確認していたところ、ギルド長が売ってくれることになりました。
先約がいらっしゃったものだったのですかね?大型船のマストなどは、ああいった継ぐ必要の無い、筋の通った丸太がとても重宝するのですが、残念ですね。その方には失礼したとお伝えください。今日中に返却の手続きを進めます。」
「いえいえ。事情が分かれば大丈夫です。『突然消えた』という状況の様でしたので。」
「ギルド長が『明後日には会えるはずだ。戻ってきたら事情を話す』と、言っていたもので、それを勝手に信じてしまいました。もし、ステラ様のお知り合いでしたら、少しでも口添え頂ければと思います。」
「とすると、ギルド長はトレモロさんがお困りだったので、直ぐにでもと気を回しただけでしょうか?」
「先週、大航海から戻った船がありますが、その補修を直ぐにでも進めたい事情があり、ギルド長と丸太調達の依頼について相談をしていたところだったのです。
たまたま<岩キノコ>と<砂糖>で相談があるとのことで、話をしていたら<丸太>の情報が入りまして、ギルド長の言葉を鵜呑みにしてしまい、ご迷惑をおかけしました。」
「ヒカリさん、丸太の件は納得いきましたか?」
「ステラに任せるよ。手間賃はここのお茶が美味しいからそれでいいや。」
トレモロさんが、ギロって厳しい目でこっちを睨みつける。
な、なにさ。ちょっと怖いけど、怖くないフリするもんね。
丸太をとられたのはこっちだし、悪くないもんね!
あ、クロ先生が警戒のオーラだしてる。
クロ先生だけじゃなくて、ユッカちゃんまでトレモロさんを睨んでる。
なんか、険悪なムードになってきたよ。
私の発言が原因なの?
てか、ステラ、この人は執事か何かじゃなくて、メディチ家の当主そのものなんじゃないのかい?
だったら、紹介してくれればいいのに。
「それでは、<岩キノコ>の話に移らせて貰っても宜しいでしょうか?」
「ステラ様、その話は、ひょっとして、<革袋一杯の岩キノコ>の件でしょうか?」
「それだと思いますわ。」
「当方も、ステラ様が貴重な素材として管理していたのを存じ上げてますので、なんとか、これを入手できないかと、そしてステラ様と連絡がとれないかと悩んでいたところでした。」
「それ一杯で最近の相場だと、どれくらいになるのかしら?」
「この話を持ち込んだギルド長が言うには、<全て砂糖に替えろ>との要請があったらしく、それだけの砂糖が用意できず、途方に暮れていました。」
「今回の航海で砂糖が手に入らなかったのですか?」
「樽2本の仕入れです。重さは樽2本で500㎏ほどでしょうか。これでは足りません。」
「おねえちゃん、さとうだよ、さとう!」
「ユッカちゃん、ちょっと待っててね。」
「ヒカリさん、どうしましょう?」
「ステラが決めていいよ。昨日買って帰ったし。たくさんあっても蟻が湧くよ。」
また、トレモロさんがこっちを険悪な視線でジロジロ見る。
私が喋るのが不味いのかな?
なんか、気分悪い。
「あの、ステラ様、大変失礼かとは思いますが、お連れの方達を紹介して頂くわけにはいきませんか?」
「ああ、失礼しましたわ。こちら、ヒカリさん、ユッカちゃん、クロ先生です。
ヒカリさん、こちらトレモロ・メディチ侯爵です。」
「初めまして。ヒカリ・ハミルトンと申します。よろしくお願いします」
「ヒカリさん、何か機嫌悪くないですか?」
「だって、そこのおじさんがこっちをジロジロ見るからでしょ?」
「ヒカリさんが、私のことをステラって呼び捨てにするからですわ。」
「だって、ステラはステラでしょ?」
「貴族の間では、アルシウス卿とかステラ様でしたので。ちょっと、感覚がずれてるのでしょうね。」
「私のせい?」
「どちらかというと、私のせいですわ。」
「もう、面倒だから、ステラが欲しい分だけ<岩キノコ>採って帰ろうよ。ここに居ても面白くないよ。」
「ヒカリさん、もうちょっとだけ待っててもらっても良いですか?」
「ちょっとね。お茶が無くなったら帰るよ。」
「わかりましたわ。」
ステラが厳しい表情でトレモロさんに切り出す。
「トレモロさん、私の主が不機嫌ですので、話をまとめたいと思います。
1.丸太は無償で引き取りください。
2.そこにある<岩キノコ>は全て差し上げます。交換の砂糖も不要です。また、私へ連絡・送付いただかなくても結構です。
以上ですが、宜しいでしょうか。」
「ステラ様、何を差し上げれば、今後ともこの地を見守って頂けるのでしょうか?」
「ヒカリさん、何か欲しいものありますか?何でも貰えるらしいですわ。」
「ステラが決めなよ。私は帰るよ。」
「ということで、今後一切我々に関わって頂く必要はありませんわ。」
「ステラ厳しいね。トレモロさんが涙目になってるよ?」
「ヒカリさんを不機嫌にさせるからですわ。」
「ステラを怒らせると怖いね。」
「ヒカリさんが不機嫌の方が私は怖いですわ」
「私はここで何にもしてないよ?試験受けただけじゃん?」
「私も何もしてないですわ。<岩キノコ>を利用した風土病の治療薬を与え、<妖精との契約>によって、風土病の原因となる風の流入が無い様に、この街に妖精の加護を授けてもらっているだけですわ。」
「ステラが怒ると、とんでもないことにならない?」
「嫌がらせで<妖精との契約>を解除するぐらいですわ。その上で、エルフの秘薬を供給しないとかぐらいですわ。」
「それするの?」
「ヒカリさんが不機嫌のまま帰るなら、そうしますわ。」
「わ、わ、わ、分かった。機嫌直す。許してあげて。」
「トレモロさん、ヒカリさんが話を聞いてくれるそうですわ」
なんだか、えらいことなっちゃったね。
お茶でももらって、お茶を濁して帰ろうかな・・・。
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




